フェスタの冒険 第一階層
迷宮の第一層、最初の敵はゴブリンである。
非力で力も弱い種族で、身体も小さいため冒険者でなくとも対処できるような弱い魔物だ。
冒険者としては旅立ってすぐに出会ったとしても一人で倒せなければいけないと言われるような相手である。
「落ち着いてやりましょう」
ジバの言葉を合図にして、アリサとフェスタが間合いを詰める。
ゴブリンの数は三匹、群れとしてもかなり小さい。
そもそもは迷宮などには出没しない、森林や岩穴などの比較的瘴気の薄い場所に発生する魔物である。
通常は森の中で集団生活を送っており、餌を探しの森の中をうろつく集団が冒険者と遭遇したりする。
迷宮では強めの他の魔物に駆逐されてしまうのか、それとも餌となるものが少ないのか、ほぼ出没することが無い種類の魔物である。
こういった弱い魔物でも存在しているのが修練の迷宮の特色だ。
フェスタは、剣の極意を身に付けたと知ってから初めての戦闘となる。
盗賊との戦いはその能力すらよく自覚もできない内に終わってしまった。
今回、フェスタは能力が発動するべく意識を集中する。
自分で、この底知れぬ能力が制御できるのかを確かめためである。
(戦うことにーー集中する!)
眼の奥に力を込めるように、身体に気合いを入れるように、ゴブリンに歩み寄りながら集中力を高める。
すると、盗賊との戦いの時とは違い、色も音も失われないままに、ゴブリンたちの身体の周囲に線が見えた。
ゴブリンたちは隙だらけであった。
身体を中心に、まるで集中線のように無数の線が伸びている。
フェスタは、その線の中から比較的濃く、かつアリサから遠い線をなぞる。
「…………!!」
ドサッという音だけを残し、一体のゴブリンが倒れる。
その身体には下半身が残されていない。
フェスタはゴブリンの胴を横一文字に斬り抜き、上半身を落としたのだ。
他のゴブリンが反応する間も無く、フェスタの剣は少し離れた場所に居たゴブリンの首元にあった。
もし、ゴブリンに感情があれば恐怖や畏怖、怯えや嘆きといった感情を抱いたであろう。
首元を狙われたゴブリンは、一瞬だけフェスタの顔を、眼を見た。
そこには純粋なまでの殺意が無慈悲に込められていた。
ゴブリンは本能から『逃げなければ』と思った。
しかし、それはあまりにも遅い判断で、次の瞬間にはゴブリンの頭部は身体から斬り離されてしまっていた。
フェスタが二体のゴブリンを葬り去ると同時に、アリサも自分の担当であるゴブリンを倒していた。
人間でいえば心臓のある位置の近く、そこが拳大に陥没し、ゴブリンは息絶えていた。
「ああー、やっぱりアンタは速いね、フェスタ」
自分が一体を仕止める間に、やや離れた場所に立っていたはずのゴブリン二体を倒してしまったフェスタに、アリサが苦笑いしながら言う。
「す、すみません……」
そう言われ、フェスタが恐縮したように肩を竦めて謝る。
表情はいつものフェスタに戻っていた。
「お見事です。フェスタさんもアリサさんも!」
パチパチと手を叩きながら、ニティカがあっという間に終わった戦闘の手際を讃える。
その一歩後ろに控えるジバも自分が手も口も出し暇無く終わらせた二人の手腕に心の内で感心してみせていた。
(これは………予想よりも早く迷宮を抜けれるかもしれませんね)
フェスタのみならず、自分の思っていた以上に強かったアリサ。
というより、出会ってから現在までで魔物相手に実力を披露するタイミングは無かったのかもしれない、とジバはアリサの実力に対する評価を上方修正した。
こうして、一行の迷宮での初戦は圧勝と呼べるレベルで無事に終わり、先へ進むべく迷宮の奥へ向かう。
途中、何度かゴブリンの群れやハウンドという犬に似た魔物と出会ったが難なく撃退し、一行は迷宮に入ってから数十分で第一階層から第二階層へと向かう階段に至ったのであった。