フェスタの冒険 公爵の講釈
「まずは様子見、ワザと隙の無い構えに手練れの方なら食い付きたくなるような隙を一つだけ残させて頂きました。
ええ、百戦錬磨の兵な御仁ならば罠かも知れないと疑うかも、という僅かな隙です。
罠に気付けば超一流、ですが罠と見抜け無くとも一流の剣士ですとも。
ましてや、剣のお嬢さ……いや、フェスタさんの御年齢より思えば、あの構えから隙の無さと残した隙に気付くだけで素晴らしいと賞賛を送るに値するでしょう。
このアレプト、年甲斐もなく感銘を受けました!」
熱っぽい口調で語るアレプトの仕草はどこか芝居がかっているようにも見える。
しかし、そこにはフェスタたちを蔑むような感情は一つも込められてはいない、そんな風に聞こえる。
ただし、語っている相手は悪魔ーーしかも単なる悪魔ではない、悪魔の中の悪魔と呼んで差し支えない『悪魔公』である。
印象だけで判断するのは危険なことではあるが、相手が悪魔公ともなれば先入観なしに判断しろと言う方が難しいであろう。
アレプトを見つめるフェスタたちの眼も、あからさまにでは無いが訝しげ……少なくとも無垢な光を宿したもにではない。
だが、この悪魔は相手の様子など関係無いと言わんばかりに独演会を継続させる。
「全てのタネを御教えするわけにはいけませんが。
狙いはよろしかった!
猪突猛進では決まりません、ええ悪くはありませんが、決めきれません。
次は老獪さを、直線ではなく曲線を意識してやってみましょう!」
そう言いながら、まるで『ズビシィッ!』という擬音でも付きそうなアクションでアレプトがフェスタを指差す。
「あ、は……ハイ」
アレプトの勢いに負けたかのように、フェスタが力無く頷く。
フェスタにしたところで、割とノリと勢いで物事を進めるフシが多分にあるのだが、それ以上にノリと勢いで押し込まれると弱いのかも知れぬ、と傍観者となってしまっているジバが思ってしまうような光景であった。
アレプト独演会はまだ続く。
「続いて、に……巫女の、ええと……そう、ニティカさん!」
「は、ハイ……」
名前を思い出せたことが自慢なのか、それとも単なる気のせいか。
アレプトが形容し難いドヤ顏を見せながらニティカの方を向き、ニティカが胡乱げな表情を見せつつも返事をする。
「貴女の選択も悪くはありません。
自身の持つ武器を最大限に利用する、良い選択です。
しかし、しかしです。
残念ながら私には麻痺や毒などに状態異常は通用しません。
悪魔族にはそもそも通用し難いのです、ええ、残念ながら。
ですので、次回は貴女が私を直接攻撃するので無くとも有用となる手を考えてみましょうか?」
言いながら、アレプトの姿勢は自身よりも頭二つ半分は小さなニティカに視線を無理矢理合わせるように腰を中心に歪められる。
横から見ると、完全に『く』の字になっていて気色悪いのに加えて、フェスタの時と同様に無駄にキメ顏をしているのが絶妙にウザい。
悪魔にキメ顏があるのか、という疑問は置いておいて。
髪を搔き上げつつ、流し目で、微妙な角度で顎を上げつつ、口角を挙げた唇の隙間からわざわざ魔力を使って牙を光らせる。
これが『キメ顏』では無いと言われてしまえば、何を意図した演出だと聞きたくなるほどの自己演出っぷりである。
言われた当人であるニティカも、やや引きを通り越してドン引き状態で、乾いた笑みを浮かべて頷くのが精一杯であった。
ーーが、アレプト独演会はまだ続いた。
「駆け足で手短かとなってしまい過ぎましたねえ。
ええ、無口に過ぎるのが私の欠点かと、ええ、存じておりますとも。
分かっていても、無くて七癖と申しましょうかね、お恥ずかしいながら。
なかなか治りません、癖だけは。
お詫びに、もう一つアドヴァイスを差し上げましょうかね。
フェスタさん、スピードが貴女の武器のようですが、それだけですかね?
ニティカさん、支援といっても色んな種類のやり方があります。
どういった形でフェスタさんをサポートするのが最適でしょうかね?」
一気にここまでを捲したてるように話して、アレプトはクルっと振り返った。
そのままスタスタと、自分が元々立っていた場所へと戻って行く。
話に熱中する余りに、いつの間にかフェスタたちが居た場所まで歩み寄っていたのだった。
五歩進んだところで元の場所に戻ったアレプトが、再びクルっと回ってフェスタたちに向き直る。
その表情は先ほどまでの緩んだ教師顏ではなく戦闘開始前の引き締まった緊張感のある顏へと戻っていた。
初戦の時とは違い、今回はフェスタとニティカにも緊張感が走る。
奇しくも、二人が思っていることは一致していた。
(気を抜いていて……敵う相手じゃない!)
そんな二人の声が聞こえたのか、声高らかにアレプトが宣言する。
「さあ、それではラウンド2をーー始めましょう!」