佐藤ちゃんマジ天使
ジリリリリリと耳障りな音が鳴り響く。全身に寒気を感じて気持ち悪くなってトイレへ走ると吐いた、僕は全てを覚えている。
携帯電話を開くと結衣から連絡が来ている。
『起きてる?』
『おーい』
『そろそろやばいぞー。ちこくだぞー』
朝でも反応が無い僕の為に結衣が連絡をくれた。
『起きた』
そう返して、僕は連絡先の一覧を開く……誰でもいい、目に留まったのは佐藤ちゃん。
『今日は休む。ダメそう』
そう書いて僕は横になる。あぁ……僕は人を確かに殺した。それ以上に殺された。もう、いいよね。疲れたや。何故か分からないけど体が震える。呼吸が乱れて何度も咳き込む。全身が寒気に襲われて僕は気が付くと眠っていた。
ピンポーンと家中に鳴り響く音で僕は目が覚めた。だれか来たのか……瞼を擦りながら扉を開けると同期が立っていた。
「こんにちは」
「佐藤ちゃん? どしたの」
「それはこっちのセリフだと思います……けど、佐倉くん風邪でも引いたんですか?」
「いや、そうじゃないけど……立ち話もなんだから入って」
そう言って僕は佐藤ちゃんを家に招いた。ソファーに座って貰い僕はコーラしかなかったので缶を差し出す。
「佐倉くんのオフって感じで新鮮ですね。ところで、私が来たのは部長に言われて来ました。佐倉くんの様子を見て来いって」
「あー、ごめん。体調がさ、悪くてさ」
「顔色が悪いですね。昨日も遅くまで残業をしていたそうじゃないですか。私にも仕事を振っていいんですよ?」
昨日……昨日が何時なのか分からなくなっているが、そうだな。確かに、僕は残業ばっかりしてた気がする。
「大丈夫だよ。仕事のせいじゃないんだけど……もう疲れちゃった」
「疲れた。佐倉くんらしくないですね。でも、いいんじゃないですか? 休んでも」
「そうだよねー。いいよねー」
僕はソファーに座る佐藤ちゃんなんて気にせず床に寝っ転がった。何もやる気が無い。いっそ死にたい。
「佐倉くん? 私はスカートですよ?」
「ん……あぁ、ごめん。気にしてなかった」
「ひらひら~」
「パンツ丸見えなので止めてください」
こんな子だったっけ……。
「男の子は布一枚で元気になるとか聞きました」
「あー、佐藤ちゃんなりに励ましていたんだね。ありがと……」
「明日はお仕事にこれそうですか?」
「もう辞めようかな」
「佐倉くん重症ですね」
佐藤ちゃんはソファーから立ち上がると僕の前でしゃがみこむ。
「お仕事嫌いになっちゃいましたか?」
「ううん。嫌いじゃないよ。でも疲れたって言うか家から出たくないというか」
「なら、リモートならどうですか? 家で仕事が出来ますよ? VPNを繋げば専用回線でセキュリティも大丈夫かもしれません」
リモート……僕は思い出す。たしか、満は偶然だけど僕に会ってから世界に色が付いたとか言ってたな。なら、満に会わなければ安全じゃないか? リモート――家でお仕事をしていれば大丈夫だ。もしかして、良い案かも。
「佐倉くんの顔が明るくなってきましたね。やっぱりパンツには凄い力があるみたいです」
「ずーっと丸見えだけど……結構可愛い下着だね。じゃなくて、リモートは良いね。でも、部長は許してくれるかな」
「皆には内緒ですけど……実は父なんです。佐藤部長」
ちち? ちち……苗字が一緒だと思っていたんだけど。まさか、血縁関係があったのか。
「あと、佐倉くんは頼りになるので私も困ったら相談したいし……リモートなら顔が見えないだけでお仕事も一緒に出来ますし」
女神は近くに居た。勝利の女神だ。
「佐藤ちゃんが僕の幼馴染だったら幸せだったな」
「佐倉くんはオフだとダメダメな人みたいですね。でも、そういう所もギャップ萌えと言いますか? 可愛いと思いますよ」
