舌なめずり
僕達は二人でキリンを眺めながら歩いていた。
「まさか、悠真と動物園を回れるなんてね。びっくりしちゃった」
「僕もここで満に会えるとは思わなかったよ。アレから元気?」
長い首の割に器用に水を飲むキリンを眺めている。大変そうだ。
「私は元気だよ。それより、本当に結衣先生を帰して良かったの? 家に送ってあげるとかさ」
「大丈夫。大丈夫だよ。そのまま用事を済ますはずだから。むしろ、僕が居たら邪魔かもしれない」
「ふーん」
満が普通で思いのほか拍子抜けだ。
「悠真に会えて良かった。小さい頃の学校で動物園に行ったのが最後だよね? 悠真と見るのはさ」
「んー。だな、大きくなって二人で色々と行ったけど動物園は無かったね」
「今日は楽しい一日になりそうで私は嬉しい」
笑顔で過ごす幼馴染との時間。二人でキリンを見た後に小動物コーナーに向う、ふれあい広場という看板が立っていてどうやら触る事が出来るみたい。
「ウサギさんがいるね」
「触る?」
満は笑顔で飼育員さんの元に駆け寄り僕に向かって手を振って招いている。近づくと真っ白で耳が真っすぐ後ろを向いており、目が紅いウサギを店員さんが抱きかかえて満に手渡す。
「ウサギさんって震えてるね」
「満が触ってるから?」
「それってどういう意味かなぁ?」
僕はウサギを撫でると大人しく撫でられ続けていた。嫌がることも無く満の腕に収まっている……何処か他の子より震えている速度が速いのは気のせいだと思う。
「チンチラとかハリネズミも居るんだね」
「ハリネズミさんって可愛いよね」
「臆病だった気がする……手袋を付けるんだけどもぞもぞ動いて落としそうになった……」
「悠真が嫌われてるんだよー」
この幼馴染は……まぁ、いいや。満はウサギを抱いて色々な角度から見ていた。写真を撮ってって言われて僕は満の携帯でウサギを撮る。すると、ウサギとセットであたしを撮ってと言われた。
「はいはい。撮るよー」
カシャリとシャッター音が鳴り響く。
「ありがとー」
「どう?」
「悠真にしては良く取れてるね」
「なら良かった」
ウサギを飼育員さんに返して僕達は入念に手を洗う。その後に爬虫類コーナーに行くと大きな蜘蛛やトカゲを二人で眺める。満は特に苦手な様子もなくでっかいねぇーと感心していた。
「きゃー、蜘蛛怖い! とか言ったら可愛いのに」
「え? きゃー! くもこわい!」
「もう遅い」
「そういうのはもう少し早く言いなよ」
「先に言うと面白くない」
そんな話をしながら僕達は動物園を一緒に出た。さて、どうしよう。
「満はこの後に予定とかあるの?」
「無いよー。帰ってゴロゴロするくらいかな?」
「満の家に久々に行っていいかな? 一緒にさ」
僕の提案を渋い顔をしながら断る。そりゃ、あの部屋を今見られるのは都合が悪いのかな。
「悠真の家に行く? あ、結衣先生に悪いよね」
「大丈夫だよ。幼馴染の一人や二人来ても許してくれるさ」
「悠真の幼馴染は私だけだと思う」
二人で電車に乗ると僕の最寄り駅に向かう。道中も心臓の鼓動が変な気がするが……きっと気のせいだ。無言の電車の中で僕はどうやって満を殺すのか考えていた。首を絞める? 僕が後ろからやれば成功するかもしれない。暫く考えていると一つの答えに辿り着いた。僕は刺されて死んでいたんだ。同じように突き刺そう。
「あ、次の駅だよ」
「へぇー、悠真はここに住んでたんだね。アレから悠真の住んでる所も知らないし」
「そうだったね」
僕が逃げる様に家を出て音信不通のまま二年が過ぎている。もちろん、連絡先さえ消しているので連絡の取りようが無かった。それがたまたま会社の近く――コンビニで出会うなんて変な偶然だ。
「離れないでね。迷子になるよ」
僕がそう言うと手を握ってきた。否定する場面でも無いので僕は握り返して家に向かう。平日だけどもう少しでお夕飯時なので主婦や学生や社会人が駅には沢山いた。左右にクロスしたり逆走してしまったり人の流れは難しい。
「ふぅ、駅を抜けたね。この辺は人が多いんだね」
「この時間帯だしなー。あ、満はお腹とか減った?」
「大丈夫だよ。あと、悠真の事だから家に食料を隠してそうだしそれ食べる」
「無くはない。有るにはある」
「だと思った」
