一節【憧れの異世界転生、まさかのスタート】
「………様!……ル様!…ア…リル様!」
…誰かが呼んでる…けど、誰を呼んでるんだろう?
少し薄暗いし、薬の匂いもするから病院なのか…?
でも…すごい寝心地のいい寝具だな…入院費もかかりそうだし早く起きなきゃ…そういえば、俺…車に轢かれて…
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「よっしゃー!アヴリル様のキーホルダー!やっと出たー!」
自分が勤めているバーへの出勤前、わざわざ早く家を出て近くのデパートに向かい、デパート内のカプセルトイのコーナーの前で両替した3万円分の100円玉の山を使い切る直前、やっとお目当ての景品を引き当てその場で両腕を振り上げて喜んでいた。
『救世の少女と竜の英雄達』…自分の好きな乙女ゲームの作品で、ノベルパートの選択肢でアクションパートでの主人公や周りのキャラの能力や性能、ラストの敵など展開全てが変わるのだ。
最初は戦闘の難易度が展開によって変わる為リタイア続出した人もいて続編など危ぶまれたが後々のアップデートで戦闘無しで進める設定を追加されて無事に盛り返した。
俺はその中でも主人公のライバルになるアヴリルというキャラが好きなのだがグッズがまぁ少なくて少なくて…
今回注ぎ込んだガチャでも二種類のシークレットの一つ、しかも片方のシークレットは1台に一つは入っているがもう片方は5台〜6台に一つ程度、その後者がアヴリルのキーホルダーであり。必死に両替してガチャを回し続けたわけだ。
ようやく出たキーホルダーをカプセルにしまってデパートを出たら丁度入ってきた家族連れにぶつかってしまい、運悪くポケットから零れ落ちたカプセルを拾うために慌てて車道に飛び出して…激しい衝撃と手元のカプセルが無事な事に安心して意識をその場で失った…。
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「身体には何処にも異常がないのに…意識が戻らないなんて…神様…アヴリル様を助けてください…」
…アヴリル様?あぁこれは夢の中なのか?夢ですらゲームの事を見るなんて…って今何時だ?カーテンの隙間から入る夕暮れの赤い陽が眩しい…って夕暮れ?待て待て、夕方って事は開店準備あるよな?それで今日は俺が…
「…やっべぇ!今日の店の鍵、当番俺じゃねぇか!!」
…慌てて飛び起きると周りには見覚えのある服装の女子達、リングを両手で持ち祈る様なポーズのまま目を見開いて口をパクパクと動かして固まっているメイド服の見知らぬ女性。
高級そうなコートを身につけメイド服の女性と同じ様に固まっている、貴族のような白髪混じりの男性、極度の疲労からか目の下に隈が出来、今にも倒れそうな貴族の様な男性と同じ位の女性。
「…あれ?ここは…?てか俺…」
辺りを見て全く見覚えの無い面々に疑問を持っていると
「あ…あぁ…あああああ!医者!お医者様を呼んできて!誰でもいいから早く呼んで!」
「は、はい!!アヴリル様待っててください今、お医者様を呼んできますから!」
「貴女!室内は移動魔法も転送奇跡の使用は禁止ですわよ!」
「おおっ!カーナ!よかった…娘が助かったんだ…!」
「えぇ!ユーグリット様!神様が助けてくださったんですわ!こんな奇跡の連続なんてあり得ませんもの!!」
…急にスイッチが切り替わったかの様に動き出す人達の姿、てか魔法?奇跡?何を訳の分からない事を言っているんですか?
あれ?…なんか一人足元から淡い緑色の光が出てるんですが見間違いじゃないよね?もう本当に何が何だかわからずについ大声を出してしまい。
「えっと!あの、ここは…って…?」
大声で周りの視線を一身に受けて段々と勢いを失いながらも言い続けるも耐えきれずに周りを見回すとベットの上の台に置いてあった鏡、その鏡に映る元々の自分と異なる姿。
手がすっと溶けていきそうなアッシュブラウンのウェーブのかかった髪に、透き通った海の様な青い虹彩をした、つり目気味の全てを見透かす様な不思議な冷たさを放つ目。
多少肉の落ちた、しかし気高く綺麗に整った顔。
「…嘘…だろ?」
無意識に出た言葉、鏡に映る女性の口が同じ言葉を発するように動きこれがお前だと突き付けられている様な気がした。
「俺、転生したってのか?…乙女ゲームの悪役令嬢に…?」
突然起こったありえない現象への驚きと、自身の予想だにしない転生先への衝撃に耐えきれず。再度自身が寝続けたベッドへ倒れる結果になって、周りはまた大慌てで医者を探しに飛び出して行くのだった。
初執筆なので皆様よろしくお願いします!