世界想像
世界が終わる。なんで終わる?
地震。大地が割れる。
津波、大雨。すべてが沈む。
隕石。あらゆる物が破壊される。
伝染病。人々が息絶える。
世界が終わる。終わる世界を想像してしまった。
その日もなんの変哲もない平和な世界で一日が終わるはずだった。
昨日は雨を降らせたので今日は小雨を降らせて。傘をさしている人もいればささない人もいる。合羽を着た子供は楽しそうに駆け回って。
小鳥はさえずり、犬も駆け、猫は欠伸をして人は笑う。
予定通りの事件が起こらぬ一日のはずであった。
しかし、それは起こった。
「世界が終わった……」
「ヤバい! 引っ張られた……」
「なにしてんだオイ! 今すぐ落ち着け」
我々の仕事は世界を創造することである。我々が想像したことがそのまま世界に反映され、世界の流れがまた我々にも影響を及ぼす。
我々の仕事はそれだけなので、そしてそれだけに世界がかかっているのであらゆる情報はシャットアウトされる。自らが生み出した世界だけを観測し、世界に必要な物があれば想像し、必要がなければ想像しない。
そんな世界想像をしているくせにその世界を終わらせるなんて。そいつはどんな顔をしているんだ。
「ちょ、誰だ俺の顔を想像したやつは!」
「そんなことは良いから打開策を探るぞ! 我々はずっとそうしてきたのだから」
我々はいわば世界の創造主である。
創造主であるがかつて人間だと想像されてしまったからか、自分達の世界想像も不具合だらけである。
それを毎回、問題として提起し、解決策を出してきたがそれもまた諸刃の剣だ。
問題を共有するということは自分の世界にもその問題が起きるのだから。しかし最終的には解決策が出るのだから問題はないのか。
「世界が終わっていく者はそれぞれ報告しろ!」
「地震だ!」
「世界が沈む!」
「隕石が降ってきた!」
「治療不可能の伝染病だ!」
「くそ! 全部が起きたぞ!」
阿鼻叫喚である。
これではまるでそれぞれの世界が繋がっているようで……」
「ああ、世界が広がったぞ……なにが起こったんだ?」
「世界と世界が繋がった。全部が一度に起きてる!」
他の創造主の世界はこうなっていたのか。なんて状況も関係なく考えてしまう。
私では想像もつかないような世界が広がっていて、これは私の世界にも活かせるかもしれない。それもこの世界が終わっていく――崩壊を食い止めてからの話である。
その瞬間、世界が端から崩れ始めた。
逃げ惑う人々。建物は崩れ、落ちたそばから塵となって虚空へ消える。また一人。また一人と消えて行く。
足が悪い人もいれば体調が悪そうな人もいる。諦めて祈る人や転んで絶望する人。
動物たちはただ世界の崩壊から逃れようと駆けているのだが、人間は色々な表情をするからおもしろい。
他にはどんな顔をするのだろうか。
「とりあえず崩壊が起こっている場所、異常が起きている場所を切り取ろう!」
そんなとりあえずの策で大丈夫なのか。
余裕をもって切り取り、崩壊が始まっている世界すらも丸ごと消失させる。
さっきまで起きていた地震は止まり、地割れは埋められる。
大雨は止み、津波は落ち着き、沈みかけていた町は再び空気を得る。
降ってきたいくつもの隕石は消失。
伝染病にはワクチンが。
「……終わったか?」
いつかの創作物にあったが、そういう言葉はフラグと呼ばれているそうだ。
怪物を退治した時にそれを口走ったらまだ生きていたりする。終わったと思った時は終わっていないのだ。
そのフラグが正しかったと証明するように、再び世界の崩壊が始まる。
フラグとやらを創造してしまった。
「もう駄目だ……。ここまで来たら終わりだよ……」
「すでに世界の三割は終わってしまった」
「計算をするな! それに駄目だと思ったら本当に駄目になる」
三割も終わっているならこんな話をしている間に四割にまで増えているだろうな、なんて想像するとその通りになってしまう。
創造主が駄目だと思えばその通り駄目な創造主になってしまう。
そんなやつならいない方がマシだ。
「せっかく世界が一つになったんならそれを活かそう。対処も楽になるはずだ」
「だが止めようにも原因のわからないこの崩壊は止めようがないぞ。なにが起きているのかわかりやすい分、さっきまでの災害の方が気が楽だった……」
「馬鹿……」
再び災害が発生する。
竜巻に、火山の噴火。雷。そして正体不明の化け物が人々を食い漁っている。
「誰だこんな化け物を創造したやつは。……俺には思いつかないぞ」
「それがお前の限界だよ」
「やめろ」
得意気な声が諫められる。
ワクチンが開発されたのにウイルスが変容した。噴火を鎮めたのに堪え切れなかったかのように別の場所が爆発。雲が晴れて大雨も竜巻も雷も治まったと思えば、噴煙が雲となって再び荒れる。
誰かが事態を治めればそれが失敗する。
隕石を破壊するためのミサイルは化け物に発射台ごと壊される。
そう想像したからそうなったのだろう。
しかし限界。これが我々の限界なのかもしれない。
「もうこの世界は終わりかもな……」
「我々の想像力ではこの世界は救えない」
そんな会話の間に世界は崩壊していく。
食い止めようと世界の中の人々は努力しているがまったく実を結ばない。それが成功する想像を誰もしていないからだ。
少しでも遅らせようとか、そんな想像すら我々はしていない。
もう想像することを放棄してしまっているのだ。
「想像力の限界が世界限界、か……」
「一人が抑えようとしても誰かが邪魔をする。一つの世界をみんなでどうこうするなんて無茶だったんだ……」
「もう意思を統一するしかない」
「統一?」
もうこの世界は終わりだ。一度世界を消して新たに世界を創造するしかない。
世界の崩壊が加速する。
しかし世界を一度消してまた創造するなんて初めての経験だ。私が今いるこの場所は大丈夫なのか。そういえばここがどこかはわからない。
もしかしてこの場所も崩壊していくこの世界のどこかにあるのだとしたら――
FF14やってて「想像力の限界が世界の限界」という台詞がかっこよかったので書いちゃいました。
パッチ5.4でモンク上方修正祝。