笑いながら僕の後をついて行く、小さなカバンを持っているけど流石に変な物は持っていないと思う。満が警戒する前に僕は殺す。僕の家に着くと、少し待っててと言って玄関で待たせた。その間に僕は枕の下に刃物を隠す。玄関に戻り扉を開けた。
「お待たせ」
「えっちな本でも隠してたのかな?」
「そんなもの持ってません。洗濯物とか隠しただけだよ」
お邪魔しますと言い僕の家にあがる。僕は後ろ手にドアの鍵を閉めた。
「ここが悠真の過ごしている家かぁ。あ、コーラ発見」
「探さないで大人しくしなさい」
「わかりましたー。ところで、どうして幼馴染を自分の家に招いたのかな?」
吟味するように僕を見ている。そりゃ、突然会って一緒に家へ連れ帰るのは変だ。
「久々に会いたかっただけだよ」
「本当? あたしもね。コンビニで久しぶりに会った時に思ったの! 悠真とまた会いたいなって」
ぱっと明るくなって荷物を置いた。そして、ソファーに掛けると満は語る。
「悠真の顔を見た時にね。懐かしいなって思ったんだけど、何て言うのかな? 世界に色が付くって感じ? 別れてから退屈だったんだよね。悠真もそうかな?」
僕としては一生会いたくなかったけど。相手が油断するなら話を合わせよう。
「まぁ、心配になってたし。気にはなったよ。髪の毛も短くなってるし似合ってるね」
「そう? 良かったー。悠真は髪の毛が長い方が好きだと思ってたからさ」
「否定はしないが、満のもありだね」
自分の髪を触りながら満が立ち上がり、僕の元に駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ。触ってみて? サラサラじゃない?」
「んー。そうだね。手触りも良い感じ」
「だよねだよね。ふふっ。あたしにも触らせて」
そう言って僕の髪の毛を触っては笑顔になる、無邪気な様子は変わらない。僕の髪を触る満に近づいてキスをした。
「びっくりした。悠真もしかして欲求不満? 結衣先生と上手く行ってないのかなぁ……あたしならいいよ?」
思っていた通り、満は僕を否定しない。そのまま後ろに手を回して抱きしめる満も抱きしめ返してくれた。とても気持ち悪い、今すぐ突き飛ばしてやりたいけど、まだ我慢。
「悠真が積極的」
「いい?」
「うん。いいよ」
僕はキスしながら寝室へと向かう。ベッドに押し倒して服をゆっくり脱がせる。満は恥ずかしそうに顔を隠して僕に言った。
「生……でも大丈夫だから」
「そう」
指で満に手を入れると喘ぎ声も煩い。ゲロ吐きそうだ。まだ我慢……僕はそのまま愛撫を続けた。
「そろそろ……お願い」
辛抱出来ない満が懇願するのを待っていた。僕は殺す決意を固めながら口を開く。
「ちょっと、目を瞑ってて」
「うん」
服に邪魔される事も無い、今なら僕は無防備の満を殺せる。殺そう。殺してやる。枕元に手を伸ばして刃物を握る。そして、目の前にいるゆっくりと待っている満のお腹目掛けて突き立てた。感触が気持ち悪くて今にも吐きそう……そのはずなのに。
「ゆう……ま?」
何が起きたのか理解出来て居ない満が目の前にいる、何をされたのか理解するのにもう少し掛かるだろう。僕自身も刺された時は痛みを感じなかった。
「くっ……あーっはっはっは。やったよ。やっと。あははははは」
今にも吐きそうだったのに何故か僕は笑っている。刺した先から溢れ出る液体を見ながら興奮している。自然と零れる笑いには達成感さえ感じる。
「やっっっと、満を殺せた。満? ごめんな。お前が死んでくれて嬉し」
「だめだよぉ。やる時は最後まで油断しちゃダメ」
「――あぁ?」
僕の突き刺した刃物を自分で抜いて僕に突き刺していた。抜いた事により、満からも大量に噴き出している。
「この後は、ちゃんと捻る所までやらなきゃ」
僕に突き刺した物をちから一杯捻っていた。そして、抜いた後は遠くに投げる。
「なぁんだ。悠真もあたしを求めてたんだよね? 嬉しいなぁ」
何を言ってるのか理解できない。僕の腹から溢れ出る血を見て視界が歪む、そんな僕を見て満が腕を伸ばして引き寄せる。満に抱きしめられて耳元で囁かれた。
「あたしはいいよ。悠真とずーっと一緒なら」
そう言って僕の首筋を十センチ以上、舌で舐める感覚だけを覚えている。意識が曖昧になる中で全身へ鳥肌が伝わる感覚は忘れられそうに無かった。




