会議
聖天王国の城内にある一室で円卓を囲うように座っている者達がいる。
ナトゥーア邦国の王であるヨハネス・フルドア・シュルツ。
スティーシャ公国の女王であるマリン・アデライン・スペンサー。
ギルド連合国サエティの長であり、王であるラル・ノクテス・ラジール。
そして、聖天王国の王であるレイビスタ・リオーネ・レストレンジ。
各国の王が集まり、重々しい雰囲気の中、顔を見合わせていた。
この会議は緊急に開催されたものであった。
しかし、移動等もあり、こうして集まるまで数日が過ぎてしまった。
沈黙が続く中、ついに痺れを切らした聖天王国の王レイビスタが声を荒立てる。
「帝国はどうした!?」
魔族に占領されているアルメン共和国の王以外が召集される緊急の会議であったが、ベネガル帝国の王の姿はいまだにない。
「さすがに遅いのぉ」
「何かあったのでは?」
「何かあれば、連絡があるはず……」
遅れるのであれば、それを伝える者が来るはずだが、それもない。
何かを察した聖天王国の王レイビスタが舌打ちをする。
「ちぃ、やりやがったな」
薄々勘づいていたギルド連合国の王ラルも呆れたように言う。
「抜け駆けされましたね」
「抜け駆けじゃと?」
ナトゥーア邦国の王ヨハネスはどういうことかと二人の王の顔を見た。
「帝国は単独で共和国を奪い返すつもりだということだ」
「そんな馬鹿な!?奴らだけで対抗できるわけないじゃろ!魔王が相手じゃろ!?」
魔王という言葉にスティーシャ公国の女王マリンの後ろに立っていた公国の英雄であるグレース・スペンサーの表情が曇る。
「その通りだ。魔王が攻めて来たからこそ、こうして緊急に集まったというのに。早々に会議を終え、共和国へ向かうべきだ」
「早々に?対策はしっかりとすべきでは?相手は魔王なのでしょう?娘からも伺ってます。かなりの実力者だと」
「その通りだね、うちの英雄も勝てなかった相手なので対策は考えるべきだよ」
ギルド連合国の王ラルはスティーシャ公国の提案に賛成をした。
今回の件で各国には思惑があった。
スティーシャ公国とってアルメン共和国がどうなろうがどうでも良かった。
スティーシャ公国の女王マリンは自分の娘を愛し、自国だけを愛している。
ただ、自分の娘達が心配なのだ。
当初、アルメン共和国に行かせたのもまさか魔王がいるとは思わなかったからであった。
魔王がいる危険な所に行かせたくはなく、行かせるのであれば、安全が確保された状態が必要だった。
そのために対策することを提案した。
ナトゥーア邦国もアルメン共和国がどうなろうが構わなかった。
各国がアルメン共和国を取り戻すために魔族と戦って互いに消耗して貰えれば良いとさえ考えていた。
表向きでは自国の英雄は行方不明になっているため、戦いには参加したくてもできない様子を見せていた。
そして、この世界を創ったとされる竜を擁していることから、まさに高みの見物をしているつもりであったのだ。
哀れな老人を演じながら、各国を嘲笑っていた。
英雄を失ったギルド連合国であったが、冒険者のおかげでここにはいない帝国も含め、各国の中で一番情報を持っていた。
大幅に戦力を失ったのは間違えなく、ギルド連合国であろう。
英雄だけではなく、三大ギルドの一つである赤月も失った。
それでも何とかなっているのは情報力とギルド連合国の王ラルのおかげである。
ラルは思考を巡らせる。
先程の会話の断片から帝国の英雄が魔王を倒したことを知っている王はいないと思っていた。
仮にいたとすれば、主導権を握りたい聖天王国は会議など開かずに行動するだろうし、自国の安泰にしか興味がないスティーシャ公国は何もしないだろう。
また、ナトゥーア邦国はどちらにしても戦いには参加するつもりはない気がした。
ただ、一つだけ気掛かりなことがあった。
それは自国の双子の冒険者である。
どの魔王だか知らないが、魔王を倒した英雄に勝利した二人だ。
