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だい に ゎ

 ドキリと鼓動が大きくなった。


 背中に冷水を浴びせられたようにゾ――――っ! とした。



 ……知らないヤツだ。


 知らない奴がオレたちのやり取りを見てみて、脅かすために1000を取ったに違いない。

 ものすごく後味が悪い終わり方だった。


 時間はAM4時18分。

 こんな後味が悪い終わり方あるか?


 オレたちの苦労がぶっ潰された。


 怒りとか寂しさとかがまじりあって、その日は朝方まで眠れず、睡眠不足で仕事も失敗して最悪だった。



 睡眠不足だったが夜になるとなぜか元気が出るもので、オレはまたパソコンの前に座った。

 昨日の都市伝説掲示板を見てみると、無事にあのスレッドは格納庫に行ったようだった。

 ホッとして、他のスレッドを眺めてみると奇妙なスレッドが立っていた。



『浪漫・数珠いるか?』



 というものだ。すぐにピンと来た。


 ジュダイだ!


 オレはスレッドを開いてみると中は、少しレスが付いていたが、ジュダイはそれを全てシカトしていた。

 ジュダイは待っている。すぐさまコメントを送信した。



11.一浪漫

 ロマンっす。来ました。正直また話せると思いませんでした。



12.ジュダイ33

 おー。ロマンか。あとは数珠を待つか。



 そう言われて、数珠を待つことになった。

 途中で「数珠」の名前でコメントをしてくるものがいたが、「坊主」がついていない。


 本物ではないと思い、シカトした。


 やがて1時間ほどしてからだった。



32.数珠坊主

 なんだ? ジュダイとロマンか。

 なんだこのスレ……。



 待ち人来たる。昨日の三人が揃った。

 あれ以来傍観に徹していたジュダイがようやく書き込んできた。



33.ジュダイ33

 やっと来たな。じゃ、ここに来てくれ。

 パスワードはオレたち共通の言葉の尻に「3860」を付けてくれ。分るな?



 と書き込んで、URLを表示していった。


 そこは会員制のチャットルームでパスワードが必要だった。

 ジュダイが言ったのはこれかと思い、パスワードの枠に


「uuchi3860」


 と入力すると入室可能となり、そこにはすでにジュダイが入っていて、書き込みがされていた。



1.ジュダイ

 ボイチャできる環境か?



2.一浪漫

 できるよ。



3.数珠坊主

 すまん。できん。



 やっぱり数珠はおじさんだなぁと思っていると、ジュダイが次のURLを提示してきた。



4.ジュダイ33

 では場所をさらに変える。

 次の場所で自分たちのログインパスワードを作ってブログを立ち上げてくれ。



5.数珠坊主

 なんだそりゃ。ずいぶん厳重なんだな。

 分かった。



 ジュダイの提示したURLの場所に行くとそこは会員制のブログ。

 面倒くさいんじゃないかと思ったがパスワードを作るのも簡単だし数分でブログを立ち上げられた。

 これなら数珠もすぐに来れるだろう。

 さらに、そこでジュダイは簡易な日記を立ち上げた。


 見せれる相手を選択できる日記で、当然三人しかコメントできないし、閲覧もできない。

 ひょっとしたらブログ運営会社はできるかもしれないが、個人の日記なんて気にして見る社員などいないだろう。



1.ジュダイ33

 これでようやく安心だ。



2.一浪漫

 なんだかわけわかんねーな。

 でも昨日は後味悪かったな。

 もう一人いたっていことだよな。ヒマなやつが。



3.数珠坊主

 そうだな。オレは一人ゾッとしてたけどな。

 昨日は眠れんかったわ。



4.一浪漫

 オレもっす。

 質の悪いイタズラですよね~。



 と、昨日の続きのように話をしようとした。



5.ジュダイ33

 いたずら……。

 いたずらだと??



6.一浪漫

 ん? そーだろーが。



7.ジュダイ33

 あいつのID見なかったのか?



8.数珠坊主

 ID……? そこまでは見てなかったな。

 なんだ。ロマンと同じIDだったか?

 ロマンのいたずらか?



