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さぃ しゅぅ わ

「ミヤビ。歩けるか? 足の拘束を解くぞ?」

「……うん。大丈夫」


 数珠は刃渡りの長いナイフを出して、雅美さんの足の拘束を切った。


「ロマン。車の方が帰りに便利だって思ってそれで帰るなよ? もしも警察に見つかったら警察にここの場所を言わなきゃならなくなる。悪いが自転車で帰ってくれ」

「ああ。大丈夫。もう覚悟は決めたよ」


 オレたち三人は鳥居をくぐってもう一度お社へ向かった。

 数珠は大きなランプを手に持っていた。

 オレは柄の長い懐中電灯で道を照らした。


 辺りには動物の声が聞こえた。

 フクロウの声がいっそう恐ろしく聞こえる。


 だが、今からする儀式を考えるとそんな恐怖の気持ちは吹っ飛んでしまった。


 手慣れたようにお社の地下への扉をあけて、オレたちはまたあの鉄の扉の前へ。

 数珠はポケットから扉のカギを渡してきた。


「扉を閉めたらカギは二つに分けて、帰り道に別々の場所に捨ててくれ。もう、誰にもここを開けられないように」

「あ、ああ……」


 二人は扉の中に入り、こちらを向いてニコニコと笑う。

 その姿は今から死ぬものには見えなかった。


「さぁ、ロマンくん。結婚の誓いのやつやって!」


 そう雅美さんが言ってきた。


 二人とも覚悟を決めた顔。

 この結婚が終わったら二人は……。



 ダメだ。泣くな。泣くな。泣くな。

 めでたいことじゃないか!

 二人に気を使わせるな!