「僕も佐藤ちゃんは可愛いと思う」
紫のフレームが輝いて見える。殆ど下着に釘付けだが、佐藤ちゃんが来てくれて本当に良かった。
「では、父に相談します。佐倉くんが引き籠りになるけど私の為にリモートでお仕事したいと」
「間違っては無いけど。僕も佐藤ちゃんの不思議な一面を知れて良かったよ」
ビシッと親指を立てて佐藤ちゃんが立ち上がった。
「あ、男の人は下着が欲しいと言いますし、脱ぎましょうか?」
「僕も佐藤ちゃんの無防備って言うかな? そういう一面が見えて嬉しいけど心配になるよ」
「そうですか。では、失礼しますね」
佐藤ちゃんはテーブルに飴玉を置くとカバンを持って会社に帰って行った。
その後、部長とも話をして在宅ワークが認められた。うちの会社としては初の試みだけど、上手く行ってると思う。事例が無いからこそ、結果だけは常に出さなきゃ。佐藤ちゃんの心遣いは裏切りたくない。
僕は携帯電話を取り出すと結衣に連絡を入れる。
『これから通常業務を家でやることになったんだけど、準備とか色々あるから少しだけ会えないかも。会社の人が来るから落ち着いたらまた連絡するね』
結衣と満には面識がある。僕が何かを言って二人に不信感は与えたくないので、結衣の職場には近づかないでおこう。今まで出会わなかったのは完全に偶然で運が良かっただけだ。
ベッドで寝ている最中に呼び鈴が鳴り確認すると先輩がやってきた。
「悠真の顔が今日は死んでるな」
「先輩は元気そうですね」
「俺はいつも元気だぞ? 佐藤からは『少し元気になる魔法を使ったので佐倉くんが元気になりました』と聞いていたんだが……もっと酷かったのか?」
魔法ってパンツかな。飴玉かな。
「僕は濃い数日を過ごしていて疲れてしまいました」
「若いと色々あるからな。いや、歳をとっても色々あるんだぞ? 仕事から帰って娘に近づいて臭いなんて言われたら死にたくなるからな?」
「先輩も苦労してるんですね。あの可愛いハンカチはセンスいいっすよ」
眉をひそめる先輩がそこには居た。
「まさか……見たのか?」
あぁ、僕は結衣に別れを告げられて泣きに泣いて先輩からハンカチを初めて見せてもらうんだったっけ。
「ちらっと見えたんですよ。可愛いハンカチで娘さんからですよね?」
「そうなんだよー。娘がくれたら使うだろ? ってか、汚したくないから使えないよなぁ」
そんなハンカチを僕に貸してくれる……この先輩が上司で良かった。
「あ、そうそう。リモートだったよな。まぁ、遠隔地の先陣というか。切り開け!」
「雑談しに来たと思ったんですけど機材を持ってきてくれていたんですね。ありがとうございます」
佐藤ちゃん仕事が早い。彼女が帰ってから僕は眠って今何時だ? 時計を探したが僕はゴミ箱に放り込んでいたので携帯電話で確認すると定時過ぎだった。
「で、何処に環境作る?」
「ここの机でお願いします」
頼りになる先輩が環境構築を手伝ってくれた。僕一人でも出来るけど……この人が居た方が早い。
「接続テストな。佐藤にメールと通話が通るか確認してみ」
「もしかして、佐藤ちゃん待機してるんですか? 定時過ぎですよ?」
「佐倉くんの為ならとか言ってた気がしなくもない。このモテ野郎が」
僕はヘッドセットを付けて佐藤ちゃんと通話を繋いだ。その後にカメラも見れるか確認すると順調だったのでお礼を言う。会議にウェブ参加……まさか僕自身がする時が来るなんて想像もしてなかった。
「よっし。俺は帰るぜ? 娘が待ってるからな」
「先輩が幸せそうで羨ましい」
「ふっ、頑張れ若者」
そして、在宅ワークを初めて一年経った。




