十節【悪役令嬢、再考する。】
埃が積もった使われていない倉庫の中、未だに自分のことを探すファンクラブの面々から逃げるため倉庫の中で何に使ったのかわからぬような看板やら足が欠けた椅子、宝石がついていない王冠などを脇に避けたりしてさらに奥のほうへ向かっていく。
「ゲームの時はここにセーブする魔法陣と回復するためのクリスタルがあったよな⋯?」
実際ここに入るタイミングは学園に魔族が襲来して炎上するタイミングなのだがどうだろうかと思いながら辺りを漁る、巻き上がる埃と這いずり回る虫に悲鳴を上げそうになるも埃を吸わぬように抑えているハンカチで
出来る限りの声を押し込める。
今日の授業は午前中のみで終わり、午後は自由だった為助かった。
クラスメイトに午後の授業中もあの視線で見られ続けたら絶っ対耐えられない自信がある。
現実でも胃が弱くて胃薬よく飲んでたもんなぁ⋯妙に苦いような独特な匂いが懐かしく思える⋯ここに転生して
どれだけ経ったのだろう。
「あの時残ってた別の扉と窓の見えた角度的に⋯ここか、って⋯嘘だろ⋯?」
そんなことを思いながら倉庫内を漁り続けていると目的の場所を見つけ思わず息を飲んだ。
本来魔法陣があった場所とクリスタルのあった場所の中間に白く濁った六角柱とその中で瞬間的に凍り付いたように背中を合わせて立っている前世の自分とアヴリルがいたのだから⋯
胃の中のものがせり上がってくる、思わず堪え切れずに倉庫の片隅に吐き出してしまうがそれでも六角柱の中で眠る前世の自分に目を奪われる。
なぜこんなところにあるのか?どうしてこんな塊にアヴリル様と入っているのか理解できず混乱する
何故?何故?何故?どうして俺の体が?
激しく取り乱しその場に力なく座り込みそのまま意識を手放すのであった。
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慌てているのを堪える様に早歩きで倉庫へ向かうノージュと一歩後ろについてその影に隠れるようについて歩くクラッツの二人、ノージュからすれば可憐な女性⋯しかも自分と同じ屋根の下で暮らす少女が心配なのだろう。
いつもなら周りの人間に常に笑顔を向ける太陽のような人が周りに目もくれず突き進んでいるのだ、後輩であるクラッツにはどうしていいかもわからずただ何もないことを祈りながら向かうしか出来ないのであった。
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「ここが倉庫か⋯思ってた数倍汚いな…クラッツ、どうにかしてくれ。」
「いや、こういうのは先輩の方が得意分野じゃないですか…僕のは出力大きすぎるんで倉庫が吹き飛びますよ。」
「それもそうか…人の傍らで見守る精霊よ、淀んだ空気を吹き飛ばし賜え。」
階段側ではなく表につながっている方の扉の前にクラッツと並ぶが外だというのに妙に埃臭く感じてしまう、自分の家ではそんな事を感じたことが無くやはり我が家の使用人は腕がよかったのだなと思い返しながら地面に片膝を地に着け、開いた本へ指先を切った血の付いた短剣を突き刺すと淡い緑色の光と共に澄んだ空気を辺りに広げていく。
冷静でいたつもりだったが多少慌てていたのだろう。思った以上に魔力を消費してしまったが気にせずに立ち上がった矢先。
「⋯⋯⋯⋯ぜ?⋯な⋯⋯ぜ?⋯⋯な⋯⋯」
倉庫から微かに聞こえるアヴリル嬢の繰り返し響く声にクラッツと二人、武器を構えて倉庫へと飛び込むのだった。