 唇を噛み締め、二人の前に立った。

 ……それにしても坊主の夫婦くせして、教会のほうの奴かよ。と思うと少し気分が落ち着いて来た。

 見よう見まねだが、神父の振りをして二人の結婚式を執り行うことにした。


「えー と、汝、エイタツはミヤビを妻として永遠の愛を誓いますか?」

「誓います」


「汝、ミヤビはエイタツを夫として永遠の愛を誓いますか?」

「うふ! 誓います!」


「では、誓いのキスを」


 二人は見つめ合って唇を合わせる。それを見計らい最後の言葉を唱えた。


「二人が夫婦になったことを認めます。アーメン」


 数珠は雅美さんをきつく、きつく抱きしめた。


「ありがとう! ミヤビ! オレの妻になってくれて!」

「うん……。エイちゃん……あたし、 し あ わ……」


 雅美さんの動きが止まった。笑顔が人のそれではなくなった。


「  ……ぐげ。ぐげげげげげげぇ!!」


 妖しく笑いながら素早く数珠のくちびるに噛みつき、引きちぎってしまった。


「ぐげ! ぐげ! ぐげぇぇげげげげ!」


 数珠のくちびるから血が大量に吹き出る。

 オレは固まって何も出来ない。出来るはずがない。そんなオレの方向に雅美さんが急速に向きを変え、手を振り上げて襲いかかってきた。

 余りの剣幕に、オレは尻餅をついてしまったが、雅美さんはオレに近づくことは出来なかった。数珠に手を握られ、それ以上進むことが出来なかったからだ。

 数珠はくちびるから血を流しながら、雅美さんを掴む逆の手には刃渡り長いナイフを握っていた。


「ろ、ロマン……。早く……。早く、扉を閉めろ!」


 オレは急いで立ち上がり、言われるまま扉に手をかけた。

 数珠のランプの光と、雅美さんの不気味な笑い声が徐々に消えてゆく……。




 パタン



 カチャ




 軽い音とともにカギがかかる。


 小部屋に背中を向けて5mの土の道を進んで後ろを振り返らずに、木の梯子をのぼり、そして地下への扉をパタンと閉めた。

 それでも小部屋からバタバタと暴れる音が聞こえて来が、やがてそれも静かになった。



 数珠が……。

 愛する人に手をかけたんだ……。

 あの刃渡り長いナイフで……。



 お社をでて、石段を駆け下りながら泣いた。


 泣いていた。


 怖いからなんかじゃない。



 自分の無力さ。


 実質、仲間を見殺しにして一人逃げるしかできない無力さ。


 オレが殺したも同然だ。


 二人は自殺なのかもしれない。

 だけど目の前で二人が出れないようにカギをかけてしまった。


 心が痛い。

 ノドの奥から何かが飛び出して来る思いだ。



「クソ! クソォ!!」



 悔しくて、どうにもならなくて、泣きながら数珠の車の後ろから折り畳み自転車を出した。



 走る。


 無人の村をただ走る。



 動物の声が聞こえる。


 誰もいない箱丸村。


 後ろでは数珠の車のエンジン音が小さく聞こえていた。



 今までの俺だったら怖くて仕方なかっただろう。


 だが今は違った。


 もう会えない数珠と雅美さんを思ってひたすら泣いて自転車をこいだ。



「オレだ! オレが殺したんだ! クソォ! 数珠! ミヤビさぁん! 許して! 許してくれぇぇーーー!!」



 腹の底から泣いて、大声で叫んだ。


 村の入り口につくころにはあたりが明るくなっており、散らばっている鉄条網で自転車がパンクしないように降りて担いで進んだ。



 そして、ひたすら山道を自転車で下って行った。


 心の中で数珠と雅美さんに詫びながら……。



 途中マヌケにも山道の窪みに引っかかって思いっきり転んで顔から地面に落ちた。

 擦り剝いて顔が血だらけ。

 涙と血に砂や土がついて顔中真っ黒になった。


「チクショオッ!!」


 そのまま、地面に伏してまた泣いた。


 転んだバカさ加減がムカついたからかもしれない。

 どうにもできなかった自分に向けてかもしれない。


 思い切り地面を何度も叩いた。


 だが、数珠と雅美さんを思って泣き止み、もう一度静かに自転車にまたがり人里向けて漕ぎ出した。



 しばらく進むと渓流があった。

 ゴツゴツと大きな岩があり、ドゥドゥと音を立てて流れていた。


 ここに、カギの棒の部分を捨てることにした。


 ひいばあちゃんの形見だが、数珠の遺言だ。


 岩に当たって、イ―――ンという高い音を立てながら水の中に落ちて消えて行った。

 これでそのうち、錆びて朽ちてしまうだろう。



 さびれた温泉町につくころには一日が経っており、無言で下を向いたまま始発の電車に乗り、アパートへ向かった。

 電車の中の缶用のゴミ箱に、数珠が持っていたカギの根元の部分を捨てると『ガチ』と重い音を立てて缶の中に埋もれたところを確認した。


 ボロボロになったままアパートにつくころには日が傾き始めていた。


 部屋のドアを開けると中から懐かしい声。


「あ! 朝帰り! つーか、夕帰り! どこ行ってたの! 浮気!?」


 そこにはジュダイが眉毛を吊り上げて質問してきた。

 ジュダイの顔を見て、流し切ったと思った涙がまた溢れてきた。


「うぐ……。ジュダイ。ジュダイぃぃ」


 そういって彼女の胸元に倒れ込んでまた泣いた。


「ちょ……ど、どうしたの?」


 子供のように泣きじゃくった。

 彼女はオレの頭を撫で続けてそれ以上質問してこなくなった。


 オレはジュダイを抱いて泥のように眠った。



 終った……。


 数珠と雅美さんの命と引き換えに、“ううち”を完全に封じたんだ。


 全てが終わった……。



