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フェスタの冒険 問答有用

「その……アレプトさんの隙が見えた……ような気がしたので、私が一気に斬りかかりました」


 アレプトから促され、戦いの最中であることは分かっているのではあるが、アレプトが醸し出す空気に押され負けるようにフェスタが答える。

 その様子をアレプトは『うんうん』と頷きながら聞いている。


「アレプトさんが両手で剣を防ごうとしているのは見えていてですね、それよりも早く剣が届きそうだったので一気に振り抜こうとしてーー」

「振り抜こうとしてーー?」


 フェスタが先ほどの攻防を振り返ろうと言葉を続けつつも、言い淀んだところでアレプトが復唱して続きを促す。

 計算の途中式までは合っている、そう告げる数学教師のそれと似た姿である。

 フェスタ以外の三人も、光景の異様さに気が付いているものの口を挟めずに見守るような形となってしまっている。


「アレプトさんに剣が当たりそうになったところでーーその、何と表現していいか……なぜか剣が当たらなくて、剣を掴まれてしまって。

 ーーそのまま投げ飛ばされてしまいました」


 これが、フェスタとアレプトの最初の攻防で行われた、フェスタから見たやり取りの全てだった。

 アレプトに斬り掛かり、攻撃が当たると思った瞬間にーーフェスタの視界から見えていたはずの、アレプトから伸びていた『細い線』が消失してしまった。

 同時に、いつの間にかフェスタはアレプトに剣を両手で掴まれてしまっていて、さほど力を込めていなさそうに見えるアレプトの腕の一振りで元いた方向へと投げ飛ばされてしまったのであった。

 フェスタの主観だけで見れば、スローモーションで流れていた場面から、いきなり何コマかを飛ばされていきなりアレプトに剣を掴まれてしまっていたような感覚だった。


「そうですねえ、概ね正解です」


 アレプトはフェスタの答えに満足げに頷く。


「では、そちらの棍棒(メイス)をお持ちの巫女のお嬢さん。

 貴女はいかがでしたか?」


 と、続いてニティカに解答を求める。

 場所は試練の迷宮最下層、その大広間であるはずなのに空気は何故か授業中の教室か体育館のような雰囲気となってしまいつつある。


「え? わ、私ですか?」

「ええ、貴女から見て、どのように我々が戦って、その間に貴女はどのようになさっていました?」


 よもや、自分に話を振られると思ってはいなかった為に慌てるニティカと、そのような事は我関せずといった風情のままに解答を求めるアレプト。

 ニティカが解答しなければ話を先に進ませない、そんな軽い威圧感を滲ませつつもアレプトの態度はあくまで穏やかで紳士的なものである。

 ただし、『分かりません』や『何もしていません』といった解答は許してもらえなさそうな空気である。

 そういった空気を読み(・・・・・)つつ、ニティカがおずおずとながらに答える。


「ええっと……フェスタ様が貴方に向かって駆け出していって、私はそれを支援(サポート)する為に『麻痺の魔眼』を使おうと……意識を少し集中して……。

 それから……いえ、それよりも先に、魔眼を発動しようと思うより先に、フェスタ様が宙に投げ出されていくのを見ました」


 そんな風に、ニティカの口からニティカがフェスタとアレプトがぶつかり合った瞬間に取っていた行動と見ていた結果が端的に述べられる。

 このニティカの答えに対しても、アレプトは頷きつつ「確かに」と短くも肯定の意思を示した。

 そして、わざとらしい咳払いを一つしてみせた後に、


「では、初手から解説差し上げましょう」


 アレプトが両手を広げてそう宣言した。


 それは、まるで『答え合わせをしましょう』という教師のような態度であった。

 そんなアレプトの言動に唖然としてしまい、何も返せないフェスタたち一行。

 その唖然とした全員の沈黙を単に是との意思としての返事と取ったのか、はたまた唖然としてしまい無言となっただけという事が分かりつつも敢えてそれを無視をしたのかはアレプト自身以外には分からないが、アレプトは言葉を続ける。


「まず、最初に剣のお嬢さんーー」

「フェスタ……です」


 自分たちの名前は知っている筈であるが、先ほどから何故か『剣のお嬢さん』や『棍棒(メイス)の巫女』といった回りくどい呼び名になっている事が気にかかり、フェスタが思わず口を挟む。

 何と呼ぼうがアレプトの勝手である事は分かっているが、何と無く座りの悪さを感じる。

 指摘してもなおアレプトがその呼び名を続けるならばフェスタも諦めて引くつもりである。


「おお、そうでした。

 どうも人の名前を憶えるのが苦手でして、ええ。

 失礼、フェスタさんですね、憶えましたとも、ええ、ええ。

 ところで……巫女のお嬢さんは、お名前は?」

「ニティカです」


 フェスタの心配は徒労に終わりそうで、単純にアレプトは一行の名前を憶えていなかっただけだった。

 ついで、と言わんばかりにニティカの名前を確認するアレプト。

 ニティカの答えを聞いてから、アレプトが話の続きを語り出す。


「フェスタさんが見えたという私の隙ですがーーあれはワザと見せた隙です」


 アレプトが、余裕を称えつつ不敵に笑ったようにーーその時フェスタにはそう見えた。

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