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フェスタの冒険 会心の一撃

 戦いの口火を切ったのはフェスタである。

 剣を胸の高さで水平に構え、常人であれば視認できないであろう速度で一直線にアレプトに向かい突っ込む。

 後ろに立つニティカは戦闘開始の位置から動いていない。

 ジバやアリサも含めて四人で戦う際の戦闘態勢(フォーメーション)と同じ動き方だ。


 高速で移動しながら、フェスタは視線をアレプトに固定しつつ集中力を研ぎ澄ませようとする。

 最近になって心ならずも会得した『剣の極み』を発動させる為である。

 フェスタはこの技を使用するのに際し、未だに『安易に使うべき技ではないのでは?』という忌避感を抱いているのだがアレプトを相手に出し惜しみをしている場合ではない。


 四人で戦う場合であればサポートをアリサやニティカに任せ、フェスタ自身も魔物を牽制しつつジバに(とど)めを刺して貰うことでフェスタが剣の極みを使用することを避ける、という方策も取れる。

 だが、今回はフェスタとニティカの二人きりである。

 相手となるアレプトの戦力はどう見ても低く無い。フェスタが火力要員(アタッカー)となるのは必然の流れだ。


 程なくしてーーといってもフェスタが10メートルほど先に立っているアレプトの許へ辿り着かないレベルの瞬間的な時間でーーフェスタの視界から色が消えていく。

 そのまま集中力を高めると、常の如くフェスタにはアレプトの周囲に『黒い線』が浮かぶ。

 アレプトはいつの間にか腰を落とし、右手を前にして左手を頭上にする中国拳法のような構えを取っている。

 世間一般で言うところの『達人(マスター)』と呼ばれる程度の武芸者であればアレプトの姿から隙を見出せないレベルの完成された構え方であった。


 しかし、本人が望んでいないとは言え、そこいらの達人を遥かに凌ぐ眼と勘、身体能力が融合された能力(ちから)を持ったフェスタにはーーアレプトのごくごく僅かな隙が見えていた。

 突き出されたアレプトの右腕より僅か上、1センチにも満たないミリ単位の針の穴を通すような隙間。

 そこ以外の場所ならばいかなる攻撃でも防がれてしまう、そんな細い線がアレプトの身体から伸びているのがフェスタの眼は捉えている。

 アレプトまでの距離は残り2メートルを切るような地点で、フェスタを剣をアレプトから伸びる細い線の軌道に乗せて……一気に振り抜く。


 フェスタの剣は吸い込まれるようにアレプトの身体の左胸の辺り、悪魔と呼ばれるモノにも心臓があり、それが人間と同じ場所にあると云うならば人であれば間違いない絶命を逃れ得ない、悪魔がいかに頑丈で心臓がその位置になくとも大ダメージを負わされるのは確実ーーそういった予測しか出来ない軌道を描く。


 戦闘開始直後に放たれた、必殺の一撃によって、勝負が早々に決まる。


 そういう風に、その場にいる誰もが感じた。

 戦いに参加せず、見守るだけの立場で離れた場所に立つからこそフェスタの動きをなんとか追えていたジバやアリサも。

 フェスタの動きをフォローするべく、背後の位置から集中してフェスタとアレプトを注視していたニティカも。

 そして、誰よりーーその一撃を放ったフェスタも。


 完全に隙を突かれ、『剣の極み』によって完璧な必殺の一撃(クリティカルヒット)を食らってしまったアレプトはそのまま地に倒れるしか残された道は残されていない。

 現に、フェスタの眼は構えられたアレプトの右手の上を素早く通過し、意識の隙間を縫うように迎撃に向かって来たアレプトの左手を置き去りにするかのようにアレプトの胸部へと突き立てられる剣の刃が見えていたのだ。


 仮にフェスタが何でも斬れる、鉄でも斬れる、斬れない物はこの世でコンニャクしかない刀を持った怪盗の一味の侍チックな某五右衛門であれば「またつまらぬ物を斬ってしまった……」ぐらいしか言うセリフが残っていない程の、文句一つ出せない完全なタイミングで放たれた一撃であった。


 そして、ぶつかり合った同士以外は知覚できない邂逅の瞬間を終え、ジバやアリサ、戦場の後方に立つニティカにもフェスタとアレプト両者の初撃の結末が視える。

 刹那の瞬間を終え、戦いの広間の地面に仰向けで転がされていた『敗者』はーーフェスタであった。

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