フェスタの冒険 迷宮
試練の迷宮は、神代の時代に神が人を鍛える為に造ったと伝えられている。
全部で五十の階層から成る大迷宮だ。
その不可思議、かつ一番の特色とも呼べるものが『弱い魔物が順番に出没する』ということであろう。
その名の如く、本当に人を鍛える目的で造ったとしか思えないこの迷宮は、何故か各階層毎に決まった魔物しか発生しないのだ。
そして、下の階層になればなるほど強い魔物が出るようになっている。
冒険者の間では『試練の迷宮の◯◯階を抜けた』と言えば凡その強さの目安になるほど、この迷宮の性質は広く知られている。
しかし、この挑み易い性質とは裏腹に、最下層まで制覇となると達成した者は歴史上に於いても極めて少ない。
文献によれば約八百年以上の昔から存在するこの迷宮だが、踏破したパーティーの数となると両手足の指で足りてしまうほど難易度は高い。
古からの言い伝えでは、踏破した者のは神からの褒美が得られると語られるこの迷宮に、数多くのパーティーが挑むものの下層になるほど強くなる魔物に行く手を阻まれ、ある者は逃げ帰り、ある者は迷宮の中で息絶え、ある者は自分の強さ弱さを見極めてこの迷宮を去って行く。
そうやってこの試練の迷宮は初心者向けなのに難攻不落という矛盾した性質を孕む迷宮として冒険者の間にその名を馳せてきたのである。
自分の腕さえ過信しなければ、各種の魔物が出没し、しかも迷宮にはありがちな罠も存在していない。
それ故に現在でもこの迷宮は、弱きはゴブリンから強きはドラゴンまでが存在しているとまで噂されるこの迷宮は、古くから冒険者たちの腕試しの場所として利用されているのである。
また、この迷宮は神聖皇国エフィネスにあるネフィス神殿本部が管理、運営、護衛をしており入口を神殿所属の聖騎士たちが守ることで地上に魔物が出て来ることもない。
迷宮を目当てにエフィネスに滞在する冒険者も多く、そのせいで神聖皇国という国名の割には町を闊歩するのは聖職者より冒険者が多く、町の施設も冒険者向けのものが充実していたりする。
早朝、フェスタたち一行は既に迷宮の入口まで来ていた。
朝靄に包まれた迷宮の入口は冒険者を待ち構えてその口を開けているようにも見える。
「私の以前の経験だと最下層まで早くても三カ月はかかると見て良いでしょう」
と、パーティーの面々に対してジバが言う。
実際は三カ月でもかなり短め見積もりなのだが、以前の経験を活かせるであろうと踏んでジバはこの三カ月という期間を見積もった。
「そんなに早くいけるもんかね?
アタシも前に潜ったことがあるけど、半年掛かってようやく二十階てとこだったけどねえ」
自身の経験とジバの予測との違いにアリサが異論を挟む。
当時とパーティーメンバーは違うが、それでもジバの見積もりは甘いのではないか、という気持ちが大きい。
「なるべく早くとは思いますが……焦らずに行きましょう」
迷宮初挑戦のフェスタとしてはジバとアリサ、どちらの意見とも関係無く自身の意気込みのみを述べるに留めた。
それに、期間が長くなろうとも短く済もうとも、ニティカがパーティーに入る為の後顧の憂いを断つには迷宮の踏破が外せない条件になってしまっているのだ。
しかしながら、迷宮自体が初挑戦なフェスタには知識も経験も無い。
なのでフェスタとしては出来る限り、自分の出来る事を、と考えることしか現状ではできる事がない。
ジバが正しいとも、アリサが正しいとも言えず、無難にこの場を納めるぐらいしかできないのだ。
「私が、余計な条件を持ち込まなければ、このようなことには……すみません」
珍しく普段に比べればしおらしげなのはニティカである。
パーティーに、というよりかは敬愛するフェスタ様に迷惑を掛けてしまった、という思いからなのだが。
眉根は下がり、口元もへの字に歪んでしまっている。
気合いという面に関しては、一息もふた息も足りないほど萎縮してしまっている。
このように、四者四様、心持ちはバラバラといってしまえるほどに別々ではあるがーーそれでも目標は一つ『試練の迷宮制覇』としてパーティー初の迷宮探索は幕を開けた。