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フェスタの冒険 自由時間

 自由時間とは自由に過ごして良い時間である。

 しかし、普段忙しい人間ほど何をして過ごせば良いのか分からなくなってしまう、というのも自由時間に有りがちな罠なのだ。


 フェスタはタルカの街で自由時間を持て余してした。

 午前中(六つ刻前)までは良かった、ジバが街中の屋台通りを案内してくれて、羊の串焼きや挽き肉の塊を焼いたものを白い生地を蒸して作ったパンのようなもので挟んだ軽食(スナック)を食べたり、はたまたクッキーのようなものを糖蜜でコーティングしてあるお菓子にパイナップルを絞ったジュースなど異国のような食べ物を満喫したのだ。

 魔王を倒したらいっそタルカに移住するのもアリかも、と思う程にはフェスタはタルカのことを気に入っている。


 しかし、それと自由時間を満喫できるかというのは別問題である。

 何せ、屋台巡りのおかげで腹はそこそこ満ちているのだ。

 もう一回、屋台を巡って食べ歩いて来い、と言われたら余裕で食べられる自信はあるが、そんなことをしたら夕飯が食べられなくなるかもしれない。

 さすがにそれは勿体無いと思う気持ちも、あまりに食べ過ぎると太ってしまうのではないかと僅かに躊躇してしまう乙女心だって一応ながらフェスタも持ち合わせている。


 やる事を思い付かないので、仕方なく運河に架かる橋の上でぼーっと川を眺めていた。

 一応、フェスタの中に言い訳はある。


(これは瞑想の一種です。流れる大河から心象(イメージ)を作って、自然を感じ取るのです。それが魔力をきfと強くしてくれるのです……)


 ジバ辺りに聞かれたら、あっさりと「そんな効果はありませんね、目を瞑って座りながら身体をリラックスさせる方が効果がありますよ」とあっさりと論破されてしまいそうな言い訳ではあるが。

 フェスタはこうやって三十分以上は橋の上で川を眺めているのである。


 さて、冒険者で、まだ候補である身とはいえ勇者で、贔屓目を抜いても美少女が橋の上に一人で立って川を眺める。

 こんな状況で何か起こらない訳があるだろうか?

 そう、ある訳が無かった。フェスタはそんな世界の法則を捻じ曲げるようなフラグブレイカーではないのだ。

 まあ、恋愛フラグは何一つ立っていないのも、否定せざる事実なのだが。


 フェスタが橋から川を眺めていると、川の土手を一人の少女が駆けて来た。

 年の頃はフェスタよりも二、三歳は上だろうか。肌の浅黒いなかなかに顔立ちの整った少女である。

 フェスタが人形のような可愛さ、アリサが野生美として、少女はエキゾチックな美しさと表現すべきだろうか。

 少女はその素材の良さには似つかわしくない貫頭衣のようなボロボロの服を来て、何かから逃げるように必死な様子で川の土手を走る。


 みるみる内に、フェスタの視界から遠ざかる少女。

 その後ろを、三人組の揃いの黒い服を着た男たちが追い掛けて来た。

 少女逃げ足は速い、が大人の男たちの足には敵わないようで一気に差が詰まっていき、少女は男たちに追い付かれてしまった。


「いやぁっ! 離してぇ!」


 遠く離れたフェスタの場所にも届く声で少女が叫ぶ。

 だが、その瞬間に男の一人が手際よく少女の口に布を突っ込み、声が出ないようにしてしまう。

 さらには、少女を大きな袋に放り込んで袋を縛り、抱え上げてその場を去ろうとしている。


 一部始終を、フェスタは見てしまった。

 どのような事情があってこの光景が繰り広げられたのかはフェスタには分からない。

 しかし、どう見ても穏やかな様子は無い。いいや、犯罪の臭いしかしない。


 男たちは少女の入った袋を担ぎながら、フェスタの立つ橋の下を通って走り去ろうとしている。

 フェスタはキョロキョロと周囲を見回して川の土手に降りる道を探すが、近くに土手まで降りる道は見当たらない。

 そんなことをしている間にも、男たちは少女を抱えて走り続けており、あと少しで点のようにしか見えない場所にまで至りそうである。


(んーっ! 悩んでるヒマは無さそうです!)


 フェスタはーー十メートルは下にある土手に向かって、橋を飛び降りた。

 こうしてフェスタのヒマを持て余す『自由時間』は終わりを告げたのであった。

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