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知らない天井

 僕は目が覚めると知らない天井が見えた。


 隣を見ると幼馴染の(みちる)が眠っている。ピンクの照明にコレってあれか……ラブホって奴か。


「起きろ(みちる)


「うーん。なぁに? 悠真(ゆうま)


 寝ぼけているのか満はとても眠そうで目がとろんって感じだった、今にも二度寝を始めそう。


「ここ何処だ? ってどうして僕は裸なの?」


「えー? 悠真覚えてないの? 昨日あんなに求め合ったのにぃ?」


 求め合う……ここはどうみてもラブホだよな……壁には要らないのに大きな鏡が張り付いている。ここで求め合う、どう考えても視界に入る。何処を見ても僕達は見えていたはずだ。後ろに居ても正面の鏡で相手の様子がまる分かりの部屋はとても異質に感じた。というか、おかしい。そんな事をしたなら僕は覚えていてもおかしくない。なのに何も覚えていない。


「もしかして、忘れてるの?」


「えっ、あぁ。そうだな。少し記憶が混濁しているみたいだ。」


「もー悠真はあたしが居ないと駄目なんだから」


 そう言って僕にキスをする。突然の事で僕は驚いてしまった、幸せそうな満の顔が目の前にある。口に当たる感触も柔らかいけど信じられないという気持ちが大きい。だって僕は彼女が居るのに二人でこんなところに? これが酔った勢いってやつか? そんな馬鹿な。


「どうしたの? 悠真びっくりしてる?」


 そう言って馬乗りになる彼女は僕を求める様に唇を重ねる。数分間、好きな様に口づけをし満足したのか満は僕に抱き着いて優しく抱きしめる。


「満?」


「なぁに? もっとして欲しいのかな~?」


 初めて見る満の姿に驚きを隠せないが……今はそうじゃない。


「満? 僕は少し混乱してるっていうか現状が分かって無いというかさ。今日は平日だよな?」


「へんなのぉ。今日は平日だよ? 明日はお休みでしょ?」


 仕事に行った記憶はある。確かにある……そこからどうしてこうなった? よく分からないな。どうして彼女が居る俺が満とここにいる? 満も仕事があるだろうし、俺に至っては確か予定があったと……思う。


「ごめん満。記憶が曖昧でさ、とりあえず離れてくれないか?」


「やだやだ~。もっとぎゅーってして?」


 猫撫で声で甘える満を初めて見た。本当に何があったんだろう……昔付き合ってた時はこんなに甘える事はなかったはずだ。付き合ってた頃を思い出すなんて変だな。ゆっくりと意識がはっきりしてきた。そうだよ俺には付き合ってる彼女が居て、こんな所を結衣(ゆい)に見られたらいい訳なんて出来ない。


「満? 僕達って随分前に別れたよね?」


「突然どうしたの? そんなの昔の話でしょ?」


 嘘偽りなく目を丸くして驚いている様にしか見えない。もしかして、俺が何か間違っているのかな。


「今日は二人の記念日だよね? 今日もお仕事よく頑張りましたってお迎えして、一緒に良いレストランでお食事したんだよ? その後に二人で初めてのホテル……ふふっ。あたし本当に幸せだよ?」


 確かに記憶がある。でも、一緒にご飯食べたのも結衣だったと思うんだけど……おかしい。


「悠真は幸せ? 二人でずーっと一緒だったよね? 小学校の頃も一緒に朝登校してさ! 覚えてる? 悠真が転んじゃって泣いてる所にあたしがすかさず駆け付けたの。その後、女の子の前で泣いている姿を見せたくないのか我慢してたよね? あの頃から悠真可愛いよ。あたしずっと好きだったんだもん。中等部は部活に専念してたよね? 剣道なんて選ぶの不思議に思ってたけど試合で頑張ってる姿もカッコよかったよ?」


「あぁ、覚えて……るよ」


 俺と満は腐れ縁って言うか、かなり長い間を一緒に過ごしていた。家も近所で物心ついた頃から一緒に遊んでいる。


「懐かしいね」


 ふふっと笑顔で僕を見ている。髪型が長髪だった記憶があるけど……ボブカットに変わって髪の毛の色が明るい金髪になっているのが気になった。満は黒髪の姿しか見た事ない……少なくとも僕の記憶には無い。


「満っていつ髪の毛染めたっけ?」


「髪の毛? あぁ、これね。どう? 可愛い? 似合ってる? あのね。あのね。悠真は明るい髪も好きかな? って思って今日染めたんだよ? まだ寝ぼけてるのかなぁ。今日お迎えした時から見てるよね? あ、あの時は帽子を被ってたし暗かったからすぐわからなかったっけ? でもでも、悠真お酒の呑み過ぎかな? とっても疲れてたから酔いが回っちゃった?」


