4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(前)1
「うわぁああああああああああ!!!」
思わず大声を張り上げてしまう程の衝撃が自分を襲う。
「……夢じゃないんだ……この世界も……三年後のあの世界も……全部……全部ッッ!!!」
ドタドタという音が部屋の外から聞こえ、勢いよく部屋の扉が開かれた。
「大丈夫、誠!!」
そこに居たのは制服にエプロン姿の三春で、彼女は調理中だったのかお玉を持っている。
過呼吸に陥っていた俺はその姿を見て、一筋の涙が流れた。
「ちょっ!? 本当に大丈夫なの!?」
三春は心配そうに駆け寄ってきて、俺のベッドの傍らまで来てくれた。そんな彼女に、俺は感極まって抱きつき、そのまま泣き喚いてしまった。
「ふぇっ!? 誠!? 本当に何があったのよ!?」
最初は戸惑っていた様子の三春も、俺のただならぬ様子を見て、突き放すどころか、優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ……私がついてるから……」
そう言いながら彼女は、泣きつく俺の頭を何度も何度も優しく撫でた。
泣き疲れてなんとか落ち着いた俺は、三春が作ってくれた朝食を黙々と食べながら、ふと思った。
「……そういやなんでうちにいるの?」
「今更!?」
泣き疲れたからか、俺の声は思った以上に元気がなかった。それに対して彼女は今日もいつも通りの彼女だ。
いや、いつも通りに振る舞ってくれているだけなのだろう。
「いや〜昨日は誠ん家に行けなかったし、お話もお父さんとばっかりだったでしょ? だから今日はいっぱいお話したいな〜と思ってさ」
「そうなんだ……」
正直気まずいというのが本音だ。
あんな大泣きしているところを片想いの相手に見られただけでなく、まさか泣きついてしまうとは……正直合わせる顔がない。
いやまぁ、彼女の温もりを感じられて嬉しかったけどさ……正気に戻った時の気恥ずかしさといったら……なんかもう……凄く死にたくなった。
三春は俺の泣いた件に深くは突っ込まなかった。いつものように昨日起こったどうでもいいような話を楽しそうにしてくれる。ただ、それだけのことなのに、俺はそれがいつもよりも幸せな気分になれた。
「もうそろそろ俺も準備しないと……」
時計を見れば七時半を過ぎており、俺は彼女に向かってそう伝える。すると、彼女も俺の見ていた掛け時計を見て、大きな溜め息を吐いた。
「あ〜あ……もう学校行かないといけない時間かぁ……時間過ぎるの早すぎー」
残念そうに言う彼女を見て、俺は小さく笑った。
「そういえばさ、今日おじさんは? こんな朝早くに同級生男子の家に行くの反対しなかった?」
「最近は何も言ってこないよ? 今は実験段階で忙しいらしくて、なんか完成したら知らせるから、その日になったら研究所へ来なさいって言われた」
「へぇ……あの人がそんなこと言うなんて……よっぽど凄い実験なのか?」
それは、いつものおじさんらしくないと感じた。
俺達が子どもだった頃はおばさんが忙しい時に渋々連れていってもらってた感じだった。むしろ、暴れまわるから本当は連れていきたくなかったと愚痴っていたくらいだ。
「てか誠……本当に大丈夫?」
「……何が?」
部屋に戻ろうとした俺に声をかけてきた三春の方に顔を向けると、彼女は深刻そうな表情を俺に向けていた。
「……今日も例のゾンビの夢を見たんでしょ? ……やっぱりどっかちゃんとした病院で見てもらった方が……」
「大丈夫」
「え?」
「……とは言えないけど、絶対に会わなきゃいけない人がいる。だから学校には行くよ……」
俺は呆気にとられている彼女にそう伝え、部屋に戻った。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。




