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4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(前)2


 いつものように学校に着いた俺は、駆け足で自分の教室に着き、勢いよく扉を開けた。

 そして、中にいた者達からの視線を一斉に浴びながら教室の中を確認し、俺はその席の前まで歩き、彼女の前に立つ。

「話がある」

 こちらを見上げてくる胡蝶玲奈に向かってそう言うと、彼女はゆっくりと席を立った。


 この時間、屋上は誰にも使われていない。

 ホームルームの予鈴が鳴るものの、互いに言葉を切り出すことはない。

 そして、大きな呼吸を一つ挟んでから、俺は彼女の目を見てその言葉を告げた。

「付き合わせて悪いけど……今日はお前を授業に出すつもりはない」

 俺の言葉を聞いた瞬間、彼女はその表情に不敵な笑みを形作った。

「どうやら信じてもらえたようだね?」

 その言葉を聞いて、当たってほしくなかった憶測が確信に変わった。

「お前が何者か……まずはちゃんと聞かせてほしい」

 そう言うと、彼女は前回と違って首を縦に振った。


 ◆ ◆ ◆


 彼女の正体、それは遠い未来から来た未来人という話だったが、彼女の話によると、正確には精神生命体と呼ばれる肉体を持たない存在らしい。

 自我があり、肉体を捨てた遠き未来の人間であり、この世界に訪れたのはこの世界が誤った道に向かっているからとのこと。

 いくつもの枝分かれに分岐した未来において、この世界で起こった何かが他の未来にも影響を及ぼし、世界は滅びそうになっていた。その為、彼女の上司はこの世界の人間を操って原因を究明し、その種が芽吹く前に、その原因を排除しろという命令を彼女に下した。

 そして、彼女は未来の技術を用いて、特異点と成りうる存在を探すことにしたそうだ。

 それが『デイドリームプロジェクト』という、対象に白昼夢を見せ、三年後の滅びゆく世界とこの世界を夢で体験させるという実験だった。

 どちらも夢でありながら現実で、どちらかの世界で死ねば、もう片方の世界でも死んでしまうという危険のつきまとう実験なうえ、誰が実験の被験者かわからないという欠点はあるものの、その被験者を見つけることが出来れば、事件に関しての重大な手掛かりを掴むことが出来るという画期的な実験だった。

 俺は彼女にどうやって被験者かどうかを見分けるのかと聞くと、彼女は被験者には実験の影響で脳に超音波のようなものが発生し、彼女の持つ未来の道具がそれを探知するのだそうだ。

 ただ、見れる範囲は広くない為、日夜全国を探し回り、一年の月日をかけてようやく俺にたどり着いたんだそうだ。


「……要するに、俺を見つけた数日前まで手掛かりはなく、最近頻繁に起こるようになった頭痛の原因はあんたが近付いたからって訳か……」

 手すりに背を預けながら空を仰ぐ俺は、彼女にそう訊いた。

「その通りだ。だが、君に近付いた以上、その道具に頼る必要はなくなった。これからは不自然な頭痛に襲われることはないだろう」

 その言葉の通り、俺はもう頭痛を感じなくなっていた。

「なるほど……確かにな。ところで、あんたが説明中に彼女の器に入ったと言っていたが、彼女も俺と同じで三年後の世界と今を行き来出来るのか?」

「その回答は否だ。この器に精神を移動しているのは我々だけだが、彼女の体自体は三年後と今の時代のものだ」

「その体の持ち主は?」

「三年後の世界にて了承はとっている。生を渇望してはいたものの、戦闘力は皆無。彼女が君達の呼ぶゾンビと呼ばれる存在に殺されるのは時間の問題だった。だが、彼女は助けてくれと望んだ為、その望み通り我々は窮地の彼女を助けた。そして、彼女に交渉を持ちかけ、我々は彼女を器として利用することにした。当然殺してはいない。彼女の精神は我々が大事に保管している」

「それなら俺から文句は無いな。……ところで今の俺にはあっちの記憶がある。それはあっちの俺も同様か?」

「そうだ。我々が君に与えたあの手紙により、君の精神体は三年後の世界とリンクした。以後、我々がここにいる間は記憶の混在が発生すると思われる」

「……一応好都合なのか?」

「向こうで得た情報とこちらで得た情報を忘れないという状態は我々にとっては好ましいと言える。世界滅亡の時間が迫っている以上、同じ説明をする時間は時間の無駄と言う他ない」

「それもそうか……ちなみにあっちの世界で植物状態になっていた理由と脱走の理由を知りたいな」

「その理由を説明するには、まず我々が一人しかいないという現状を理解してもらわねばならない。我々は、自らのことを我々とは言っているが、複数体居るわけではない。我々は我々のことを我々と呼び、我々の……」

「ちょっと待って! 我々がゲシュタルト崩壊起こしそうだから簡潔に言ってくんない?」

 一瞬、彼女は心底呆れたとでも言いたげな視線をむけ、露骨な溜め息を吐いた後、言い直した。

「……我々は一人だ。だが、彼女の体は三年後と今の世界に二つ存在する。その為、我々の精神体が片方の体で生活すればもう片方の体は動かすことが出来ない。目覚めて脱走した理由に関しては簡単だ。君の素性や背後関係を全て調べる必要があった。その結果、信用に値する人物と判断した為、君に話す覚悟が出来た。脱走という強行的な手段を使用したことで君達に迷惑をかけたことはここで謝罪しよう。申し訳なかった」

 そう言うと、彼女は深々と頭を下げた。

 感情がこもっているいないはこの際どうでもいい。時間の無い彼女にとって拘束されて時間をとられることは避けたかったのだろうと容易に想像出来たからだ。

「……わかった。俺も口裏を合わせるとしよう」

「そうしてもらえると助かる。あちらの世界の我々はあまり他人に姿を見せるつもりがない。我々の存在を彼らに教えることは避けてほしい」

「ふ~ん。それで? 俺は何をすればいいんだ?」

 そう訊いた瞬間、彼女は何故か静かに首を振った。

「……君は何もする必要はない」

 その言葉は、先程までと同じ淡白過ぎる言い方だった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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