フェスタの冒険 力
ニティカの緑の瞳が輝き、エメラルドの如き光を放つ。
その見据える先、サンドワームの群れはもがくように動こうとするが、全く動けていない。
その絶好の合間に、フェスタとアリサがジバとニティカの居る位置まで戻って来た。
「アリサさん、もう少しの間粘ってください!」
ジバが杖を構え眼を閉じて集中を始める。
魔力がうねるように杖へと集まり、ジバが詠唱を開始する。
「空間に集まりし魔力の粒よ、中心へと集え、集いよ連なれ、連なりよさらに集えーー破裂せよ! 爆裂弾!」
フェスタたちの遥か前方、サンドワームの群れの中心で、空気が爆発した。
爆風は砂煙を上げ、砂嵐にも似た光景を眼前に繰り広げる。
距離がかなりあるはずのフェスタにも、爆風が強い圧を身体全体に伝えてくる。
爆風が収まった後ーーサンドワームの群れは一匹も生き残っていなかった。
「ふうっ……」
敵が全滅したのを確認して、ジバがその場に腰を落とす。
いつもは表情の読み難いこの男が、目に見えて限界だという様子だ。
あの凄まじい魔法は、それだけ魔力を限界まで使うのだろう、とフェスタは理解した。
「ニティカさん……ありがとうございます。
しかし、先ほどの魔法……? あれは初めて見ました。何をしたんですか?」
疲労困憊なのに、それでも知的好奇心が抑えられないといった様子でジバがニティカに質問をする。
フェスタたちは気付いていなかったが、ニティカも肩で息をしていて、立っているのが精一杯という様子だ。
それに気付いたフェスタが急いでニティカの元に行き、肩を貸して身体を支える。
何故か支えられた後の方が息が荒くなっているのだが、身体は明らかに楽になっていそうだ。
青白くなっていた顔色が一気にに桃色になっている。
身に纏う空気まで何だか桃色に見える。
「ハァハァ…… 敵を足止めしようと思いまして……ハァハァ……スーッ……ハァハァ……地脈を清めて瘴気そ薄くしようと思いまして……ハァハァ……簡易的な儀式を行いまして……ハァハァ……いつもなら神の御力を借りる段で……ハァハァ……アッ…… 直感で敵を停めれると思いまして……アアンッ……イケました」
途中に混ざるハァハァがかなり余計で、性的にしか聞こえない喘ぎ声はともかく。
どうやらニティカは巫女として神の力を借りてサンドワームの群れを停めてみせたらしい。
か弱そうな見た目や神に仕える巫女としてはあるまじき言動の数々はともかく、ニティカの巫女としての実力は相当なものらしい、とこの場に居る全員が感じた。
「と、とにかく。少し休んでください。ニティカさんもジバさんもヘトヘトみたいですし……ね?」
ジバはともかく、ニティカは本当に疲れているのだろうかと疑問を感じつつも、フェスタは見張り番では無かった面々に休養を勧める。
とりあえずの危機は去ったが、夜はまだ長く、旅もまだまだ続くのだ。
こんなところでへばって力尽きてしまう訳にはいかない。
「申し訳ありません、少し休ませて頂きます」
と、素直にフェスタの言葉に従うジバとそれに付き添うようにテントに入っていくアリサ。
「外でもフェスタ様のお側でくっつかせて頂く方が元気になれそうです……」
と、ハァハァ状態を継続させながらフェスタに身体をスリスリと寄せるニティカを「ハウス! ハウス!、」と言いながらテントに放り込むフェスタ。
外で一人だけになってから、肩を落として溜息を吐き、
「はあーっ……私って、本当に勇者になれるのかなあ……」
と、仲間を守ることのできなかった自分力の無さに気を落とすフェスタであった。
フェスタの勇者への道は、まだ険しく遠いものだった。