 ◇



 ジュダイはサプライズで昨日、部屋に帰ってきていたらしかったが、オレがいなかったので浮気だと思って待ち構えていたらしい。


 ジュダイには数珠と雅美さんは外国に行ってしまった。

 そのために見送り会をして、その後空港に送って行ったので丸一日いなかったと言い訳した。


「そっか……。幸せになってくれるといいね」


 ジュダイはその言い訳を信じてくれた。


 オレの胸にだけしまっておけばいい。

 このことを。

 二人の勇気ある行動を……。



 普通の日常にもどった。

 ジュダイは大学を卒業し就職した。

 オレも少しだけ出世して給料も上がったのでジュダイにプロポーズした。


 彼女は涙を流しながら喜んでくれた。


「ロマン、ありがとう。あたし、幸せだよ……」


 彼女を抱き締めながら、自分の指でその涙を拭ってやった。


「少し、大きなアパートに引っ越そうな。ここはさすがに狭いよ」

「だね。家族も増えるしね」


「え?」

「プロポーズしたんだから順番が逆とかじゃなないよ~。ロマンくんはパパになりまーす!」


「うぉ! マジかよ~。じゃ、結婚式も早くしないとなぁ」

「だね。式場見に行こうね!」


「おう。そーだな」


 ジュダイは幸せそうな笑顔をした。


「数珠と……ミヤビさん元気にしてるかなぁ?」



 ドキリ……。

 思い出して心臓が一つ大きく鳴った。



「きっと……元気だよ」

「だよね。生活力のある二人だモン。赤ちゃん大きくなったかなぁ?」


「え?」


「ん? ああ。箱丸村に泊まった時にミヤビさんが言ってたの。お腹に赤ちゃんがいるんだって。だから早くエイちゃんにプロポーズしてもらいたいって言ってたよ。ウチはちゃんとロマンが報告前にプロポーズしたもんね。偉いぞ! パパ!」


 そう言って、オレの肩を軽く叩いた。

 オレもニコリと笑って彼女の目を見つめた。


「ああ。きっとあの三人はどこかで仲良く暮らしているさ!」



 なぁ、数珠。

 雅美さん……。

 もしも魂になって近くにいるのなら……。


 オレたちのこと、見守っていてくれよ?


 産まれて来る子供に、アンタたちの一字をもらってもいいかな?


 男だったら英雅って書いてエイガかヒデマサ。


 女だったら英美って書いてエイミかヒデミ。


 ちょっとセンスねぇかな?

 でもいいだろ?

 オレのヒーローの名前をもらったってさ……。



 部屋の端にあるモンステラの葉がエアコンの風に揺れて、まるで頷いているように見えた。





















 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 深夜。大型掲示板の都市伝説板。

 三人が出会ったこの場所は、今、激しく論争されていた。


 まとめサイトが立つくらいだ。


 幽霊はいるか? いないのか?

 不思議な人ならぬ存在はあるのか? ないのか?


 互いの主張を譲らず、論戦はヒートアップしていたのだった。



971.ななし

 だから、いるっつってんだろ? クソが。



972.いない派18

 それを証明して見せろ。話はそれからだ。



973.1前スレの1000

 それでは、このスレッドはそろそろ埋まります。

 前回のスレッドに習いまして、1000をとった方が次回のスレッドを立ち上げてください。



976.ななし

>973

 告知が遅いぞ。1よ。さては寝ていたな?



978.烈士いない派

>973

 オーケー。次回で決着つけてやる。



993.ななし

 1000



994.烈士いない派

 もらった1000



995.いない派18

 幽霊なんかおりゃ千



996.1前スレの1000

 1000匹いる。



997.有名どころ都市伝野郎

 いるいる 1000



998.ななし

 いるぜ! 998はもらった!



999.アリゲーター治

 1000。ならいない。カス。




 誰もが最後の1000にくらいついた。

 いったい誰が1000をとったのかと……。


 モニターに顔を近づけた。






























1000.ジュズノボウズ ID:Uuchi9Ru


 は こ ま る む ら に い る ぞ


 む か え に こ い








1001.このスレッドは1000を越えました。もう書き込めません。










 お わ り



※この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、名称はすべて架空のものです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物凄く怖くて、そして切なくて……まだ恐怖は終わっていないと言う終わり方がとても後を引く素晴らしいお話でした。 今でもこちらの作品を思い出すと怖さで鳥肌、寒気が発生し、切なさで涙が滲みます。…
[良い点] こんにちは。 とても面白く読ませていただきました。 わたしはホラーがダメなので、最初ビクビクしていたのですが、6話目部分の、元奥様が出てきた辺りから、「ああ、これ大丈夫だ」と思えるように…
[良い点] 最後まで面白かったです。 [気になる点] 私の推察力がなくて申し訳ないんですが、なぜ最後坊主?がううち化してしまったんでしょうか。封印して終わる手筈だったのでは?新たな化け物が誕生したって…
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