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フェスタの冒険 畏れ

「視えましたか……?」


 遠慮がちにフェスタが聞いてくる。

 ジバは無言で頷いた。


「その……これって何なんですか?」

「何……とは?」

「いきなり、なんか訳が分からなくて。急に変になったみたいで、その……怖いです」


 フェスタが、混乱し、迷い、脅えているのが分かった。

 きっと、何の前触れもなく自分の世界が変わってしまったような体験をしたのであろう。

 その変化の理由も分からず、どう対応していいのか、まだ幼いフェスタに分かるはずもない。

 ジバに救い求めてきたのだ、と理解した。


「フェスタさん、貴女の身に付けたこれは……『剣の極み』と呼ばれるものです。

 実際にフェスタさんに何が起こったのかは分かりませんが、少なくともフェスタさんに悪影響があるものとは思いません」

「その……多分なんですけど、弱点が見えるようなりました」

「弱点……ですか?」

「はい、そこさえ斬れば相手を倒せる、みたいな」


 言語化できない感覚に、もどかしげな様子フェスタが自身の変化を伝えようとする。


「ふむ、ちょっと理解し難いですね。

 今も私の弱点は見えていますか?」

「いえ、集中すれば見えると思います」

「では、普段は見えていない、と?」

「はい、何ていうか、でも目を凝らせば視えると言いますか、何て言えば良いのか」


 少し悩んだ風に、フェスタは立ち上がって、ベッドの近くに置いてあった陶器製のコップを手に取った。

 それを持ちながら、一つ深呼吸をした、と思うとコップを細い指で縦方向にスッとなぞった。


「どうぞ」


 と、言いながらジバにそのコップを渡すフェスタ。

 ジバがコップを受け取ると、直後にコップがジバの手の上で綺麗に真っ二つになった。


「これは……」

「コップの『弱点』をなぞりました。

 弱点が線で視えていて、そこをなぞるとこうやって何でも斬れます。

 ジバさんにも沢山の線が視えてます、多分どこをなぞってもジバさんを殺せてしまう線……です」


 フェスタの言葉を聞いて、ジバは過去に会った剣の達人を思い返した。

 昔に会ったその人物は「剣は極めれば剣すら必要無くなる」と言っていた。

 剣を極めてしまえば、自ずと相手の強いところと弱いところ、気を配る場所と気を抜いている場所が見えるようになる。後はそこを攻めれば勝ててしまう。剣はその時に使用する武器の一つに過ぎなくなる。

 そんな話だった。

 当時のジバは強さを求めてその人物と会ったが、語られたものは自分の求める強さとは別種であると感じ、深い理解には及んでいなかった。

 だが、フェスタが目の前やってみせた事によって、何となくではあるが能力の一端の触れることができた。


「なるほど……能力の内容は何となくですが理解しました。

 でも、フェスタさんはこの能力のどこに不都合があると?」

「私は……その……怖いんです。

 いきなりこんな変な……とんでもない能力(ちから)が身に付いて、自分が振り回されそうで怖いんです!」


 蒼褪めながら、フェスタがジバに訴えかけた。

 過ぎた力によって身を滅ぼす、よく聞く話である。

 フェスタはそれを危惧し、畏れているのだ。

 人間なのに、人智を超えた能力を身に付けてしまった自分のーーこれからを。


 そして、ジバにはそういった気持ちに覚えがあった。

 なので、少しだけ聞かせてみることにした。


「フェスタさん、少しだけ私の話をします」

「ジバさんの……ですか?」

「はい、私の過去の話です」


 そう言ってから、ジバは自分の昔話を始めた。

 それは、ジバが冒険の旅をしていた頃に、ひょんなことから『解析(アナリシス)』の魔法を身に付けた時の話であった。

 それを身に付けたジバは、現在のフェスタ同様に考え、悩んだ。

 しかし、悩んだ結果ジバはこの能力を受け入れることにした。

 この能力は活用する、しかし頼りにはしない、と決めたのだ。


「それは……どういうきっかけだったんですか?」


 肝心な部分をボヤかされてしまい、フェスタがジバに聞く。


「それは、私だけしか理解できないきっかけです。

 でもねフェスタさん、貴女がその能力を怖れる気持ちはとても大事なものです。

 そして、それを怖れて封印するのも、怖れながら使うのも、怖れを乗り越えて使い熟すのも。

 全ては貴女の決めることです。

 私に言えるのは、それぐらいなものです」


 ジバの言ったことが、分かるような分からないような。

 そんな気持ちかフェスタは複雑な顔をしたまま黙っている。

 だが、ジバの言いたいことは何となく理解していた。


 『ヒントは出せるが答えは自分で見つけないといけない』と。


 フェスタはジバに向けて一つ頷いた。

 それは、いきなり身に付いてしまった能力について、結論は出せないが自分なりに答えを探すという意味が篭った頷きであった。

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