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フェスタの冒険 蒼龍の愚痴

 眼前にいきなり現れたのは、片脚を無くした蒼い服を着た青年である。

 よく見れば端正な顔立ちをしているのに、パンダのように目の周囲が真っ黒になってしまっていて台無しな印象を植え付ける。

 片脚が無い為か、立ち上がることが出来ずに胡座のような姿勢で座りつつ、片手で顔の辺りを押さえている。

 呆然と、青年を見つめるしかできないフェスタ達に、青年はやおらに口を開いた。


「痛てて……いきなり総攻撃って何ですか?

 普通、竜が番人やってたらもっと驚いてしかるべきでしょう?

 しかも魔眼で足止めとか反則でしょうに 」


 青年から出てきたのは愚痴である。

 フェスタ達ではなく、虚空を見つめるようにブツブツと愚痴を垂れ流す。

 ジバでさえ唖然として言葉を失っている、以前とは様子が違うようである。


「まったく、まったくもうですよ、まったく。

 普通ね、竜が出たらですよ、驚くのが礼儀じゃないですか。

 『ど、ドラゴン!?』とか『なぜこんな場所に!?』とかですよ。

 それで私が『掛かってこい、矮小なる冒険者どもよ!』とか言ってからブレス一発吐くんです。

 そこから戦闘開始が様式美ってものでしょうに、段取り無視はいけません!」


 愚痴を言う間に、青年の視線はフェスタ達に向き始め、徐々に内容は自分の美学を語るものになっている。

 フェスタ達も、まだ展開に頭の回転が追い付かないものの、青年の言葉に「はあ」とか「はい」という生返事のような相槌を入れている、

 と、しているうちに青年が冷静さを取り戻したのか、ハッという表情をしてみせてからフェスタ達に向けて自己紹介をしてみせる。


「あ、申し遅れました。

 私、この第四十階層を預かる古竜、レナスィと申します。

 以後、お見知り置きを」


 座ったままであるが、堂に入った挨拶の仕方であった。

 見た目が平時であれば、さぞかし貴族然とした礼儀正しいものに見えたのではないだろうかと思わせる。


「あ、これはご丁寧に、私はこのパーティーのリーダーフェスタと申します」


 場の空気に流されるように、フェスタが挨拶を返す。

 青年が愚痴を溢し始めた辺りから、メンバーは徐々に移動を始めており、現在は全員フェスタのすぐ近く、レナスィと名乗る青年から数メートルといった場所にあつまっている。

 フェスタが挨拶を返すと、レナスィはパーティーをしげしげと眺めてから、一つポンと手を打って見せた。


「なるほど、見知った顔の方がいらっしゃる。

 そちらの方のお知恵ですね」


 と、ジバを見ながら何やら納得したという表情を見せた。

 言われたジバは、まだ呆気に取られているようで、何を言っていいやらという顔のまま思うことを口に出す。


「ええと、貴方が先ほどの蒼竜の正体ーーということでよろしいのですか?」

「いかにも」

「私がここに以前来た時には、そのような姿はお目にかかりませんでしたが」

「普段は実力を見定めれば、そのまま倒されたフリをして姿を消していますからね。

 今回のようなやられ方ですとそんな余裕もありません。

 完全に殺されてしまっては、百年は復活できなくなりますからね」


 レナスィの言葉に、ジバが「なるほど」いう言葉を漏らす。

 嘗てジバがこの第四十階層に訪れた際に、ジバはレナスィを見る事なくこの階層を抜けた。

 それ故に、ジバが知っていた情報としては『第四十階層の番人は竜である』というものに止まっていたのだが、いきなりレナスィが現れて愚痴を語り出した所為で面食らってしまっていたのだ。


 しかし、ジバが多少の納得を得たところで他の面々は別である。


「その……私たちは、ここを通過しても大丈夫なんですか?」


 未だに状況を受け止めきれない面々を代表して、フェスタがレナスィに問う。

 アリサは胡散臭いものを見るような眼差しで、ニティカは頭上に『?』マークを浮かべながら事の成り行きを見ているような状態だ。


「もちろんです、番人である私に勝ったのですから当然先に進んでいただいて結構ですとも」


 レナスィがそう答え、フェスタは呆然としながらも頷く。

 ここまでの迷宮探索で、どの番人を倒しても愚痴を零されるようなことは無く、今回は止めを刺す前に戦闘を制止されたので勝ったかどうかさえ曖昧であったのだ。

 番人から直々の勝利宣告を受け、何となく安堵したような心持ちとなる。


「まあ、ここからは私を容易く倒せるようですので先に進むのも楽勝でしょうが。

 特別にご褒美を差し上げましょう」


 と言いながら、レナスィが差し出してきたのは小さな腕輪である。

 乳白色の本体に、小さな蒼い石が埋め込まれた、全体には細かな紋様が施されたものだ。


「これを身に付けていれば、不要な戦いは避けられるはずです。

 それでは、私は休養に入らさせて頂きますよ。

 ああ、酷い目に遭った……」


 言いたいことを言うだけ言って、レナスィが霧に包まれるように姿を消していく。

 フェスタ達が何かを聞く前に、レナスィは完全に部屋から姿えお消してしまい、残されたのはフェスタ達とレナスィが置いて行った腕輪だけとなった。

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