4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)1
起きた時、俺はベッドの上に寝ていた。
だが、一目でわかる。ここは俺の部屋じゃない。
顔を真っ赤にして帰った三春もこの部屋に来ることはない。
何故なら彼女は、この世界に存在しないのだから。
いや、生きているのかもしれない。彼女の生死は、この世界の俺も認知していなかった。
どんなに手放したくないと望んでも、寝れば彼女の居ない世界がそこに広がっている。
「起きたのね?」
ベッドの周りを囲んでいた黒ずんだ白いカーテンが、いきなり開かれる。そこに立っていたのは珈琲を持った白衣の女性だった。
「あらあら、随分顔色が悪いのね」
「おはよう、吉乃姉……」
思わず口に出してしまった言葉にハッとして慌てて口を塞ぐが、既に手遅れだった。
彼女は満面の笑みをこちらに近付けていた。
「やっと呼んでくれたのね、誠くん!」
「いや、違っ、これは……」
「いいのいいの、倒れた後に大好きなお姉ちゃんの顔見たら安心しちゃうよね~」
「そんなんじゃないっつうの!!」
勢いよく投げた枕をひらりと避ける吉乃さんの表情はニヤニヤしており、彼女は十分程俺をからかって楽しそうにしていた。
「まぁ、誠くんをからかうのもこれくらいにして……昨日はいったい何が起こったの?」
怒鳴り散らして息切れになった俺へ向けて、吉乃さんはいきなり真剣な表情で訊いてきた。
「……どういうことです?」
訳がわからずそう聞き返すが、彼女は深刻そうな表情を見せた。
「消えた女の子を追ってどこかに消えたってことで皆で捜索したんだけどね。ようやく見つけたと思ったら誠くんが東棟の屋上で気を失ってたの。近くに拳銃も落ちてて、大島隊長達はもしかしたら鳥獣型のゾンビに襲われてたのかもしれないと言ってたわ。一応、不明のまま殺処分にしたくないというのが過半数の意見でね。というか、殺処分派は救援要請を出した子達だけだったけどね」
「……そうなんですね……ありがとうございます」
そう言ってベッドを抜けようとすると、吉乃さんは懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出し、こちらに向けてきた。
「……どういうことです?」
その拳銃は俺ので、その行為も正直言って意味不明だった。
「言ったでしょう? 貴方は感染の疑いがあるの。もちろん私はそんなこと絶対にないって、誠くんがゾンビ相手に遅れをとるはずがないって信じてるけど……他の人が全員そうって訳じゃないの」
彼女は俯き、拳銃を下ろした。
「今の時間が六時……見つけた時間は発見が遅れたのもあってちょうど日付けが変わった頃……この意味わかるでしょ?」
「……拘束ですか……」
「そういうことよ。今は寝てるけど、夜通しここで誠くんを見ていた涼太君と私がちゃんとここに居てあげるから、昼までは我慢してちょうだい……」
「……わかりました……」
俺は内心色々と言いたいことはあったが、ここで反感を買ってよい結果は得られないと早々に理解して、再び背中をベッドにつけた。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。