相手が油断していたと言っても高い戦闘能力を感じた。
しかし、いざ会ってみれば、ごく普通の冒険者であった。
そのギャップに多少の違和感があったが、あの時はあまり気にならなかった。
でも、今は違う。
どうしてかわからないが、あの二人がこの聖天王国にいたのだ。
そして、双子の冒険者からある頼み事をされていた。
この頼み事がさらに悩ませていた。
聖天王国の王レイビスタは対策はすべきだという提案に対して内心では笑みを浮かべていた。
聖天王国は今回の件でも主導権を握りたいと考えていた。
できることなら、このような緊急の会議などせずにすぐにでもアルメン共和国へ行くべきであったが、自国の副団長及び聖騎士団がやられたことを知り、その考えをやめた。
そして、情報収集の時間稼ぎを含め、各国を牽制するため、会議を開いたのだ。
会議の中で先導をし、成果を上げるつもりだった。
しかし、抜け駆けをした帝国の行動は予想外であった。
それに気付いた時はやられたと思ったが、今は違った。
なぜなら、帝国が不在のこの場で別の目的が達成できると考えついたからである。
「わかった。それほどの者が相手なら、対策を考えようではないか」
と切り出し、聖天王国の王レイビスタは別の目的を口にする。
「まずは勇者を決めようではないか」
その言葉に周りは驚きの声を上げる。
「な、何を言うか!闘技大会も終わってないのじゃぞ!」
「大会どころではないだろう」
「そうはいかん!強さは勇者になる上で必要なことじゃ!」
「そこまで言うのであれば、ここで戦って決めればいい。あの大会で残っている英雄はどちらかだけなのだから」
聖天王国の王レイビスタは後ろにいる自国の英雄達とスティーシャ公国の英雄を見る。
ナトゥーア邦国の王ヨハネスは黙ってしまうが、代わりにギルド連合国の王ラルが口を出す。
「なら、ある冒険者を勇者に立候補したい」
「それこそ、何を言っておるのじゃ!勇者になれるのは英雄だけじゃぞ!」
「勇者に必要なのは強さですよね?」
「そうじゃが、英雄より強い者などーー」
「失礼します!!!」
大きな声と共に扉が開かれ、騎士団の一員であろう者が入ってくる。
その後ろには傷の手当てを受けたであろう冒険者がいた。
また、双子の冒険者が顔を覗かせていた。
「何事じゃ!大事な会議中じゃぞ!」
怒鳴られてしまった騎士団の者にスティーシャ公国の女王マリンが助け舟を出す。
「それは彼も承知の上でしょう。緊急の要件でしょう?申してください」
頭を下げながら、大声を出す。
「魔族が土地を取り返しに来たそうです!!!」
百体ほどの牛の魔族ミノタウロスがぞろぞろと歩いており、その前には鎧に身を包む兎の魔族戦闘ラビットが歩いていた。
そして、この集団の先頭にはミノタウロスのリーダーと戦闘ラビットの族長、魔王ベルゼブブと犬耳の少女エリーナにアリシリアがいた。
アリシリアがこの集団と共にしているのには情報の共有をしたからである。
これから攻めるである場所には何があり、どのような者がいるのかを各々に伝えたかったからである。
魔王ベルゼブブからはどうしてそんなに詳しいのか尋ねられたが、事前に把握してただけと答えた。
「そろそろですね」
アリシリアがそういうと、白い煙が立ち昇っているのが見えた。
すぐにニンゲンが火を起こしているのだと理解する。
「約束通り、土地は貰いますよ?」
「こちらは武器や防具を」
ミノタウロスのリーダーと戦闘ラビットの族長が報酬のことを言った。
道中、情報の共有の他に報酬の話もした。
奪い返した土地は全てミノタウロスに譲ることにし、手に入れた武器、防具は戦闘ラビットが持ち帰ることになった。
魔王ベルゼブブは報酬を求めなかったが、魔王である以上、領地は持つべきであるとアリシリアに言った。
しかし、アリシリアは生き残りが彼女だけであることと、私が土地を持っていてももう意味がないと言い返した。
