フェスタの冒険 砂漠の敵
夜になっても、砂漠では旅が続く。
いつ砂嵐などにあって足止めを食らうかも分からないので、進めそうなら距離を稼いでしまうのである。
こういった時の駱駝は馬よりも役に立つ。
速度は劣るものの持久力や耐久性は上回っているからこそこういった旅のやり方を選択できる。
「うー、寒い寒い寒い」
昼とは打って変わって、身を縮こませるフェスタ。
それを聞きつけ「私と一緒に駱駝の乗りましょう! ローブの中でお互い人肌で暖め合いましょう!」というニティカの声が背後から響くが、聞こえないフリをしながらも身体はブルブルと震える。
「そろそろ夜営地を確保しましょうか」
メンバーの体力の限界が来てしまう前に、ジバがそう提案する。
砂漠では、停止した場所がよほど斜面になっているとかで無ければそこが宿営地となる。
運良くオアシスなどがあれば話は別だが、そんな幸運は滅多にあるものではない。
駱駝からテントを降ろし、手早く組み立て、その場に火を起こせば夜営地の完成である。
「ふいー、疲れましたねえ」
腰をトントン叩きながらフェスタが呟く。
ニティカが指をワキワキさせながらフェスタの腰を狙う視線を感じたので、すぐさま撤回したが。
「まあ、距離は稼げたので四分の一は進めています。予定よりは早くエリア半島にたどり着けそうですよ」
ここまでの旅の間、大きな問題は起こっていない。
盗賊も魔物も出て来ていないし、トラブルに遭遇もしていない。
砂漠での最大のトラブル、スコールもおこる気配はない。
砂漠で雨というと、乾いたところに水というイメージで良いことのように思えるが実際は違う。
まず、普段降らない分だけあって一度降ると勢いと雨量が桁外れなのである。
一気に大きな河が出来て、それが雨が止むと同時に消える。
遭遇してしまうと人の力ではどうにもならない。
砂嵐も要注意である。
何も隔てるもののない場所に発生する竜巻である。
ひたすら勢いが減衰されることなく、その中には大量の石と砂粒が混ざっている。
巻き込まれたら生物は例外なくズタズタになるのだ。
だが、悪い面ばかりでも無い。
砂漠は生物も少ないが魔物も少ない。
. 魔物の素体となる生物がそもそも生息していないし、生物が魔物に変化する原因となる瘴気も発生しにくいからだ。
瘴気の発生理由は様々なものがあるが、一番発生しやすい条件である『生物の死体がある』というものが砂漠では満たしにくい。
生物がもし砂漠で死ねば、数少ない他の生物の格好の餌となるし、死体は風化の早い砂漠ではすぐに骨と化し、骨はすぐに砕けて粒になり砂漠の一部と化してしまう。
良くも悪くも死の陸地、それが砂漠である。
とは言え、全く魔物が出ないわけでは無い。
むしろ、これだけ苛酷な条件をクリアして発生してしまうような魔物である。
遭遇してしまえばそれだけで危機と呼べるようなものばかりである。
砂蚯蚓に、砂蠍、岩ゴーレムに女淫魔など。
できれば遭遇したくない類のひと癖もふた癖もあるような魔物ばかりである。
彼らは、数少ない生物しかいない砂漠で、常に新たな獲物を待ち望んでいるのだ。
それは、フェスタの見張り番の時間に起こった。
月明かりだけが頼りの夜の砂漠の頼りない視界の中で、向こうの丘にいきなり巨大な隆起が動いたのだ。
隆起は迷いなど無いようにフェスタたちの夜営地目掛けて突っ込んで来る。
近寄って来る『それ』を見て、フェスタはそれが何であるのかを確信した。
敵襲、即座に判断したフェスタは剣を抜き払いながら叫ぶ。
「魔物です! サンドワームが出ました!」
その叫びに反応したように、少し離れた地面の中からサンドワームが現れた。