 その掲示板には、名前欄の横にIDという8桁の英数字が表示されるのだ。

 それは運営側がプログラムで勝手にランダムで作って表示する。

 自分たちではどうにもならないIDなのだ。

 名前を変えてもIDは変わらない。

 自作自演ができない形なのだ。



9.一浪漫

 いや数珠。オレそんな質の悪いイタズラしないっすよ。

 純粋に1000目指してましたもん。



10.ジュダイ33

 そうだ。オレたちじゃない。

 そいつのIDだが

「Uuchi9Ru」

 になってた。



 ……だから??

 何を言いたいか分からなかった。



11.一浪漫

 ふーん。……で?

 っていう。



12.数珠坊主

 おい! ロマン!

 IDよく見てみろ!

 マジかよ!



 数珠はすぐに理解したようだ。なぜか興奮している。

 オレもIDを読んでみた。



 う ち く る



 …………。


 ウチクル……?



13.一浪漫

 ウチクルっすか?



14.数珠坊主

 バカ!

「う う ち くる」

 だろ!



 …………。


 ……え??



15.ジュダイ33

 そういうことだ。

 オレも見たときはゾッとした。

 オレも昨日は眠れなくなってしまったし……。



 なんだ、みんな眠れなかったのか……。

 って、そんなことどうでもいいか。


 ええ?「ううちくる」……

「ううち」が来る……



16.一浪漫

 そんな、偶然でしょ?

 IDは勝手に決められないんだよ?



17.ジュダイ33

 その通りだ。だからこそ、恐ろしい。

 偶然でオレたちの話題のIDになることなんてほとんど不可能だ。

 こじつけならばどんなに嬉しいことか……。



18.数珠坊主

 ああ! くそ!

 ほんtおに怖い!

 おrはえ気g狂いそうd!あ



 数珠は本当にあわてているようだった。

 そんなに慌てられるとこちらまで怖い……。



19.ジュダイ33

 数珠の気持ちはよくわかる。

 しかし、“ううち”の本当の恐ろしさはオレやロマンはまるで知らない。

 鎌をもった精神を患った農夫……。

 というのはロマンからの情報だったな。

 それしか知らない。

 数珠はどういう情報を知ってるんだ?

 ここにはオレたち三人しかいない。

 話してみてくれないか?



 ジュダイはそう言った。

 オレはあまり聞きたくはなかった。

 だって、“ううち”を知ると気が狂って“ううち”になるって……。



20.数珠坊主

 そうか……。ではオレの知っていることだけ……。



 数珠は話し始めた。



21.数珠坊主

 オレは幼い頃、箱丸村にいた。

 “ううち”はそこだけの伝説なんだ。

 実際にあったかどうかは知らない。余りにも荒唐無稽なんだ。


 箱丸村は昔から貧しい村だった。

 江戸時代に罪人が逃げてきて作った村だっていう話もある。

 世間から目立ちたくない連中の集まりだとも……。


 明治時代に外国の文化が流れてきた。

 そんな中で村のお偉いさんがある儀式に心を奪われてしまった。


 それは悪神を呼び出す儀式だったんだ。


 力の弱い少女や赤ん坊をさらってきて、儀式の生贄にしたって話だ。

 村を活性化させるために……。

 蕎麦がたくさん実り、鶏がたくさん卵を()すように……。

 そんな他愛もない願いでもお偉いさんには必死な願いだったんだ。


 お偉いさんだけじゃない。

 そのうち村全体がその儀式に入り込むようになった。


 狂気の沙汰だ。


 生贄にされる家の娘はくじ引きで選ばれた。

 嫁入り前の娘を殺してわずかばかりの収穫を得る。


 そんなの悪神のおかげのわけないだろ?

