四節【悪役令嬢、考察する】
ノートにひたすらペンを走らせて考える。
少なくとも今ここが『救世の少女と竜の英雄達』の内容と一緒なら…俺が魔法を使える=主人公は奇跡を選択している事になる。
だがこの世界は現在主人公が魔法を選択しなければ進まない時系列の戦争が起こっているor戦争後の世界、だが戦争後だとするならばクラッツとロウランは戦争開始直後、国外に逃亡しておりこの場にいるはずはない。
だが面会に全員が揃っている…どうなってるのかさっぱりわからない。隠しルートなんかもこのゲームには無いし…少し休もう…。
机の端にあるベルを鳴らしてすぐ、静かに扉を開けて従者のセラが入ってきた。
「御用でしょうか、アヴリル様」
「えっと、頼み事があるのですが…」
「…そんなに丁寧に話されると何かやっぱり違和感ありますね…記憶を失う前と大違いですが、これはこれで新鮮かもです。」
「あの、申し訳ありませんが少し休みたいので紅茶を淹れて貰えませんか?」
「かしこまりました。今用意してまいります。それと…従者なので貴女に尽くすのは喜んでしている事ですから謝らないでください。」
そう言って彼女は悲しそうな笑みを浮かべながら静かに退室して行く。
従者か…考えてみればこの視点での話なんてした事無いし、なんか違和感あるけれど起きた時の心配する様子から見て彼女と忠誠心だけじゃなく純粋な仲も凄く良かったんだなって思う。
そうじゃなければ起きてすぐ駆け寄ったりするなんてしないもんな、主人公は最近親が爵位を貰った事でここへ入学した設定だし一人だったな…
そんなことを考えているとセラはお盆に簡素なティーセットを乗せて戻ってきて慣れた手付きで紅茶を入れてくれた。
「今は誰も見てないですから蜂蜜、多めに入れましたよ。アヴリル様みんなの前では、甘い物好きなの隠してましたよね。」
「あ…ありがとうセラさん…ん、美味しい」
差し出された紅茶を一口飲む、暖かい紅茶に加えられた蜂蜜の甘い香りが広がりその匂いに安心した。
普段は甘党ではないが身体に染み付いた物なのだろうか。この味が一番だと思えた。
「ふふっ、味覚はやっぱり変わらないんですね。ちょこっと安心しました!」
「いつも入れてくれてたんですね…。ふふっ、なんかすごく安心す…る…。」
飲んだ後の表情を見てセラは変わってなくてよかったと、微笑みながら言った。それにつられてこちらも笑みが溢れる、その後すぐに異変が起きた。
「痛っ!何、これ、頭が割れ…」
「…アヴリル様?どうされました⁉︎横になって休んでてください!今、医者を呼んで参ります!」
「待って!セラファ私の命令です!大丈夫だから待ちなさい!」
「アヴリル様、もしかして記憶が…?」
激しい頭痛とぼやける視界、痛みに頭を抱えて悶えるも見えたのはアヴリル様の記憶の中、幼い頃からずっと側にいた従者のセラ…セラファとの日々であった。