フェスタの冒険 護衛
高級宿屋での贅沢で砂漠の疲れも完全に癒した一行は、今、神聖皇国エフィネスを目指す商隊の護衛をしていた。
昨日のうちに、ジバが冒険者ギルドで急ぎの仕事を取ってきたのだ。
お金に困ることのないパーティーなので、普段なら受けないような仕事なのだが、今回は経験を積むためという理由と乗り合い馬車で向かうよりもこの仕事を受けながらエフィネスを目指す方が早いという二つの理由から護衛の仕事を受けることにした。
アリサはこの仕事を歓迎しているようで、どうにも浮世離れしているこのパーティーがこういった普通の冒険者らしい仕事を受けると安心するらしい。
商隊は四台の馬車でカーターからエフィネスへと向かっており、四台それぞれにパーティーのメンバーが乗っている。
先頭の馬車にはアリサ、二台目にはフェスタ、三台目にニティカ、最後尾にジバである。
フェスタは御者のおじさんと話しながらのんびりした気分で警戒に当たる。
「ほーん、じゃあお嬢ちゃんが勇者候補で残りの連中が仲間ってぇわけか」
「そうなんですけどねえ、私が一番役に立ってないっていうか」
「ええじゃないか、誰にでも得手不得手ってもんがあらーな」
「私の得意かあ……何なんででょうかねえ」
「嬢ちゃんくらいの歳だったらこれから見つけるもんよ、学校行ったり誰かに弟子入りしたりなあ」
フェスタが人生相談をしているような、でも雰囲気はのどかな世間話といった感じだ。
こん世界、十歳を過ぎると働き始める者も多い。
家が裕福だったり、本人に才能がある場合などは学校へ通い出す。
そうでない場合は家業を手伝ったり、どこかの職人に弟子入りしたり、多くはないが冒険者になる者もいる。
冒険者になる者にありがちなパターンは農家の三男坊辺りが十五歳までは家業を手伝い、成人を機に夢を追って冒険者になるパターンだ。
その場合はもれなく両親と大喧嘩の末に実家を飛び出し、なかなか家に帰るに帰れないなんて事情持ちになっていたりする。
酒場で冒険者相手に話を聞くと十人中七人ぐらいが同じような身の上話をする。かなり有りがちな話なのだ。
気温は暑いが天気も良く、魔物も出てきそうにない。
平和な時の護衛というのは暇なものなのだ。
これだけ魔物が出て来ないと、たまに魔王が世界を進行中だとかの事情を忘れそうになる。
まあ、忘れていないからこそフェスタは勇者候補として旅をしているのだが。
エフィネスの街道は魔物が出にくいことで有名である。
理由としては、神聖皇国が地脈に沿って街道を整備したからだ、とか周辺の地脈を神聖皇国は面子を賭けて浄化して魔物が出られなくしているからだ、とかの噂はあるが真相は定かではない。
ともかく、魔物の出にくさはフェスタの故郷ワイズラットに匹敵する。
なので商隊が護衛を雇う程度に警戒しているのは主に盗賊である。
乗り合い馬車に比べれば、商隊というのは確実に金目の物を持っている。
現金は当然のこと、積荷も売り捌けばいい金になる。
そんな宝の山である商隊が護衛を雇っていなければ、盗賊からすれば『鴨がネギ背負ってやって来る』ようなものだ。
だが、護衛が居ても盗賊は商隊を襲う。
邪魔になる護衛さえ殺してしまえば、商隊の荷物や金は奪い放題で護衛たちの装備も奪ってしまえば自分で装備するも良し、売り払うも良しの一石二鳥の美味しい獲物となる。
とは言っても、盗賊だって無差別に商隊は襲わない。きちんと危機管理はする。
斥候の盗賊を出して、商隊の規模と護衛がどれだけ居るのかを把握した上で、自分たちが勝てそうな相手ならば商隊を襲い、そうでなければスルーするのだ。
そのような観点から護衛の数が少ない、女のメンバーが中心の冒険者パーティーが護衛を務めている場合などは盗賊にとって非常に条件が良い好物件となる。
盗賊に身をやつしているとはいえ、彼らも多少は腕に覚えのある者も多い。
元冒険者、元戦士や下手すれば元王国騎士といった人材までいたりいするものなのだ。
それぞれ理由は異なれど、身を持ち崩して盗賊稼業をやっている。
そんな彼らだが、現役の男の冒険者ならともかく女冒険者なら勝てる、と思っている。
この世界でも『男は女よりも強い』という偏向した考えは狭からず幅を効かせているのだから。
つまり、現在フェスタたちが護衛しているような商隊は盗賊にとっては非常に美味しそうな獲物に見えるわけなのだ。
警戒している時に限って、警戒したにも関わらず女ばかりが護衛に付いた時に限ってーー悪いことというのは襲い掛かってくるものである。
商隊の馬車が物陰が増える林の近くに差し掛かった時、顔に下卑た笑顔を浮かべた盗賊が現れた。