 なるべくしてなった収穫なのに、みんなは悪神のおかげだと言ったらしい。



 ゾッとした。

 おそらく、モニタの前のジュダイも同じ気持ちだろう。



22.数珠坊主

 ある時、一人の農夫が完全に狂っちまった。

 自分の娘を生贄にささげ、目の前で斬殺されたんだ。

 無理もない。


 幾日か経って鎌を持って罪のない人を襲いはじめた。

 舌を切り落として、居もしない悪神にささげた。

 自分の舌すら。


「ううち ううち」と言いながら……。

 それは、うちの娘を生き返らせてくれって願いだったのかもしれない。


 しかし、村では気が狂ってしまった男は親族で片を付けろと家族に詰めよったらしい。貧しい村だ。つま弾きになるのは何よりも怖い。

 追い詰められた妻や両親がこの男を叩き殺したんだ。


 だが今度は、その親族が狂ってしまったんだ……。

 そいつらも村の人を襲い始めるというそんな不幸な話だ。


 どうやら悪神が憑りついたってことで、村の人は真剣に恐ろしくなったのだろう。

 悪神を封じる方法を見つけて、ようやく村は落ち着いたってことだ。



 話しが終わったのか、コメントが一時中断した。

 オレはモニタの前で「ホーゥ」とため息をついた。

 背中がゾクゾクとした。


 うちのひい婆ちゃんの村でそんなことがあったなんて……。



24.数珠坊主

 それから、オレたちの村では小さい子を叱るときはこんな物語と一緒に“ううち”がくるぞ! と脅しつけるようになったんだ。

 そして、それは村だけの秘密として隠してきた過去があったんだ。



25.ジュダイ33

 そうか……。



26.一浪漫

 ふー。お疲れさまでした。

 ウチのひい婆ちゃんの実家だったので、村の風景を思い出して少し怖くなりました。



27.数珠坊主

 ウチもオレが小さい頃に引っ越したんだ。

 でも20年ほど前に人口はゼロになったと聞いた。

 だから、“ううち”の話しなんて忘れていたよ。

 忘れたままでいたかった。



28.ジュダイ33

 箱丸村……。現存しないのか?

 人口はゼロなのか……。



29.一浪漫

 オレがひい婆ちゃんの家に遊びに行った頃は、村総出で引っ越しの準備してる感じだったな。

 総出ってそんなに軒数があるわけじゃない。10軒なかったかなぁ?

 で、ひまな子供たちで遊んだ時に“ううち”のことを聞いたんだ。

 そして、ひい婆ちゃんもたしかその時、一緒に連れてきたはず。

 もう10年も前に死んじゃったけど。



30.数珠坊主

 村総出で引っ越し……?

 じゃぁ、お社はどうなったんだ??



31.一浪漫

 お社??



32.数珠坊主

 いや、その悪神を封じ込めたって神社があるんだ。



33.ジュダイ33

 ふーん。面白そうだな……。



34.数珠坊主

 面白いわけないだろう。

 悪い考えはやめておけ。



35.ジュダイ33

 スマンスマン。都市伝説板住人の好奇心だ。

 申し訳ない。



36.一浪漫

 とりあえず、数珠が知っている話しってのはそこまでなんだろ?

 “ううち”を知ると“ううち”になるってのは伝説で、ここまで聞いても何もおきなそうだ。

 数珠は別に恐れる必要はないと思うぞ?



37.数珠坊主

 ……言われてみればそうだな。

 勝手に恐れていて、格好悪いところ見せちまったな。

 スマン。



38.ジュダイ33

 いや、別にいい。

 それよりも、あのID自体は不可解だ。

 呪いなのか? いたずらなのか?

 それがわかる少しの間、みんなと情報を共有したい。

 だが掲示板やこのブログでは集まる時間がまちまちになりそうだ。

 どうだ? みんなでラインIDを晒すというのは?



39.一浪漫

 ああ、オレは別にいいぜ。



40.数珠坊主

 オレも問題はない。

 だがラインなんて使ってないから、ほぼオレからの連絡はないと思え。

 不都合があったら許してくれ。



 そう言って、オレたちは互いにラインIDを交換し、オレたちのグループラインを作った。

 これで完全にオレたちだけ。

 時間の合間を見て、ラインをチェックするようになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うち来る?いくー。 なんでお話だったら、どれだけよかったことか・・・。 [気になる点] いつか、どこかで聞いた話です。 「彼ら」は、 ・知って存在を認識する。 ・強く意識を向ける。 …
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