 お酒何て飲んだっけ……確かに気持ち悪い記憶があるけどよく分からない。


「そんなに僕はお酒を呑んでたのかな?」


「うーん。そうだね。あたしが知ってる限りだと一番だと思うよ。もー、嫌な事あったの? 毎日お仕事お疲れ様」


「あぁ、うん。忙しかったからね」


 僕はそろそろ意を決して尋ねようと思う。よく分からないが現状を考えると僕は浮気をしている現行犯みたいだ。素直に結衣に謝ろうと思う。お酒のせいかもしれないが、事実は事実だ。


「満に話があるんだけどさ」


「えっ!? お話? もしかして……ふふっ」


 僕に抱き着いていた満は離れて隣に移動した。同じ枕を二人で共有するのは変な感覚だ。二人で寝る事さえ懐かしいはずなのに……移動した満は自分の両手を絡める様に組んでもじもじとしている。妙に薬指を弄っているように見えるのは気のせいだろうか。


結衣(ゆい)に連絡したいんだけど」


「待って」


 さっきまで輝いていた顔が急に別人かと思うほど暗くなった。緩やかに握っていた手にも力強さが見えるのは怒っているのか?


「ねぇ、悠真? 今はあたしと一緒にホテルで寝てるよね? ねぇ? ねぇ?」


 言い詰めるように僕に顔を近づけながら満が声のトーンが低いまま続ける。


「あたしと一緒に過ごしてるのに他の女の子のお話するの……変じゃないかなぁ?」


 次はとても明るい声で何より甘える声に変わる。この温度差に僕は生唾を飲み込んだ。


「満と過ごしているのは事実だけどさ。その……僕は結衣の所に行かないと」


 これ以上、何も言わせない為か満が口で僕の口を塞ぐ。僕は逃げようとしたけど腕を頭の後ろに回されて身動きが取れない。無理やり退かす事も出来るが、口の中を怪我する可能性を考えるとされるがままに耐えた。


「ねぇ。悠真はあたしが嫌い? あたしはこんなに好きだよ? 愛してるんだよ?」


「ごめん。満……本当にごめん。これ以上はダメ。ここを出よう?」


 僕は夜が遅くなっても連絡を入れよう。結衣に全てを伝えようと思う。むしろその想いが僕を焦らせるのを感じる、僕は早く結衣に会いたい。満には悪いけど、僕達はもう過去に終わったはずだ。


「悠真は結衣に会いたいんだね? そうなんだよね? もー、仕方ないなぁ」


 そう言って満は下着を着始めた。そして、手には刃物を握っている。


 刃物を……握っている? その刃物には何かがついていて僕は理解したくない。


「満? それってどうしたの?」


「これね。こうするんだよ」


 そう言って僕の胸に突き刺した。突然の出来事で何も分からない……ただ、目の前の満が満面の笑みで僕を見ている。


「これでね、悠真は誰にもあげないの。あたしだけの悠真なんだよ? 嬉しいよね? ずーっと一緒だよ?」


「何を言って、てか。これ、刺さってるよ。冗談だよね」


 まだ実感できない。僕の胸に突き刺さった刃物を現実の物だと思えなかった。だって、痛くな……。


「いてぇ、満? これ、やばい」


 ゆっくりと痛みが僕を襲う。刺された胸が熱くてゆっくりと僕が溢れていく。真っ白いシーツを染め上げていく。


「悠真? 泣いてるの? あたしがいるんだから、めっ! でしょ? 泣き止まないと男の子でしょ?」


 目の前の満が何を言ってるのか理解できない。視界が歪む……あぁ、やばいな。ぐらぐらと視界がくるっていく。


「あ、結衣先生にも会いたがってたよね? 本当はすぐそこに居るんだよ? まだ寝ないでね?」


 そう言って軽い足取りで満はベッドから飛び降りるとタンスを開けた。


 俺は理解した。そういう事か……ごめん結衣。


「そんなに嬉しかった? もー、あたし妬いちゃうよ。でもでも、結衣先生はもう喋らないし動かないから許してあげるね。あたしが結衣の代わりに悠真と一生の分だけ一緒に居てあげるからさ」


 そう言ってタンスを閉めて僕の隣に座り込む。


「愛してるよ。悠真」


 そう言った満の声を最後に僕の視界が真っ暗になった。

続きが気になった時点でブックマークしてよね

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