二節【悪役令嬢、自分の事を知る】
「医師様を連れてきましたわ!は、早く診て下さいまし!」
どうやら、病室から急いで駆け出していった一人が別の病室で診察をしていた医者を見つけて捕まえてきたらしく、医者も慌てた様子の彼女を見て急いで来てくれたようで、息を切らしながら病室へとやってきた。
医者という割には白衣では無く神父のような黒い服装で聖職者と言うような印象を受けた。
その医者はベッド近くで片膝を立ててしゃがみ込んで
「意識も普通でこれといった異常は見受けられませんが、どうしてここにいるか覚えていらっしゃいますか?アヴリル様」
「それが…どうしてここにいるか、皆様が誰なのかすらわからないのです。ここは何処なのですか?それに私は…」
さっきは自分の姿に気付かず、つい普通の口調で話してしまったが転生先が女性な訳で、周りを見る限り貴族の様だし不自然かもしれないが丁寧な口調で話すが
それに俺がここにいる理由すらわからないのに、彼女がここにいる理由なんて余計にわからない。
攻略している時もこんなイベントやこんな事があったなんて話すらない。
すると、医者の脇から高級そうなコートを着た男性と、もう今にも俺より先に死ぬんじゃなかろうかって位、深い悲しみの表情をした女性が近寄り
「おお…アヴリル!まさか親の事すら忘れてしまったと言うのか⁉︎嘘だと言ってくれ…!」
「あぁ、アヴリル…本当に、私の事を忘れてしまったと言うのですか…?本当に、思い…出せない…?」
「アヴリル様!私の事は⁉︎貴女様の従者のセラですよ!」
周りがまた悲壮感を漂わせるような雰囲気の中で、医者は背を向けて立ち上がると詰め寄っていた面々に
「落ち着いてください。今、全てを言った所でアヴリル様の負担になるだけです。ふとしたきっかけで思い出す事もありえますから、今はそっとしておくのも治療です。」
と、静かに語りかけるように周りを抑えて落ち着かせるとこちらに振り向いて経緯を説明し始めた。
「貴女様は聖アイギス学園内で御友人様達と温室内で御茶会をされていました。ここまでは記憶ありますか?」
御茶会のイベントはあった、確か主人公の転入案内の際に『アヴリルの御茶会』ってスチルが入る。起きた時周りにいた友人達もスチル内のキャラの特徴に似ている。
「はい、うっすらとですが…」
「では、続けます。…その御茶会の最中、非戦争地域と指定されている学園温室に向けて強大な魔法弾が撃ち込まれ…咄嗟にアヴリル様が障壁を張る事で被害を抑える事は出来ましたが…魔力の消耗が激しく、また魔法弾も完全に消しきれずに魔法弾に温室ごと吹き飛ばされた結果…こちらへ入院して治療となりました。身体や魔力に関しては腕の良い医師達により1週間程で回復なされたのですが…」
このゲーム『救世の少女と竜の英雄達』は最初の主人公の選択によって悪役令嬢のアヴリルの力が変わる。
神々へ祈る信仰心を糧に使う「奇跡」と自ら学び、書いた式の答えとして発動する「魔法」が存在する中で主人公と悪役令嬢は対になる様に設定されている。
つまりこの世界の主人公は「奇跡」を使う、だが「奇跡」を扱うルートの場合、戦争自体が起こっていないという歴史になるのだが、非戦争地域と指定されている学園。
つまり戦争中、または、戦争後の主人公が魔法を選んだ世界になっている。
この時点で最早この世界が今までプレイしたゲームの規則から捻れてしまっているではないか…どういうことかと悩んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。従者のセラという女性が反応し扉を開けると、そこには…