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ワールドレコード〜勇者と魔王〜  作者: 大沢たくや
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双子


薄暗い部屋の中心に一つの大きなベッドがある。

純白のシーツに二つの膨らみがあり、その一つが動き出す。

少女の声が部屋に響く。


「ねぇ、つぎのおしごとはなんだっけ?」


その質問に答える別の少女の声が部屋に響く。


「……ある世界のバランスを守る仕事」

「そうか、そうだったね!…って、それじゃあ、いつもとおなじじゃないかああ!」

「……うるさい。起きたら、まずは明かりを」


少女が手を挙げると、部屋が明るくなる。

ベッドの上には、黒色のシャツを着た赤髪の少女と白い肌を露わにした青髪の少女がいた。


「って!なんでいつもはだかなのおお!」


赤髪の少女が顔を赤く染めながら叫ぶ。


「……たがら、うるさい。寝る時くらい服を着なくてもいいでしょ?……できれば、普段も着たくない」


それを聞くとまた顔が赤くなる。


「いいから!ふくをきーー」


青髪の少女の豊満な胸が視界に入ってしまい途中で言葉を止めてしまう。

そして、自分のと比べて、溜息が漏れる。

同じ時間を過ごしてきたはずなのにどこで差が付いたのか


「……どうかした?」

「べ、べつに!なんでもない……!」


慌てて視線を逸らし、シーツで自分の胸元を隠す。


「……大丈夫。世界によっては小さい方が好まれる場合もある」

「ッ!!だから!きにしてないってええ!」


また、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「……ほら、身支度をしないと」


そう言うと青髪の少女はベッドから出て着替えを始める。

凹凸のある身体。何度も見たことがあるのに思わず見惚れてしまう。


「……なにしてるの?早く」

「う、うん!」


赤髪の少女も慌ててベッドから出て着替えを始める。

二人はフード付きの黒いローブに着替え、部屋を出る。

ブーツの音が廊下に鳴り響く。

廊下には灯りがあり、いくつもの同じ扉が並んでいる。

廊下を歩く青髪の少女の手の平から立方体の物体が現れる。

立方体の物体は空間に放たれるとモニターに変化する。


「……キュベレー。次の私達のお仕事は?」


キュベレーと呼ばれたものが話し出す。


「おはようございます、ルル様。そして、リリ様。お二人の次のご任務は人間と魔族の世界でございます。座標と時間軸を開示しますのでご確認をお願いします」


モニターには人間と魔族の世界に関する情報が掲示される。


「キュベレー!ありがとう!」


リリは大きな声でお礼を言う。

情報に目を通しているとある名を見つけ、二人は驚きの声をあげる。


「……え?うそ。アリシリア様がいる」

「え、ほんとだ!やったーー!!」


リリは飛び跳ねて喜ぶ。


「……アリシリア様とお仕事、いつぶりだろ?凄く嬉しい」


廊下をしばらく行くと、天井が高く、広い空間にたどり着く。

ルルはその空間の中央に右手を向ける。

すると黒い渦が出現する。


「リンクに成功しました。詳しい内容は既にお出になられているアリシリア様からお聴きください」


キュベレーがそう告げる。


「はーーい!」


リリは手を挙げ、答える。

ルルはこくりと頷く。

二人は互いに顔を見て


「うつくしくあれ」


と言う。

そして、リリとルルは黒い渦の中へ入って行く。

すぐに景色が変わり、目の前に二人と同じ服を着た美女の後ろ姿が見える。

その周りにいくつかの者が倒れている。

美女がリリとルルに気づき、振り向く。


「お二人とも来ましたか」


二人はすぐに駆け寄る。


「はい!!」

「……はい。今回は何をすればいいのでしょうか?」

「そうですね、私が魔王になりますので、あなた達には勇者になってもらいます」


アリシリアは微笑みながら、そう告げた。





こわい


目の前で起こっている出来事はーー


これはなに……?夢なの……?


「おい!聞いているか!?今すぐここから逃げろ!!」


夢なら、はやく起きないと……


「おい!しっかりしろ!」


魔族の誰かが鎧を着た人間と戦っている。

魔族の頭には耳があり、尻尾が生えていて、犬が人型になったような姿をしている。

他にも彼方此方で同じように戦いが起こっている。

中には人間同様に鎧を着て、剣で戦っている魔族もいる。

剣と剣がぶつかり合い金属音が鳴り響いたり、悲鳴のような声も聞こえてくる。


わたしが知っている町の風景はどこにもない


目の前で戦っている魔族が剣で斬られ、血を流しながら、地面に倒れる。

やっとの思いで斬ることに成功した人間は肩で息をしながら、地面に倒れている魔族にとどめを刺すため、近づく。


「は、はやく逃げろ……」


地面に倒れている魔族の背中を人間が剣で突き刺す。

刺された場所から血が溢れ、辺りが血の水たまりになった。


ち、血……!


