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3話:恋文を、彼へと出した、その者は、世の理を、壊す者なり(後)3


 頭が割れるように痛い。そんな状況下でありながら、俺は自分の意識がはっきりしているのを感じた。

 不思議な気分ではあったものの、そこに全ての意識が向かない程、彼女の存在感は大きかった。

「こっちでは何気に初めまして、かな?」

 彼女の表情は笑顔だったものの不思議と警戒心は解けなかった。

「……お前は何者だ?」

 右手がホルスターのカバーを外す。相手が敵意を見せてきた瞬間、いつでも発砲するつもりだった。

 だが、彼女は慌てるでもなく、こう告げた。

「待ちたまえ。我々に攻撃する意思はない。また、敵対する意思もない。だが、攻撃してきた場合は容赦しない」

 その言葉が冗談で無いことはその目でわかった。それだけに、攻撃は得策では無いということが伝わってくる。

 話し合いが出来るのであれば、俺も話し合いの方がいい。

 俺は拳銃に伸ばしていた手をフリーにした。

「賢明な判断だ。さて、我々が何者であるかの質問についてだが、君達の言語で説明するとなると、長い時間がかかる。時間制限がある以上、得策ではないだろう」

「……それは説明したくないということか?」

 その言葉に彼女は首を振った。

「我々の取った行動の弁解を君の上司に報告する義務があるのではないか? そうなると、ここに居られる時間は限られる。よって得策ではないと判断した」

「……まぁ、一理あるな……」

「理解が早くて助かる。とはいえ、得体の知れない存在の情報を信じることが難しいということは我々も重々理解している。説明はまたの機会に行うとして、簡単に我々のことを表すのであれば、そうだな……未来人と称すのが適切と言えるだろう」

「…………は? 未来人?」

 その言葉はさすがに無視出来なかった。

「正確に言うならば、時空を超越し、あらゆる時間軸に行くことの出来る存在だ。ここから先は長くなるため今は言えない。だが、これだけは言わせてほしい。このままだと、この世界はそう遠くない未来に滅びる。我々はそれを止める為に来た」

 その言葉に対して言いたいことは山程あった。

 頭おかしいんじゃないかとか、厨二病乙と言うことも考えたが、目の前の存在を前にして、その考えは消えた。

「……滅びるってのも間違いじゃないんだろうな……この世界に住んでて思えることなんて……その日を生き抜けるかどうかが大半だし……」

「そうだろうな。だが、この世界を救う方法が無い訳ではない。いや、この世界をやり直すことすら可能とも言えよう」

「……やり直す?」

 そのあり得ないとも言える言葉に、彼女は頷いた。

「そう、この世界に君達がゾンビと呼ぶ存在が現れたのは本来の世界線とは違う結果に過ぎない。そして、君の協力があれば元の世界線に戻せるかもしれない」

「……俺の協力? 俺にそんな力は……」

「ある!」

 俺の言葉を食い気味に否定した彼女は、俺に向かって勢いよく指を差した。

「君が夢で見る三年前の世界とこの世界は実現している。我々もこの二日で確信した! 君は世界の運命を一身に背負った特異点であり、この世界の最後の希望なんだ!」

 言われている言葉に実感が沸かなかった。

 夢で見たあの世界は所詮夢で、この世界は紛れもない現実のはずだ。それがどっちも現実?

 そんなふざけた話がいったいどこにあるっていうんだ。

 だいたいそれが本当として、なんで俺なんだ?

 偶然か必然かは知らないが、俺に出来ることなんて銃でゾンビの頭を撃ち抜くくらいだ。

 そんな俺が世界を救う最後の希望?

(……まさに夢物語だな)

 俺がそんなことを考えていると、彼女はいきなり自分のローブに手を突っ込んだ。

 その姿を見て、自分が無警戒だったことを思い知らされる。

 慌てて銃を引き抜き、彼女に向ける。

 だが、彼女はにやりと笑うだけで、慌てた様子を見せない。

「まぁ待て。別になにかしようという訳ではない。ただ、君に見せたいものがあってな。銃を受けるのはそれを見てからにしたまえ」

 そして、彼女はローブから手を引っこ抜いた。その手には、一通の手紙があった。

 そして、それは何故か()()()()()()()

 いつの間にか距離を一瞬で詰めていた彼女は、その手紙を驚く俺に手渡そうとしていた。

 彼女からは敵意も殺意も一切感じない。だが、不思議と警戒を解くことは出来なかった。

 俺は拳銃を持っていない左手でその手紙を受け取る。

 そして、彼女に目を向けた。

 彼女は不気味な微笑みを俺に向けた。

「読んでみるといい」

 その言葉は、俺に読む以外の選択肢を与えなかった。

 震える右手が拳銃を落とす。それにも気付かず、俺は震えた手でそのハートマークのシールを剥がして中の手紙を取り出した。

 中にはこう書かれていた。


『夕刻十六時に屋上で待つ。その身に降りかかる命運を振り払いたくば、覚悟を持ちて参られよ』


 その文を読み終えた瞬間、俺は心臓が激しく鼓動するのを感じた。息も荒くなり、額には脂汗が流れ始める。そして、強烈な頭痛に襲われた。

 暗転していく意識の中で、はっきりと少女の声が聞こえた。


「次は三年前の世界で会おう」


 その言葉を最後に、俺の意識は闇ヘ誘われた。

 そして、俺が次に目を覚ましたのは、廃校になった学校の屋上などではなく、夢で見た自分の部屋の中だった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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