フェスタの冒険 低層
「迷宮って、こう……もっと番人みたいなのがいるって思っていました」
第一階層から第二階層へと向かう途中で呟いたのはフェスタである。
雑魚と呼んで差し支えない魔物との戦闘はあったが、すんなりと第二階層へ進めてしまった肩透かし感があったからである。
「いいえ、各階層には存在していませんね。
番人が出るのは十階層ごとになっていたはずです。
このペースで進めれば今日中には最初の番人と戦うことになると思いますよ」
ジバがフェスタの疑問に答える。
フェスタはその答えを聞いて、そうなんですね、と言いつつふむふむと頷きながら歩く。
それを聞きながら先頭を歩くアリサは『そんなに早く進めるか?』と思いつつ胡乱げな目をするが口には出さない。
実際のところ、自身が初めてこの迷宮に入った時よりも第一階層を抜けた速度が圧倒的に早かったからだ。
アリサが初めてこの試練の迷宮の第一階層を抜けるまでに二日は掛かったのだ。
ジバの指示によって最短ルートを進めたとはいえ、一時間にも満たずに第一階層を抜けたのは呆気に取られてしまう思いだった。
フェスタとジバ、この二人と組んだ初日に金銭感覚の違いにも驚かされたものだが、旅立ってからも度々見せられる実力の違いのようなものに驚かされている。
(まあ、アタシの常識で考えるだけ無駄か……)
そんな風に考えながら、魔物の襲撃に注意を配りつつ進む。
パーティーの陣形は縦一列、先頭をアリサ、次にフェスタ、ニティカと続き、最後尾をジバが取る。
最初は訓練のためにフェスタを先頭にするかと話し合ったのだが、迷宮での初戦を見た結果、アリサの索敵訓練とタンクとしての訓練を優先することになりアリサが先頭で進むことになった。
旅の合間の訓練の結果、アリサは体内の気の運用に関してはほぼ納めつつあり、後は実践で磨き上げて実用できるようにするレベルまで特訓が進んでいる。
現在も、アリサは先頭を歩きつつ後方の話を耳に入れる程度の余裕は持ちつつも、周囲に気を巡らして敵の気配を探っているのだ。
「ん………!」
歩いているうちに、先頭のアリサが魔物の気配を察知する。
前方の約五メートルほど先、曲がり角の辺りから漂う微かな瘴気。
「曲がり角の先、敵は恐らく三体から四体、大した気配は感じないね」
察知した気配を後方の仲間へ報告する。
同様の気配を感じていたフェスタとジバが頷き、気配は感じていなかったもののアリサの言葉に敵との接近を認識したニティカも少し遅れて頷いてから戦闘態勢に入る。
「前衛のお二人は今回は足止めに徹していただけますか?
肩慣らしも兼ねて、今回は私とニティカさんがメインで相手をしますので」
ジバの言葉を受け、フェスタとアリサは頷く。
少しずつ、気配を探りながら曲がり角までたどり着くとーー二人が一斉に飛び出す。
奇襲のような形で、曲がり角の先に居たオークに対峙してみせる。
バラバラな位置に立ったまま、オークたちは身を竦ませていた。
オークは豚のような頭を持った獣人だ。
非常に雑食性が強く、戦闘力はあまり高くないが腹の減っている時は何でも見境なく襲う。
また繁殖力が高い種族で、基本的に単独行動をしないという習性がある。
それ故に、遭遇するときは常に複数体で襲い掛かって来るため油断すると痛い目を見せられる。
一体に集中すると、残りのオークたちから攻撃される、といった具合だ。
それだけに、冒険の初心者には単独で狩ることがやや難しい魔物と言える。
今回、フェスタたちの遭遇したオークは四体、数の上では互角であり不利はない。
しかも、急襲できた形となった事もあり、オークたちはろくに戦闘態勢へと移行できていなかった。
「では、行きます!」
「はい!」
ジバの言葉を合図として、ニティカがフェスタたちより前に出る。
手には棍棒を構えて、動きが止まったままのオーク一体の頭へ力任せにふり降ろした。
ゴシャッ、という鈍い音と共にオークの頭が潰れる。
スイカのように頭を砕かれたオークはそのまま地面に倒れていく。
その間に、ジバが残る三体のうち二体に向けて火球を放つ。
制球の良い投手が投げた球のように、火球は勢いよくオークたちの胸部の着弾する。
そのまま火球はオークの上半身を着火させ、オークの身体は一気に燃え盛る。
二体のオークが消し炭になりかかる頃に、最後の一体がようやく攻撃の態勢に移る。
一番付近に立っているニティカを目掛けて突進を仕掛けたところで、
「甘い!!」
アリサが道を塞ぐようにオークとニティカの間に割って入り、身体を張ってオークの突進を止める。
気の運用によって、通常よりも硬くなったアリサの身体は完全に無傷でオークの攻撃を受け止めた。
「ヨシっ、今だ!」
「行きます!」
アリサの声を受けて、ニティカがオークに向かって棍棒を構えて、オークの身体を横薙ぎに殴る。
横腹に棍棒の直撃を喰らったオークがくの字になりながらよろけふためいたところに、さらにニティカが一撃を入れる。
この一撃が見事にオークの脳天を捉え、最初のオークと同じくこのオークも頭部を砕かれ息の根を絶たれた。
こうして、色々なフォーメーションを確認しつつ順調に迷宮探索を進める一行。
外の世界では日が暮れ始める頃の時間には、遂に初の番人との戦いとなる第十階層の玄室前へと辿り着いたのであった。