フェスタの冒険 幕間・ジバ
少しだけ、パーティーの知恵袋こと紳士な男、ジバについて語ろう
魔法装備鑑定課に勤める頃から、ジバ・シンヤには考えていることがあった。
それは『人を育ててみたい』というものである。
自分自身については、長い冒険者時代の修行によってある程度の強さと知恵、知識を得ているという自負はあったーーが、行き詰まりを感じていたのだ。
ある目的があって、ジバは自身の力を求めて長年修行の旅を続けていた。
修行の末に、冒険者ギルド総本部の魔法装備鑑定課で勤め始めたのも、自分が見たことのない魔法装備を見れば、何か強くなるヒントが得られるのではないか、と考えてのことである。
ジバは強いと言われる人間を沢山知っている。賢いと呼ばれる人間も沢山知っている。
そして、自分が未だにそう呼ばれるだけの実力が無いのも、知っていた。
そういった『一廉人物』と自分の違いは何だろう?
自分は自分、他人は他人と思う部分も無いではないが、自分と違って自身の壁を乗り越えた人間と自分の 違いは何なのだろうか。
そう考えていった時、一つ思い当たることがあったのだ。
ーーそういった者たちは、皆、他者を導くような者ではなかったか、と。
自分自身の強さ、能力を追求してきた現在、自分のことを鍛えるのが精一杯で他人のことなどに気を回したことなど無かった。
誰かを育ててみることで、自分自身が成長するヒントを得られるかもしれない。
ジバはそんな風に思ったのである。
それから、ジバは自身と共に成長できそうな人材を探し始めた。
冒険者ギルドの仲間募集の受付をしているゴメスに声を掛け、良い人材が来たら自分に紹介して欲しいと頼み。
町の酒場で若いなりたての冒険者が居れば一杯奢って話を聞いてみたり。
魔法装備鑑定課に訪れる客から話を聞いてみたり。
色々と考え付く手は打ってみたものの、芳しい成果は上がらないままだった。
人材探しに行き詰まっていた頃に事件が起こった。
ホーク大陸で魔王が復活した、という一報である。
不謹慎かもしれないが、ジバの心は湧き立った。
さらにジバに期待を持たせたのは、神聖皇国より世界に向けて発布された神託の内容である。
魔王を倒して勇者となるべき者が、この世界のどこかで生まれている。
残念ながら自分はその対象とはなり得ないものだったが、その未来の勇者に手を貸すことが出来れば、自分の成長の切っ掛けを掴めるのではないか。
ジバの心は期待で溢れんばかりであった。
幸運も味方に付いていると思った。
自身が勤める冒険者ギルド総本部がある、ここワイズラット王国の王都といえば、勇者候補の条件となっている賢王の子孫たちの祖、ケン=イワオ=ワイズラットが創立した土地である。
その血族の多くは、この地に存在しているのだ。
ジバが未来の勇者と出逢えるのも時間の問題か、とその時は思っていた。
しかし、期待に反してジバは半年経っても期待に添える人物とは会えずにいた。
確かに、魔法装備鑑定課に居ると勇者候補には会える。
賢王に所縁のある品を携えて、冒険者ギルド総本部に姿を見せるのだから。
だが、そういった者のほとんどが『勇者候補となってしまったから仕方なく旅に出る』という、周囲の意見に流されて、自分の意志もなく旅に出る者ばかりであった。
それはジバの望むような人物ではなかった。
ジバが望むのは自分の固い意志で魔王を打ち倒すと願い旅に出るような本物の未来の勇者なのだ。
神託が降されてから半年、そろそろ自分から旅に出て未来の勇者をこの足で探さないといけないか、そんな風に思っていた頃である。
ジバのところに、ゴメスから連絡が入った。
『今、賢王所縁の品を持った勇者候補をそちらに送った。
胸当て鎧が所縁の品だそうだ、鑑定してやってくれ。
小さいお嬢ちゃんだが、なかなか見所がありそうな娘だ。
お前さんの求めるような人材かもしれんぞ』
ジバの作業机の上に置いてある、通信用魔道具のディスプレイに表示されていた。
ジバはゴメスの人を見る目には一目置いている。
見た目はウホスにそっくりな男だが、実力は高いしギルドの中ではパーティーのマッチングに関してはピカイチとも呼べるほど人の実力を見抜いて最適なパーティーを紹介したりもしている。
そんなゴメスの推してくるような人物、どんな者が来るのか期待しながら部屋で待った。
しかし、待てど暮らせどその人物は部屋に訪ねて来ない。
この冒険者ギルド総本部の五階は迷路のような造りになっている、もしかして道に迷ったのか。
そう思い、ジバは自分から来客を探しに部屋を出ることにした。
ゴメスからの連絡によれば、小さなお嬢さんということらしい。
その条件の該当する人物は、ほどなく見付かった。
トイレの前で、膝を抱えるように座っている。
どうか、自分の望むような人物でありますようーー。
ジバはそんな祈りにも似た願いを込めて、トイレ前に座る少女の近付いたのだった。