第8話
街へ入り食事をすませた黒丸はジンに引きづられながら宿屋へと向かった。
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宿屋の前に着くと、入り口を掃除している女性がいた。女性はこっちを見ると笑顔で話かけてきた。
「いらっしゃい。あんた達、宿屋をさがしてるのかい? いまなら丁度2人部屋が空いてるよ」
女性はついてきな!と言わんばかりに宿の中へ入っていく。僕とジンは女性の後を追った。ふと看板が目に入ったが字が全く読めなかった…… いまさらだけど、なぜ言葉は通じているんだろうか?今度マザーに聞いてみようと脳内メモを発動させた。
女性は受付のカウンターの中に入ると、「ようこそ、癒しの月光亭へ!」といい受付表を出してきた。
「あんた達、どっちか字は書けるかい?」
ジンを見ると、首を横に振った。女性は「まぁいいさね。じゃあ名前を教えておくれ」と特に嫌がる様子もなく言った。字が書けない人はこの世界では多いのかもしれない。
僕が先に名前を答え、ジンが名前を告げた瞬間、女性は目を見開いて驚いた様子でジンの顔を見た。
「あんたもしかして、パウロじいさんとこのジン君かい?」
「あぁそーだよ。久しぶりだな!おばちゃん」
「ほんとにジン君かい!でっかくなったねー。前にあんたがパウロじいさんと来た時は6つか7つの時だったかね?ほんとに久しぶりだねー!あんた、来な。ジン君が来たよ」
奥から筋骨隆々な髭を蓄えた強面な人が、エプロン姿で出てきた。頭はハゲている。
「おぉジンか!でかくなったな!顔も格好よくなったじゃないか。父ちゃんに似なくてよかったな」
そう言いながら旦那さんと思われる人は豪快に笑いながらジンの成長を見て喜んでいるようだった。
「ジン君、パウロじいさんは元気かい?」
「あぁ元気だよ。あのジジイ、あと30年は死なないんじゃないのか?少し前も槍を持ってオレを追いかけて来やがったからな」
「パウロじいさんも相変わらずだねぇ。まぁ元気そうでなによりだね。ところでジン君はなにしにアデルまで来たんだい?」
「教会に武器の適正を調べに来たんだ。オレは剣士になるからな!」
「アッハッハ!あんたまだそんな事言ってるのかい?昔から変わらないねー。ねぇあんた」
「そーだったな!ジンは昔から世界最強の剣士になるって言っていたな!って事は家出してきたのか?」
「あぁ、そのまま旅に出るつもりだ。金はジジイのヘソクリを取って来たからしばらくは大丈夫だしな」
「若いんだしそのくらい問題ないさ!あんたもそう思うだろ?」
「ガハハハ!そーだな!ジンも、もう17か?オレも若い時は今のジンと同じだったからな!オレが17の時は……」
「はいはい!あんたの話が長くなる前に、先に2人を部屋に案内するよ。ほんとは前金で頂いてるんだけどね。あんた達も疲れてるだろうし明日でいいよ!それに今日の夕飯と明日の朝食はサービスするからね」
女性は嬉しそうに笑いながら2階の1番奥の部屋へ、案内してくれた。
「ここがあんた達の部屋だよ!なにかあれば遠慮なく言うんだよ」
「おばちゃんありがとな。また夕飯のときに下に降りるわ」
「はいよ、今日の夕飯はいつもより気合いをいれて美味いもん作らないとね」
おばちゃんは笑いながらそう言うと下へ降りて行った。
「ふぁー!疲れたー」
僕はそう言うとベッドに飛び込んだ。
僕らの部屋はシンプルな作りになっている。
ドアを開けると右手に木製の机と椅子が置いてあり、正面と右奥にベッドが2つ、ベッドの間に窓が付いている。
僕は右奥のベッドを選んだ。
なんとなく入り口から遠いほうが好き、という理由だ。
「今日はほんとにいろんな事があった。グラフにしたら急上昇した気分だよ……」
「グラフ?なんだよそりゃ、とりあえずは部屋も借りれたし明日は朝から教会に行くぞ。あとは剣も探さないとな」
ジンはニヤつきながらどんな剣を買うのか、考えているようだった。
「そーいえば黒丸はなりたい職業とかないのか?」
「僕は魔法使いだよ!僕が魔法を使えるようになるのか…… ニョホ、ニョホホホホ」
「スゲー変な笑い方だな……」
ついテンションが上がりすぎて、気持ち悪い笑い方をしてしまった…… ジンもかなり引いている。気をつけなければ。
「武器は僕も剣がいいな!魔法剣士とか格好良すぎる」
「おっ!わかってるじゃねーか、黒丸。やっぱ槍より剣だよな!」
「槍も格好いいと思うけどなぁ」
「なに言ってんだよ。どう考えても剣がいいじゃねーか」
それから2人で他愛もない話で盛り上がって
いた。話の中でジンからおばちゃんとおじちゃんの名前を聞いた。アンナおばちゃんとロイおじさんと言うらしい。あとで名前で呼んでみてもいいかな?ロイおじさんは、ジンのおじいちゃんの弟子なんだそーだ。そうこうしている間に夕飯の時間になった。
「よし!飯食いに行くか!」
「そーだね!どんなご飯を作ってくれるのか楽しみだよ」
そして、2人は部屋をでて、食堂へと向かった。