フェスタの冒険 神の使い
ーー神の使いなの?
二ティカは目の前の光景を信じられなかった。
父は自分たちのことを『神が御身の力を地上で発現するために遣わした神の使い』なのだ、と嘗て二ティカに語ってくれたが、違うのでないかと二ティカには思えた。
目の前にいる少女は、二ティカの捕らえられていた部屋に居た五人の大男を瞬く間の全て倒してしまった。
その姿は二ティカにはとても神々しく見えて、戦い方はまさに神が地上で力を奮えばこうなるではないかというものを体現したような動きだった。
彼女こそが神の使いでないのだろうかーー二ティカは両手を縛られながらも目の前の神の使いに祈りを捧げた。
「大丈夫? どっか痛いところは無いですか?」
祈る二ティカに、神の使いは声をかけてきてくれた。
畏れ多いと思いながらも、二ティカは瞳を開けて神の使いの尊顔を見た。
神聖皇国より貰った聖書に記されていた神の使いの姿とは違う。
聖書の神の使いは金髪でエメラルドの瞳で天使の羽が見える、と書いていた。
二ティカの目の前にいる神の使いは、黒髪で少し茶色の混ざった黒い瞳で白い肌。
しかし、二ティカは聖書が間違っている、私の目の前にいるこの方こそ神の使いに間違いない、と思った。
「だ、大丈夫です。あなたは……?」
「怪しいもんじゃないよ、私フェスタっていうの」
神の使いはフェスタと名乗った。
二ティカはその名を聞いて、頭の中でさえ呼び捨てにするのは烏滸がましい、これからはこの方をフェスタ様と呼ぼうと固く心に誓った。
フェスタ様は、二ティカの身体を拘束する縄を解いてくださり、身体に力の入らない二ティカに肩をお貸し与えになり立ち上がらせてくださった。
「あ、 ちょっと怪我してますね。ちょっと待ってください……」
フェスタ様は二ティカの膝に怪我を見つけるや、片手をかざして「回復」と一言呟く。
みるみるうちに二ティカの膝の怪我は塞がり痛みも和らいでいく。
この光景さえ、二ティカには神の起こした奇跡に見える。
二ティカとて巫女の端くれ、回復魔法は使えるが、フェスタ様のような慈愛に満ちたものではない。
「えーと、ここは憲兵の人に来てもらうとして、ここから出て一緒に安全な場所に行きましょう。動けますか?」
「は、はい!」
神の化身の如きフェスタ様に言われて、二ティカに断るなどという選択肢はない。
フェスタ様命じられれば、例えこの身が果てようとも何処へでも行ける。
魔王とて倒してみせる、身体を動かすことなど苦でもなかった。
フェスタ様は悪人どもの住処から二ティカを連れ出すと宿屋まで連れてきた。
まさか、二ティカの身をフェスタ様に捧げよと?
そう思ったが、もしフェスタ様に純潔を奪われるならばこの上ない幸せだと思い、連れられるがままにフェスタ様に付いて行く。
フェスタ様は女性で二ティカも女性だが、そこに何の問題も無い。
聖書にも女神が女性を愛でる話があったではないか、ならば自分は黙ってフェスタ様にこの身を捧げよう、と。
フェスタ様が入られた部屋には二人、男女が居た。
フェスタ様にお仕えする使徒であろうか、では私の先輩ではないだろうか。
どのように挨拶すれば失礼に当たらないだろうか。
そもそも、フェスタ様より先に口を聞くなど、不敬に当たってしまうのではないだろうか?
二ティカの横に立つフェスタ様は、お二人の男女を見て「てへへ……」と笑い、頬をポリポリと掻いている。
フェスタ様は笑い声まで愛らしく、仕草まで神々しく見える。
二ティカははしたなくも、下腹にキュンというときめきを覚えてしまう。
ああ、この身も心も全てフェスタ様に捧げますーーと二ティカが盛り上がっていると。
「ふう、どこで拾ってきたの! 元の場所に返して来なさい!」
「 ち、ちゃんと私がお世話しますからあー!」
神の使いフェスタ様が女性に怒られて半ベソをかいていた。
そんな姿も二ティカには愛おしかった。