六節【悪役令嬢、戸惑う。】
「えーっと…こ、これは…」
家に戻った翌日、正直な話をすると、家では色々な事があって疲れてしまい思い出すのも恥ずかしい位なので思い出さないが、登校すると校門の前には数多くの学生がスタンバイしていた。
何故こんな事になったか?答えは簡単、温室での事件の所為だ。私が温室に向けて放たれた魔法弾を咄嗟に防ぎ、温室は破壊され、自分は大怪我をしたが、一緒に御茶会をしていた生徒を守り、尚且つ守った生徒が全員無傷で済んだからである。
その後、学園の調査でわかった事だが温室を吹き飛ばした魔法弾の威力は減衰していなければ温室どころか校舎や校庭すら吹き飛ばせるような高威力の物で一人であそこまで抑えられるなんて前代未聞の様な物だったらしい。
それを一人で受け止め、周りの人的被害が無かったのだからあっという間に学校内に噂が広まり、広まる中でドンドン話が膨れ上がっていき…最後には『私一人で学び舎を守り傷を負いながら学生全員を護った勇敢な淑女』なんて言われる様になっていたそうだ。
そんな生徒が退院して今日から復学するとなり、気付けば生徒のほぼ全員が一目見ようと出迎えに出てきた、という。
「まぁあんなに噂が膨らめばこうもなる。堂々と出迎えを受けた方がいい、アヴリル嬢」と校門の一番前で堂々と立ちながら軍服をキッチリと着こなしたノージュ先輩。
「まぁ、そういう事です!こればっかりは僕らも止められなかったんで…ごめん!」とノージュの左後ろで両手を合わせて苦笑いしながらクルタ・パジャマのような服装で謝るカイル。
「だけど、復学早々これは怖いわよ。私もなるべく抑えるよう努力したんだけど…無理だったわ。」濃緑の着物を着て扇子で口元を抑えて苦笑いしながら話すロウラン。
「まぁこんな大きい事件の中で、皆を守って怪我した人間が戻ってきたのだ!お祭り騒ぎも仕方ないじゃないか!はっはっは!」カイルとロウランの背をパンパンと叩き豪快に笑いながら功夫服を着て肩にコートを掛けたソーマ先輩。
「こんな大人数の前でよくみんな堂々としてられますね。僕には…想像もつかない…」周りから一歩下がった距離感で自信なさげに話すジャストコールにジレ、キュロット姿のクラッツ。
その後ろでキャーキャー言う生徒達。まぁこんなイケメン五人が出迎えなんかしてたら余計に生徒が増えるのなんて当たり前だよね、と思いつつ
「みんななんでそんな正装で…?制服は…?」と学生なのだから授業のある日は制服だろうと思っていたら、後ろからポンと両親が肩に手を置き笑顔を浮かべていて。
「アヴリル…実はね、貴女の行動が学園外でも凄い評価されてね、熟練の魔法使いでも一人じゃ止められないものをあそこまで止められるほどの才能が欲しいって事で…貴女はこの中の誰か一人の元へ嫁ぐ事になったのよ」
「そういう事だ、アヴリル。お父さんはとても嬉しいぞ。嬉しいんだぞ…嬉し…うぅ…」
うふふ、と幸せそうな笑みの母と少し複雑ながらも自分を納得させるように呟く父に挟まれ。
「え…えっ?今、何と…?」瞬間、世界が止まった気がした。
五人のうちの誰かに嫁ぐ…?え、この中の誰かと俺が結婚するって事?いやいやいやいや、え、こういうのはヒロインの役目じゃないの?てかヒロインなんでいないの?それが一番不思議なんですけど⁉︎
てか本当にいいんですか?中身男なのに…いやでも役得ってやつか⁉︎
なんて頭の中で考えがグルグルと周り、やっとの思いで口から出た言葉は「わかりました…」の一言だけだった。