フェスタの冒険 駱駝の上の会話
サンドワームとの戦いから一夜明け、休養したことでジバもニティカも体調を戻したようだった。
駱駝に乗り四人の砂漠の旅は続く。
陽射しは強いままだが、四人は少しずつではあるが砂漠に慣れてきたようだ。
暑いと感じるのは変わらないが、暑さを堪えるコツのようなものを身に付け始めていた。
そういった行動を取れるようになると、少しは話せる余裕だって戻る。
「ニティカはさ、夢のお告げに従うのかい?」
最後尾を進むアリサがニティカに尋ねた。
手には植木鉢を持って訓練は続けたままである。
植木鉢の中にある花の色艶が良いということは、回復魔法が成功して気を良くして雑談に入ったという感じだろう。
「はい、今は信仰を捧げる神ではありませんけど、フェスタ様と一緒に行動するのは私の目的とも合致しておりますので、修練の迷宮には赴こうかと思っております」
「そうかい、じゃあ迷宮を出た後はどうするんだい?」
「そうですね、フェスタ様に付いて行きたいと思っております」
ブレない女である。
パーティーの仲間になる、とかフェスタの意見を聞いてみるとかは全部すっ飛ばしている。
良くも悪くも信仰心が高いのだろうか。
アリサとしてはニティカがフェスタに付いて行こうと思っているのは分かっている。
その為にはニティカがこのパーティーに参加することは必須となるし、このパーティーに参加するということは最終的な目標は魔王を討伐するという危険極まりないものになる。
ニティカがそこまで付き合うつもりがあるのか、アリサが聞きたいのはその辺りの覚悟のようなものだった。
「フェスタは……アタシ達は魔王を討伐しようってんだよ、付いて来るのは無謀だと思わないかい?」
「私が無謀でしたら、ジバさんもアリサさんも無謀、ということになってしまいますわ。
お二人とも、フェスタ様なら魔王を倒せると思っているのではありませんか?」
「はは……そうだね」
思わぬところで図星を突かれて、思わず苦笑いになってしまうアリサ。
こういった突き抜けた部分はアリサは嫌いではなかった。
修練の迷宮を出る頃には、ニティカの答えは出ているだろう、きっと今と答えは変わらないだろうけれど、そう思うアリサであった。
一方、それを聞くつもりがなくとも聞こえてしまい、バツが悪いような気分になるフェスタであった。
「大丈夫ですよ、フェスタさん」
フェスタの様子を悟ったのか、ジバが前方から声を掛けてくる。
気を使ってくれているのか、フェスタにのみ聞こえるような音量の声である。
「勇者というのは、自身が強い者では決してありません。
仲間に戦う勇気を与えてくれる者、自身が勇気を奮って戦う者。
それが勇者です。
ですので、フェスタさん……貴女は勇者の資質は十分に持っていますよ」
フェスタの心の内を正確に読み切ったようなジバのアドバイスに、フェスタは泣き出しそうになっていた。
そして、一人で抱え込みそうになった不安をジバが一緒に背負ってくれたような気持ちになって、少し気持ちが軽くなった分が後押ししてくれたからかーーフェスタの頬を涙が一筋だけ流れた。
「ジバさん……ありがと」
ジバにだけ聞こえる声で、フェスタは心を込めて礼を言った。
前方でジバが小さく頷く。
涙は砂漠の熱気がすぐに乾かしてくれた。
「さあ、この先に小さなものですがオアシスがあります。
そこでひと息入れましょう。
皆さん、頑張りましょう!」
今度は全員に聞こえる声で、しかし、ジバには珍しい檄を入れるような声で皆を励ます。
その声の調子に、フェスタは心の中でもう一度ジバに「ありがとう、ジバさんが仲間で本当に良かった」と礼を言うのだった。
そこから少し進むと、砂漠の熱線で歪むように揺らめきながらオアシスが見えて来たのだった。