人間がこちらに気付き、近づいてくる。


「嫌だ……なん……で?こ、来ないで……」


このままでは殺される……!


突如、紅く染まった空から何かが降ってきた。


「え……なに……?」


フード付きの黒いローブに身を包んだ人間らしき者の背中が目に映る。

涙でよく見えないが、臀部の所から伸びるあるモノに気が付く。


あれは……尻尾?


涙を拭って、もう一度確認をする。


「……尻尾だ!」


尻尾は魔族の証。

つまり、ニンゲンじゃない!


「……お願いします!助けてください!」


声が聞こえたのか、目の前の者が振り返る。

一瞬にして目を奪われた。

左右で色の違う白黒の髪がなびき、綺麗な青い瞳と整った顔が見える。


「もう大丈夫です」


凛々しい声と微笑みにも心を奪われる。

そして、何故か感じてくる安心感。

わたしは助かると直感し、安堵から涙がどんどん溢れてくる。


「ゔん!」


目の前の者は人間に向き直る。

いきなり現れた存在に人間は喉を鳴らし、後退りをする。

人間の後ろから、馬に乗った指揮官らしき者が現れ、声を上げる。


「き、貴様!何者だ!!」


空から何かが降ってきたのを遠くから見つけ、慌てて駆けつけたようだ。


「ここから逃げなさい」

「……え、どこへですか?一緒に居させてください!」


この御方の近くが一番いい!離れたくない!


「このコが道案内をしてくれます」


すると、黒い物体が周りに現れる。

黒い物体から禍々しさを感じ、恐怖心が蘇る。


「ひ、ひい!」

「大丈夫です。触ってみなさい」


こ、これに触るの……?

でも、言われた通りにしないと!


「は、はい!」


言われた通りに黒い物体を触ると、黒い物体は変化し始め、兎のようなモノになる。


「新タナ下僕ハ嬢チャンカイ?」


いきなり喋り出したことに驚きの声を上げる。


「え、え?」

「必ず、その子を護りなさい」

「カシコマリマシタ。……嬢チャン、コッチ!」


兎のようなモノは前後で違う口調をし、その場から動き出す。


「早く行きなさい。また会えます」


そう言うと、馬に乗る人間に向かって歩き始める。


「わ、わかりました!」


わたしは黒い兎を追いかける。

振り返ると、あの御方の周りには、先程と同じように黒い物体が現れていた。



「何をごちゃごちゃと話してた!名を名乗れ!何者だ!」


何かが空から降ってきたと思い、来てみれば、その正体が美女だとは……

しかも、尻尾が生えている


「魔族の者か!?」


とりあえず、相手は一人だ

兵の数ではこちらが有利


武装をした人間の数が次々と増えてくる。


「包囲しろ!」


その合図とともに練度ある動きで陣形が組まれていく。


「まずはご自分から名乗るものでは?」


白黒の髪の美女は平然としている。


これだけの数の前でも臆さないとは……


「なんだと!」


一人の人間が声を荒々しく上げる。

周りにいた人間達が剣を抜き、前に出てくる。


「待って!下がれ!お前ら下がれ!」


後ろから怒号のような命令が飛ぶ。

人間達は命令通りに下がる。


「すまんな、血の気の多い連中なもので」


先程とは別に今、到着したばかりの馬に乗った人間が申し訳なさそうに言う。


「剣を見ればわかります。沢山殺したみたいですね、刃こぼれがひどい」


剣を装備しているようには見えないが、やけに詳しいな……


「名を聞く時は自分から名乗るべきだったな。俺の名は聖天王国騎士団長、リベルド フォードだ。そちらは?」


相手は驚いた表情をする。


騎士団長と聞いてびっくりしたのかと思ったが、そうではないみたいだ


「まさか、フルネームで教えてもらえるとは」

「何か問題でもあったか?」


今度は、ため息をする。


「勇者もそうでしたが、この世界の者達は名に対して軽視しているようですね。名とはその者の力の根源であり、その者を表すとても大事なものです」

「だからなんだ?それよりも勇者様を知っているのか?」

「知ってますよ。私が殺した人物ですね」


何を言ってやがる……

歴代最高と言われている勇者様だぞ?

そんなのあり得ない……

これははったりだ


「本来なら、あなた方のような者達に名乗るつもりはないのですが、今後のためにも教えておきます。私の名はアリシリアです」


名を聞いた途端、場の空気が変わるのがわかった。

目の前の者から異様なオーラが伝わってくる。

周りの兵士たちの呼吸が乱れ、震えている。

震える振動で金属が擦れる音が周りに響く。

騎乗している馬は怯え、今すぐここから逃げたいという意思が伝わってくる。


なんだこれは!?

先程とは別人ではないか……!


「では、始めましょうか。……人間共」


アリシリアの目が青く光る。


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