フェスタの冒険 神殿
ジバとフェスタのやや深刻な話は、ニティカの「ただいま戻りましたー」という間の抜けた声を伴う帰還により終了の時を迎えた。
神殿に向かい、ニティカの居た村が魔物の襲撃によって全滅した、という報告をすれば終わりと見込んでニティカは出ていったのだが、それだけで話が終わるほど世の中は単純ではない。
今後の事を含めた諸々の話に付き合わされ、ニティカが宿に戻ってきた現在、時刻は夕方をとうに過ぎて完全に夜になってしまっていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「おや、もうこんな時間ですか。お話の方は上手くいきましたか?」
「そうですね……長くなりそうなんですが、宜しいですか?」
ニティカの返答に、やはりかという表情を隠さないジバ。
ニティカから聞いていた話から推測する限り、神殿がニティカを無条件で自由にさせるはずは無かろうとジバは踏んでいた。
フェスタとアリサ、ニティカにもその推測の内容は知らせており、その上でニティカは神殿への報告の際に神殿側から何らかの『神殿を離れて自由に行動するに当たっての条件』を突き付けられたのだろう。
その辺りを含め、ニティカは話が長くなりそうと前置きしているわけである。
「そうですね、時刻も時刻ですし、夕食を摂りながら話を聞くのは可能ですか?
他の人に聞かれるとマズい話が混ざるようならこのまま部屋で話を聞きますが。
それとも、急ぎでなくても大丈夫そうでしたら食事の後に部屋へ戻ってから、というのも良いですが」
ニティカとフェスタ、両名を見ながらジバが選択肢を示す。
「でしたら、アリサさんも合流して頂いた方が話が早いと存じますわ。
お食事しながらでも大丈夫なお話ですので、移動してからそちらで」
ニティカが答える。
アリサも合流してから、というならパーティー全体に関わる条件を神殿が出したのだろうか。
そんなことを考えつつも、フェスタたちはアリサが行くと言っていた酒場を目指し、そこで夕食を摂りつつニティカの話を聞くことに決めたのだった。
ここで、神聖皇国における『神殿』の説明をしておく。
まず神聖皇国は一神教の国ではない。
大神ネフィスを中心とした神々を祀る神殿が中心となって国を治めるという形態を取る宗教国家だ。
神殿は教皇を頂点として祭祀や結婚、葬式など宗教に関する儀式を管理運営しており、この世界で活動する神官や巫女、各地にある神殿や教会の神父や僧侶、尼僧もほぼ全てが神殿に所属している。
ほぼ全て、というのは神聖皇国にて神と認められない神々を信奉する者は神殿に所属を許可されないからである。
破壊神や魔神といった、いわゆる『邪神』に信仰を捧げる者たちだ。
とはいえ、神聖皇国の宗教としての立ち位置はかなり大らかなもので、殆どの神は信仰を捧げるに価すると認められている。
例えば厨房を支配する竃神や商いの神、戦神に果ては色事の神、淫神などという神まで信仰の対象として認めているのだ。
言うなれば『宗教の取りまとめ』が神殿の持つ役割とも呼べる。
他には、地脈の浄化や疫病や怪我の魔法による治療も神殿での管轄となっており、冒険者ギルドと一部の業務内容が被っている部分あるが、僧侶系の冒険者は優先順位を神殿が上として活動することが通常であり、業務が被ることによって起こりがちなトラブルは滅多にない。
それ故、今回ニティカが神殿から受けた何らかの条件はニティカにとっては優先すべきものなのだが、パーティーのメンバーがそれに従うかは別となる。
その事情を話す為にニティカを含むフェスタたちはアリサと合流すべく、酒場へと訪れた。
「おー、みんな揃ってきたねえ。さあ、みんなも飲もう!」
久しぶりの無制限の酒に、既に出来上がった状態のアリサが一同を迎える。
アリサを見た雰囲気で、話を聞いて意思を決定する程度の理性は残っているであろうと判断し、ニティカの話を聞くことにするにであった。