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フェスタの冒険 合図

 フェスタとニティカ、二人が互いの言動に対してモジモジとして動けない状況に陥り、それを見ていたジバやアリサもそれを取り持つタイミングを何となく逃してしまっていた。

 そのような状況下でも時間は容赦なく過ぎてしまう。

 全員が何となく、本当に何となく気まずい空気の中で、誰も口を開けなくてなってしまっている内に時は経ってしまい、準備を済ませたらしきアレプトが部屋へと戻って来てしまった。


「さて、お待たせ致しました」


 仰々しい感じに、大げさなお辞儀をしながらアレプトが尊大な口調でそう告げる。

 真っ赤な両眼から放たれる視線の先にはフェスタとニティカ、今ひとつ気合いが乗り切れていない両名の姿が捉えられている。

 いきなり襲い掛かるような真似はしないが、二人が戦闘の構えを取ればそれが戦闘開始の合図となってしまう、そんな気配をアレプトは纏わせていた。


 大広間に微妙な空気が流れる。

 張り詰めているように見えて、それなのに引き締まってはいない。

 戦う気を漲らせるアレプトの対して互いの認識の違いを知ってしまったフェスタとニティカ、両者の中心に当たる場所にのみ適切な緊張感に満ちた空間が形成されてしまっていた。


 フェスタとニティカ、この二人も戦う気が無い訳ではない。

 そもそもニティカが受けた神殿からの指示によって試練の迷宮を踏破しなければならなかったのは確定事項であるし、些か奇妙な流れではあるが試練の迷宮の主であるアレプトと戦わなければならないという事に関して異存がある訳でもない。

 しかしながら、二人が現在のところこの戦いに際して気合いが全く入っていないというのも事実であった。

 二人の間には齟齬があり、その食い違いが両者の心の内に楔のように入り込んで隙間を生じさせている。


 出会ってから短い期間しか共に過ごしていない二人、正確に言えばジバとアリサを含めた四人ではあるが、フェスタとニティカの両者に絞った話をするのであれば、ここまで両者の関係は極めて良好なものであった。

 フェスタから見ると、ニティカをやや強引な形でパーティーに加入させたものの、自分や仲間と上手く打ち解けてくれた上にややスキンシップ過剰と思えるところもあるが年齢の近い自分とも仲良くしてくれているニティカに対し、当初あった引け目が無くなりかけてきていた。

 フェスタから見た現在のニティカは『パーティーの仲間かつ親しい友人』である。

 一方、ニティカから見たフェスタは出会った初めから一貫して『支えるべき神』である。

 両者の認識のすれ違いはここまで危ういバランスの上に立ちながらも、幸か不幸か周囲からの訂正も入らずに継続さでてしまっていた。

 だが、二人きりで戦わなければならないというこの局面を突き付けられて問題が浮き彫りにされてしまった。

 両者が同時に、共に戦う事に不安を感じてしまったのだ。


「おや?」


 即座に戦闘態勢へと移行しなかったフェスタとニティカを見ながら、アレプトが僅かに首を捻る。

 フェスタとニティカの反応の無さが予想外、そう言いたげな様子である。

 しかし、それ以上を言葉にすることはなくアレプトは『改めて』といった空気を纏わせつつフェスタとニティカを見据える。

 それと同時にーー場の空気の色が変わった。

 目に見える変化ではない。

 だが、肌に感じる空気や聞こえないはずの無音、臭いに視界に感じる僅かな違和感、それら全てがその場にいる全員に広間の空気が確実に変わったことを知覚させていた。


 アレプトの言葉を伴わないメッセージーー『ここは戦いの場所である』と。


 フェスタとニティカの間にある見えない、共に戦うことを不安にさせている痼り。

 それは全くといって良いほど解消されていない。

 それでも二人は感じ取った、それでも今は戦うしかない、と。

 フェスタが剣を正眼に構え、ニティカもそれに倣うように自身の武器を両手で掲げる。

 今ひとつ足りていない気合いを補うようにフェスタが剣の柄を強めに握り込み、呼応するかのように剣が『チャリッ』と小さな音を響かせた。


 それがーー試練の迷宮に於けるラストバトルを開始する合図となった。

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