表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/114

フェスタの冒険 意図

 大広間の地面に仰向けで転がるフェスタは、自分がこうして天井を眺める立場となってしまうまでの経過を全て認識していた。

 認識してはいたが、そうならないように対処出来るか否かは完全なる別問題である。

 例えるなら、横断歩道を渡る最中に信号を無視したトラックが突っ込んで来たのは判るが、それを避けれるかどうかは状況によりけりーーである。

 今回のフェスタも、地面に転がされたという結果だけを見れば状況としては似たようなものである、と言えなくはないのかも知れない。


 『剣の極み』を発動させたままアレプトに突入し、細い線とはいえ確実にアレプトの隙を突いて斬撃を胸部に叩き込む。

 フェスタの放つ一撃はアレプトの身体へ吸い込まれるように着実に細い線上を辿っていた。

 それを防ごうとするアレプトの両腕も、身を捻って避けようとするアレプトの動きでさえも、フェスタの持つ『剣の極み』はそれらを予知していたが如く確実にアレプトを追い詰めるーーはず、だった。


「いてて……」


 床に叩き付けられた痛みに、フェスタが思わず声を出す。

 離れた場所からニティカの叫ぶように自分を呼ぶ声と、さらに離れた場所からジバとアリサが何事かを叫んいる声も聴こえる。

 その声に応えるように、フェスタは剣を握っていない左手を上げてヒラヒラと振ってみせる。

 同時に、多少の痛みはあるものの身体が動けないほどのダメージを受けた訳ではない、と確認できた。

 不意に投げ飛ばされてしまっただけで、受け身を失敗したことによって背中をしこたま打ってしまった事による痛みであるらしい。

 アレプトからの追撃は反撃された瞬間を含み、現在まで行われてはいないらしい。


「さてさて、よろしければそろそろ起き上がっていただけますか?」


 アレプトが、倒れたままのフェスタに声を掛けてくる。

 フェスタがダメージらしいダメージを負っていないことは承知している、といった風情だ。

 その顔には微笑みさえ浮かぶ。悪魔が微笑むかどうかは分からないが、アレプトの目尻は若干下がり頬は緩み、口許は口角が上がっているように見える。

 人間基準で言えば、アレプトは何が楽しいのかは分からないが明らかに微笑みを見せているのだろう。


 アレプトは最初のーー戦いが始まった時点での立ち位置から一歩も動いていない。

 さらに言えばニティカも、観戦しているジバやアリサも一歩たりとも移動してはいない。

 初撃を加えに向かったフェスタだけが動き、何らかの反撃を受けてアレプトとニティカの立つ中間地点まで投げ飛ばされた、というのが現在の位置関係である。

 つまりは、誰も動けない程度の短時間でフェスタとアレプトの攻防は行われた、ということだ。

 アレプトは「そろそろ立ち上がって」とは言ったが、実際はニティカがフェスタに駆け寄る間もないほどの短い時間であり、フェスタにしてもそのアレプトの言葉を受けて立ち上がれる程度のダメージしか受けてはいない。


「フェスタ様!」


 仰向けの状態から上半身を起こし、そこから膝立ちの姿勢になったところでニティカがフェスタに駆け寄って来る。

 背後からフェスタの両肩に手を乗せ、心配そうな表情でフェスタの顔を覗きこんでくる。


「大丈夫ですか!?」

「う、うん。 大丈夫……です」


 ニティカに掴まれた両肩から、背中の痛みが引く感覚が伝わる。

 どうやら、ニティカがフェスタに回復魔法(ヒール)を使用したらしい。

 さほどダメージを受けてもいなかったのだが、それでも些少なダメージすら消えたお陰でフェスタの体調は戦闘開始前と全く変わらぬ状態に戻る。


「よいしょ……っと」


 回復が完全に終わると同時に、フェスタの肩からニティカの両手が離され、フェスタはその場で立ち上がる。

 その様子をアレプトは腕を組んだまま見ていた。いつの間にか戦いの構えは解かれてしまっている。


「ではーー」


 フェスタとニティカ、二人がアレプトに向き合うのと、アレプトが口を開いたのはほぼ同時のタイミングーーというよりは、アレプトがタイミングを見計らって話し始めた、というのが正解だろう。

 アレプトが追撃をして来なかった思惑は量れてないが、戦闘再開の合図と受け取った二人が構えようとしたところでーーアレプトが言葉を続けた。


「ーー先ほどの攻防をまずは振り返ってみましょうか?」

「へ?」

「……?」


 アレプトは明らかに微笑んだ、機嫌の良さそうな表情をしてフェスタとニティカを見ている。

 質問に対し、非常に惜しい解答を出した生徒に対する教師の表情、というのが近いだろうか。

 フェスタとニティカは、アレプトの言葉の意図が理解できずに訝しげな顔を見せるのがやっと、という反応をしている。

 戦いの最中(さなか)に、敵とまでは呼べずとも対戦相手が流れを切って質問をしてきたのだから、二人の反応が普通で、むしろアレプトの方が異常な行動をしていることは間違いない。

 しかし、アレプトはそんな状況にはお構いなしに再びにこやかに口を開く。


「はい、全てが終わってからでも良いのですがね。

 一つ一つ丁寧にやっていきましょう。

 幸い、時間はたっぷりとありますからねえ。

 まずは、私と剣をお使いになったお嬢さん、貴女から振り返ってみましょうか?」


 そう言いながら、アレプトは手の平をフェスタに向けてフェスタの発言を促してくる。

 さながら、授業中の教師のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