質問、再開
フェスタが駄菓子を貪るように食べ尽くし、砂糖を大量に入れた紅茶を四分の三ほど飲み干したのを頃合いと見て、茉莉から再び質問を切り出した。
「その、あなたと入れ替わって勇者をするにしてもだよ。私がそっちの世界に行けるの?」
疑ってもキリがない、完全に信じているわけでもないし未だに入れ替わって勇者とやらをやるつもりも無いが、 茉莉はともかく浮かんだ疑問をフェスタにぶつけていくことにした。
仮にフェスタの言う『剣と魔法の世界』があるとして、フェスタが茉莉の世界に来ているからには少なくともフェスタは両方の世界を行き来できるのであろう。
だが、茉莉にはそんな能力はない。
茉莉の知る茉莉は、ただの家事がちょっと得意なだけの普通の女子高生なのだ。
現実世界と異世界を行ったり来たりするような方法はこれっぽっちも知らないし、できない。
それに対しフェスタは事も無げに、「はい、大丈夫です! 私が責任を持って送り迎えをさせて頂きますので」とうめぇ棒の袋に残ったコンポタ味の粉を舐めながら答える。
色んな意味で大丈夫か、コイツ。と思いながらも質問を続ける茉莉。
「えと、入れ替わって勇者って具体的に何をするの? 私、戦うとかできないし魔法も使えないよ?」
これに対してもフェスタはどうとでもなると言いたげに答えを出す。
「大丈夫です。魔王を討伐しましたので魔物はほとんど出て来ませんし、出てきても町の衛兵隊の皆さんが。衛兵隊の皆さんがダメでもお城の騎士隊の皆さんが何とかしますので」
「その……騎士隊? の人たちでダメだったら?」
「そうなると……私たち勇者パーティーの出番ですが、皆さんとても強いので大丈夫です!」
力強く頷きつつ答えるフェスタ。
舐め尽くしたうめぇ棒の袋から指で粉をこそぎ落とそうとしている姿は台無しであるが。
「うーん、私そっちの常識とか生活とか何も知らないんだよ? 入れ替わってもすぐにバレるんじゃないの?」
「それはですね……」
言いつつ、視線は茉莉の足元にあるうめぇ棒たこ焼き味の空袋に向いている。
コンポタ味と違いたこ焼きなので袋の中に粉が残ることはないがフェスタの手に渡ると自分の食べた後にも関わらず空袋を舐め始めかねないのでゴミをそっと自分の背後に隠す。
「あちらの生活を送るに当たってのマニュアルをお渡しします」
ああ、という恨めしい眼をしながらフェスタがそう述べる。
マニュアル、説明書ーーそんなものを手に持ちながら日常生活を送るとなれば見た目から完全に怪しい人ではないか?
ストレートに疑問をぶつけてみる。
「そんな、どれぐらいの大きさのマニュアルかわからないけど。そんなもの見ながら生活ってーー普通に無理でしょ?」
すると、フェスタが「ふふん」という声と共に顔を先ほどのように『ドヤァ』というものに変える。
自分と同じ顔が見せるドヤ顔は他人の見せるドヤ顔の倍ほどはイラっとくるなあ、という頭を一発引っ叩いてやりたい衝動をぐっと堪えつつフェスタの返事を待つ茉莉。
するとフェスタはネグリジェの裾をゴソゴソと漁り始めた。
指先の感覚頼りにポケットを探っているのかーーそもそもネグリジェにポケットがあるのか、という疑問はあるが、茉莉からフェスタの指先が見えないのでポケット状の何かがあるのだろう。
そのまま待つこと数秒間、フェスタがようやくポケット(?)の中から探し物を見つけたらしく、何かを取り出し頭上に掲げた。
「マニュアルリング〜!」
そう言いながら指輪を見せてくるフェスタを見て、茉莉は『まるで某青い猫型ロボットみたいだな』と思いつつもそれは口に出さずにおいた。