異文化コミュニケーション
自室から短い廊下を抜けるとダイニングに繋がったキッチンにたどり着く。
キッチンに着いてすぐ、食器棚からカップとソーサーを二つずつ取り出してから茉莉はあることに気が付く。
(そういえば、飲み物なにが良いか聞くの忘れてたな)
紅茶や緑茶、はたまた焙じ茶コーヒー、ジュースなんて選択肢だってある。
まあ、ノドが乾いたからお茶を入れて来ると言ったのだから紅茶で構わないか、とすぐに割り切る。
そもそも『剣と魔法の世界』の住人なのだから、緑茶や焙じ茶といったイメージではない。
戸棚からティーバッグを二つ取り出しポットからお湯を注ぐ。
数秒も経たないうちにカップの中の透明な液体は紅茶特有の紅を差したような綺麗な茶色がかったものとなり芳しい香りがキッチンに漂う。
ソーサーに載せた二つのカップをプラスチックのトレイに置いて、シュガーポットと共に運ぼうとしてから茉莉は軽い空腹を覚えていることに気が付き、ダイニングのテーブル上に置いてあった駄菓子をこれまた二つトレイの上に載せてから自室に戻った。
「おまたせ……」
と、言いながら部屋に戻るためにドアを開いた茉莉の眼に最初に飛び込んできたのは、珍しげにテレビを指でつついているフェスタの姿だった。
「あ、いえ! そ、それよりもこれが『てれび』というものですか⁉︎」
と、興奮したように茉莉に尋ねてくる。
うん、そうだよと答えながらも『異世界人でもテレビの存在は知っているのか?』という疑問が茉莉の脳裏に浮かぶが、それを声に出しては問わないことにした。
代わりに、トレイをフェスタの目の前になる場所に置いてからベッドサイドにある小さなテーブルに置いてあるテレビのリモコンを手に取り電源をオンにしてやる。
すぐさまテレビの画面が映る、時間帯もあってか海外の商品を紹介する怪しげな通販番組で『どんな汚れも落ちる洗剤』とやらを外国人が一生懸命にセールスしている。
それを見たフェスタが「ふぉおお……」という、感動とも興奮とも言えそうな声を上げてテレビににじり寄る。
「こ、これは! 魔法よりも魔法です!」
興奮しながらテレビを見つめるフェスタに苦笑いをしつつ、持って来た紅茶と袋に個包装された駄菓子を差し出す。
「どうぞ」
と、勧めるとフェスタは珍しげにカップ入った紅茶と駄菓子をしげしげと見回す。
砂糖は自分で入れてね、と告げながらも何かおかしなものでもあったかな?と思いつつ茉莉はすぐに思い当たる。
フェスタのような異世界人がこのような駄菓子など見たことがあるはずも無い、と。
駄菓子自体は珍しいものではない。日本でならばどこにでも、それこそコンビニでもスーパーにでも売っているようなものだ。
一つ十円の、様々な味付けのバリエーションがある、長いスティック状のコーンスナック。
商品名は『うめぇ棒』という。
茉莉にとっては馴染み深いものでも、フェスタにとっては未知なるものに違いないだろう。となればーー食べる手本を見せるべく、手元にあったうめぇ棒のたこ焼き味を一つ手に取り袋を開き、半分ほどまで袋を剥いたところでひと齧りしてみせる。
軽く咀嚼してから紅茶をひと啜りして、軽く『失敗したかな?」と思う茉莉。
やはり、うめぇ棒と紅茶ではやや組み合わせが悪い。
そんな茉莉の姿を、フェスタはさらに瞳をキラキラさせながら見つめるのだった。