納得した様子はなかったが、魔王ベルゼブブはそれ以上何かを言うことはなかった。
「もちろんです。その代わりお願いします」
その言葉を合図にミノタウロスと戦闘ラビットは攻め始めた。
先陣を切ったのは戦闘ラビットであった。
重厚な鎧を身に纏っているとは思えない速度で侵攻する。
その後をミノタウロスが続く。
奇襲ということもあったが、瓦礫と化している街を拠点にしているだけで防御できる点はどこにもなかった。
また、見たこともない得体の知らないものが攻めて来たことから一部のニンゲンの思考は停止してしまっていた。
ニンゲンの血が流れ、さらに土地が汚れる。
徐々にニンゲンの方も戦闘態勢となり、迎撃しようとするが、勢いが止まらない。
その光景を魔王ベルゼブブは後方で眺めていた。
俺がここに来たのは土地を取り返すためだけではない
一番の目的はこの者の実力を見るため
魔王ベルゼブブは隣にいるアリシリアを観察するが、何かをすることはなく、同様に戦闘を眺めているだけである。
そして、アリシリアの視線の先には犬耳の少女エリーナがいた。
魔王ベルゼブブも思わず、そちらに目が行く。
黒い剣をそれぞれ両手に持ち、素早い動きで次々とニンゲンを倒している。
遠距離から飛んでくる魔法や矢にも臆することなく、対応しており、まさに無双状態であった。
こんなに動ける者だったとは……
今のところ一番の功労者は彼女であろう
魔王ベルゼブブは他の魔族の中にもこのような才能を持つ者がいるのではないかと思った。
これ以上、魔王は必要ないと思っていたが、改める必要があるかもしれない
今回の件が終わり、落ち着いたら、魔王になり得る者を集めるのもありだな
魔王ベルゼブブは本来の目的を思い出し、アリシリアを見る。
アリシリアは笑みを浮かべていた。
最初に会った時もこんな感じで笑っていたな
「戦わないのか?」
「そちらこそ」
「あの者達だけで勝てなくなるなら、戦うさ」
「まるで相手にならないみたいな言い草ね」
「今のニンゲンには何も価値がない」
などと会話をしていると戦闘が終わったのか、静かになる。
魔族は中央にある城を囲うように陣を展開し、互いに怪我はないかなど確認をしている。
「話した通りになりましたね」
道中で話された作戦があった。
まず、奇襲攻撃で城の周りに陣取っているニンゲンを排除する。
そして、城を取り巻くように包囲し、退路を消し、残りの中にいるニンゲンを排除する。
至ってありふれた作戦だ。
「何やってるですか!」
小柄である犬耳の少女エリーナが自分よりも倍はあろう体格のミノタウロスに詰め寄っていた。
詰め寄られたミノタウロスはおどおどしており、周りの魔族もエリーナをなだめようとしている。
当初はエリーナを小娘など揶揄していたが、戦闘の様子を見てからは態度が急変していた。
なぜなら、魔族は戦闘能力の強さで相手を敬ったり、目上の者だと判断するからである。
魔王ベルゼブブは近くに行き、事情を聞く。
「何かあったのか?」
エリーナは振り向き、睨み付ける。
「何かあったではないですよ!」
魔王ベルゼブブの後方からアリシリアが現れ、エリーナの目つきが変わる。
「逃げられましたか」
「そうなんですよ!」
「そうですか、それで何人転移しましたか?」
早く答えろと言わんばかりにエリーナは先程のミノタウロスを見る。
「ひ、一人です……」
城の周りの各所に転移魔法のための魔法陣があることは伝えられており、それを潰すことは優先事項であった。
「それなら、誤差の範囲ですので大丈夫ですよ。それよりも」
アリシリアは城の入口の方を見る。
城の入口付近に数名のニンゲンがいた。
城の中にいた者達が出てきたのだろう。
その中で一際目立つ大きな体格の者がおり、手にはその体格に合う大きさの矛が握られている。
その者が大きな声を出す。
「かかってこいよ!魔族ども!相手をしてやる!」




