だいぃ じゆゅうぅ わゎ
一口に5キロと言っても、ランドマークも何もない。
コンビニはもちろん、大きな建物もない。
野ざらしになっていたバスの停留所は真っ赤に錆びて、文字が読めない。
本当に不便な土地だったんだ。
遠くに木造二階建ての学校らしき建物があった。
数珠が昔、通ったらしい。
窓ガラスは全部割れて向こうの景色が見えた。
建物中に蔦が絡まってとても不気味だ。
さっさと帰りたかった。
大きな草が夏の熱風に吹かれて ざわ ざわ と動く。
「怖いぃぃ……」
といいながらジュダイが頭を抱えてその場に座り込んでしまった。
そんなジュダイに雅美さんが寄り添ってくれた。
「大丈夫だよ。大丈夫」
ここにはオレたち以外ひと気がない。
女の子なら怖がるのも無理ない。当然だろう。
オレだって怖いし……。
ジュダイはぐずりながらこう言った。
「だって、ここ夢で見る景色と一緒なんだよ? 私は小さい男の子を鎌を持って追い回すの。男の子は必死で逃げる。私だって捕まえたくないんだよ? でも、鎌を持っていない土色をした腕が男の子の肩を掴んで地べたに倒してしまうの!ちょうど、あそこで……」
と、指さした先。
そこには少年の足がこちらを向いていた。と思った。そう勘違いするように見えたのは石造りの小さいお地蔵様だった。道に無造作に転がっていたのだ。
元々は道の傍らにあったものかもしれない。
道に生える草の成長の勢いに耐えられずに道に押し転がされてしまったのだ。
それがちょうど、子供が倒れているように足元をこちらに向けてうつ伏せて倒れていた。
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」
数珠はお経を唱えながら、お地蔵様を起こし、土を払った。
そして、路傍の草をナタで切り、そこにお地蔵様を鎮座させ、手を合わせて本格的にお経を唱えだした。
オレたちも一緒になって手を合わせた。
少し、気がまぎれた。
お経の力ってすごいと思った。
「もう少しだ。ジュダイ頑張ってくれ」
数珠はジュダイだけでなく全員に鼓舞を送り、先頭をきって歩き出す。
ジュダイも大きくうなずいた。
やがて、大きく開けた場所に出た。
たくさんの無人の家が集合しており、その中央には小高い山。
麓には石造りの大きな鳥居があった。
その奥には石段が見える。これがお社なのだろう。
「ここか……」
小さくつぶやくと数珠が
「そうだ」
と言って、肩をポンと叩いた。
「日の高いうちに行ってしまおう。お社の周りには木が茂っていて昼でも暗い雰囲気だからな」
「そ、そうか」
オレたち四人は鳥居に向かって歩き出した。
だが、その時みんなの携帯が同時に高い音で鳴った。
「うぉ! なんだぁ!?」
みんなして携帯をとって覗き込んだ。
音が短い。メール音だ。それにしたってこんなに大きい音。心臓がドラムロールのように打たれていた。
携帯の窓には友人の「矢内」の名前。
「待っている」
という内容のメールだ。たしか前に『遊ぼう』ってメールを打っていたな。
それの返信か。
遅!
……まぁ、もともと携帯みないヤツだし。仕方ない。
そこにジュダイが寄って来て携帯の窓を覗きながら聞いて来た。
「誰?」
「ああ、矢内っつー男友達。「待ってる」だってさ」
「え…? あたしも「待ってる」ってメールだった」
「へー。同じ文面か。なんていう人?」
「高校時代の友達で「白川ちゃんっていう人。……全然連絡とってなかったのに」
それを聞いていた数珠も苦み走った顔をしていた。
「オレの文面も「待ってる」だなぁ。ミヤビのは?」
雅美さんが見せて来た文面も「待ってる」だった。
意味が分からない。不可解すぎる。
差出人も別だ。
俺のは「矢内」
ジュダイのは「白川」
数珠のは「六角」さんから。
雅美さんのは「出村」さん……。
「どういうこと?」
みんな不安がってる。しかし雅美さんだけは平気な顔をしていた。
「知らないけどさ。一斉にメールが鳴ったのはおそらく、この開けたところで一時的に電波がつながったんだよ。ホラ。今は電波がない状態になってる。たまたま電波が届いた。だから一斉に鳴った。それだけでしょ」
と解説した。
……なるほど。言われてみればそうかもしれない。
だけど……。
「でも、一斉に同じ文面って不思議じゃないっすか?」
「不思議だね。でも、人生ってそういう偶然が重なるもんだよ?」
まぁ、そりゃそうでしょうけど……。
突然、ジュダイが声を上げた。
絹を切り裂くような声。
オレの背筋も凍り付いたが、座り込むジュダイを今度はオレが支えた。
「差出人の頭文字を合わせると「やしろで」になるよぉ!」
矢内
白川
六角
出村
やない
しらかわ
ろっかく
でむら
待
っ
て
る
や し ろ で 待ってる
……た、たしかに。総毛立つとはこのことで、箱丸村に来てからずっとこの調子だ。
だがそれすらも雅美さんは一笑にふした。
「あのさ……。もしもこれが“ううち”からのメッセージならずいぶんとヒマだよね? わたしたちの携帯のアドレスから頭文字を選んでつなげたの? んなわけないじゃん。それに……」
そう言って、雅美さんは数珠の肩に手を乗せた。
「エイちゃんは坊主だから成仏させてくれるよ」
「おい! んなの無理だろ!」
「どうして? エイちゃんも呪いの主を信じてるんじゃないでしょうね? 人が恨みをもって死んじゃってそれが怨念になるんなら、戦争でたくさん死んじゃった民間人の魂はどうなるの? みんな恨みを忘れて天国に行ったの? 何十万も何百万もいるんだよ? そんなたくさんの怨霊がそこらじゅうにいるってこと?」
「そ れ は……ですねぇ……」
「みんながそうやって怖い怖いと思うから、こんなメールだってこじつけたくなるの。私から見て差出人の頭文字あわせたら「ろしやで」だよ。ロシヤで待ってんの? ロシアじゃないの? って感じ~」
それを聞いてクスリとジュダイが笑った。
「そうだよね~。ミヤビさんの言う通りかも!」
「でしょ? 説得力あるでしょ?」
たしかに説得力がある。
そう言われればそういう気になってくる。
つまりはオレたちはウワサに踊らされやすいのかもしれない。
数珠がタッパーに入れたドライフルーツを出してきた。
「ま、そうかもしれんな。みんな甘いものでも食って落ち着いてからお社に向かうか」
「さんせーー!」
みんなでドライフルーツを口の中に放り込んだ。
後はお社を見て帰るだけだ。
ただそれだけ……。
そうすれば、ジュダイの精神も落ち着いて、眠れるようになるだろう。




