フェスタの冒険 同行
「私、ニティカ・シールと申します。フェスタ様にお助け頂きました」
フェスタとアリサの言い合いをジバが止めたところでニティカの自己紹介となった。
ニティカは自身のこれまでの経緯を説明し、その後フェスタに再び丁寧に礼を言った。
フェスタはニティカの真剣な様子に、先ほどアリサとの軽口を叩いていたことを申し訳なかったなと軽く反省の念を抱いた。
アリサも、ニティカが深刻な事情を持ってこの場に連れて来られたことを知り、事情をよく知る前からフェスタに言い掛かりに近いような軽口を叩いてしまったことを詫びた。
「いえ、そんな。私が得体の知れ者だったのは事実です。
アリサさんが謝ることは何もございませんわ。
それに、フェスタ様が私のお世話をなんて……私、いつ死んでもかまいませんわ」
ニティカの顔を紅に染めながらの最後の言動は、皆で見なかったことにした。
阿吽の呼吸が築かれつつあるフェスタたち一行である。
「ニティカさんの目的地もエフィネスのご様子ですし、もしよろしければ我々と一緒に向かいますか?」
ジバがニティカを含んだ全員に質問をする。
フェスタが二ティカを助けて、事情を知った上に目的地まで同じとなれば乗りかかった船というものだ。
ニティカ自身、無一文のようだが、旅費程度なら出してやるのも人情というものである。
「いいんじゃない、アタシは賛成だね、放り出すような薄情な真似はしたくないし」
「私は、できれば最後まできっちり送り届けてあげたいと思いますので、もちろん賛成です」
アリサもフェスタも、ジバの意見に同意する。
まあ、ニティカのボロボロの格好を見て反対するようなタイプ人間はいないパーティーなので、ある意味当然の結論が出たような形ではある。
「わ、私はフェスタ様に付いて行けるのであればどこへでも……」
フェスタたちの旅の目的地を知らされていないニティカが、それでも旅の同行に賛成の意図を示す。
パーティー全員が『あれれー? このお姉さん何だかおかしいよー』という眼鏡をした見た目は子供、頭脳は大人な小学生探偵のような感想を抱いたのだが、その辺りは確信を持てる材料が無いので全員が華麗にスルーしたのであった。
二ティカにはフェスタが勇者候補である事と、パーティーの旅の目的地が偶然にもエフィネスである事を教えておく。
それらを聞いても、ニティカの答えは変わらぬものであった。
「では、追加で準備しておかなければなりませんね」
ニティカが旅に同行するということは、それだけ荷物や移動手段も必要になる。
そういった訳で、ジバは追加の駱駝と食料の手配に、アリサはニティカ用の服と装備を買いに街へ。
奴隷売買組織を憲兵に通報するのはジバがついでにやっておいてくれることになった。
フェスタはニティカを風呂場へ案内して、入浴が終わるのを待ってから食事を取らせる。
以上のように役割分担した。
ちなみに、入浴後の着替えに関してはアリサの普段着のストックを貸すことになった。
入浴を済ませた二ティカに着せると、背丈はアリサの方が大きいため縦にはブカブカで胸はニティカの方が大きかったため横にはピチピチという非常にアンバランスな感じとなり、着替え後のニティカの姿を見た買い物帰りのアリサが不必要に精神的なダメージを受けてしまったのはもう少し後の話だ。
入浴後、ニティカの浅黒いと思われた肌はずっと風呂に入れずに汚れてしまっていたからだったようで、白くはないがライトベージュといった感じの色で艶のあるものと判明する。
表情も出会ったときには厳しめのキリっとした表情だったが、風呂に入って緊張がようやく解けたのか現在はかなりほんわか系の顔立ちになっている。
どうやら、こちらが本来のニティカの顔立ちのようであった。
こうして、入浴、着替え、軽い食事を取らせてからジバとアリサが帰って来るまでの間、フェスタはニティカと少しの間だが二人きりで話をすることになった。
「えっとですね、ニティカさんは巫女なんですよね」
「はい、大神ネフィス様の仕える巫女をやっておりました。現在は……ですが」
一瞬声が小さくなって聞き取れない部分をフェスタはスルーした。
ニティカは『現在はフェスタ様の忠実なる奴隷ですが』と言ったのだが、聞こえようが聞こえまいが不穏当な発言は全力でスルーである。
「じゃあ、二ティカさんはエフィネスに着いたら村の全滅を報告して、正式な巫女の任命を貰ってって感じですかね」
「そうですね、村の報告はしますが……巫女の任命に関しては、エフィネスでフェスタ様への信仰に公認を頂けるか……」
「あの……二ティカさん? 言ってる意味が分からないよ?
あと微妙に気になってたんだけど私のこと『様』とか付けないで良いよ?」
「いえ、フェスタ様をフェスタ様以外で呼ぶなど無理です!
どうかお許しくださいませ!」
フェスタへの信仰という意味の分からない言葉をスルーされた上に、『様』付けに関するやんわりとした抗議も全力で拒否された、というか二ティカが全力で土下座し始めたので認めざるを得なかったフェスタであった。
どうにも、見た目は癒し系なのに、かなりエキセントリックな部分を併せ持った同行人と旅をすることになってしまった感のあるフェスタだったが、その状況を招いたのも自分であるため誰にも苦情も言えず複雑な気分になるのだった。