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フェスタの冒険 タルカの食事

 古来より、水のある場所には人が集まり集落が出来る。集落は広がると村になり、村は人がさらに集まり発展すると街になる。

 タルカはその典型とも言える商業都市だ。


 海に流れ込む大きな川は運河として活用され、川のほとりには幾つもの大きな町がある。

 その町への商いをする者たちが海への入口となる場所に拠点を作り、その富に与ろうとした他国の者が町に大きな港を作り、港はさらに他の国の商人たちを呼び寄せて大きな発展を齎した。


 おかげで、タルカは王都に比べると驚くほど多くの人種が街を行き交っている。

 眼の色、肌の色、髪の色、様々な人種が入り混じり異国情緒を醸し出している。

 建物も王都とは違う。王都の建物の多くは木造もしくはレンガを使ったものが多いのだが、タルカは石造りの建物や土壁の建物が主流だ。

 気候も王都に比べると亜熱帯に近いのだが海辺ということもあり風も涼しいので思ったよりは過ごしやすい土地である。


 そんなタルカでのフェスタたちの夕食は多種のスパイスで煮込んだ肉と野菜を(ライス)にかけたものだ。タルカでは『ヤルク』と呼ばれる伝統的な料理だ。

 アリサが一週間ぶりに飲んでいるのはアラクと呼ばれる蒸留酒だ。久しぶりの酒にアリサはご機嫌で、既に三杯目に手を付けている。


「それで、タルカかたエフィネスまではどうやって移動するんですか?」


 フェスタがヤルクを口に運びながらジバに聞く。

 ヤルクはかなりスパイシーなものの、アイラと呼ばれるヨーグルトドリンクのようなものを飲みながらだと辛さが中和され良い具合に癖なる味わいとなり、口に運ぶ手が止まらない。


「明日までに駱駝を手配しておきます。それに乗って砂漠を越えて二週間、砂漠を越えて半島に入ってからまた馬車に乗り換えて一週間ですね」


 タルカは水の豊富な国ではあるが、南に二キロほど進むと砂漠地帯に入る。

 この砂漠がエフィネスに向かう際の難所であり、フェスタたちがタルカを経由してエフィネスに向かう理由でもある。

 上空から見ると分かるのだが、この砂漠は横に長い形で広がっている。

 横断するにはかなり厳しいが、縦断ならば比較的しやすいのだ。


 ワイズラットを南下してからエフィネスへ向かうとなると砂漠を横断しなければならないが、タルカから南下するのであれば砂漠を縦断するだけで済む。

 それ故に、ワーラット大陸からエフィネスのあるエリア半島へ向かう場合、こうしてタルカから向かうのが一般的であろのだ。


「らくだ……ですか?」


 大陸の内陸部育ち、というか王都から出たことのないフェスタには聞き慣れぬ単語であった。


「ええ、馬のような、背中にコブのある動物です。暑さと渇きに強いので砂漠越えにはもってこいの生き物です」

「ほえー、そうなんですか……」


 フェスタの頭の中には、背中にコブが付いた馬が思い浮かんでいる。

 何だか乗りにくそうな生き物だなあ、と思いながらアイラを一口啜る。


「そういやさ」と口を開いたのはご機嫌な様子のアリサである。

 普段、エールでは酔った様子を見せないのだが、今日は酒が久し振りだからなのか、それともいつもと違う酒だからなのか珍しく赤い顔をして酔っている様子だ。


「王女様の護衛役、蹴っちゃったのもったいなかったよなあ。

 何て言うか、ああいう高貴な人と接触する機会って滅多に無いって言うのか。

 二人は何だか王女様苦手っぽかったけどさあ、ちょっともたいなかったなあ」


 アリサ発言に口に含んでいたアイラを噴き出しそうになるのを堪えてから、フェスタはジバに目配せしてからアリサに真相の一部を話すことにした。

 何だか仲間がいつまでも騙されているのは居た堪れない気分になるのだ。


「アリサさん、あの方達……多分、偽物です。本物の王女様じゃありません」

「へ? 何を言ってるのさ?」

「私、前に王都で馬車乗ってる王女様を見たことあるんですけど、王女様は金色の髪でした。

 あの人は茶色の髪でしたし、紋章も……あれ、王家の紋章じゃないですよね?」


 ジバに視線を向ける。


「そうですね、ワイズラット王家の紋章とは剣の数と竜の向きが違ったと記憶しています」


 ジバがフェスタの言葉を追認する。


「マジかよ……」


 茫然としているアリサに申し訳ない気分になるフェスタ。


「すいません、なかなか話す機会がなくて」

「あ、ああ、良いんだよ。フェスタが悪いわけじゃないんだから。

 しかし、王女様を騙るなんてけしからんヤツらだな!

 今度あったら思いきり文句言ってやる」


 そう言いながら笑ってみせるアリサ。


 心の中では、『王女様と同じパーティーで戦うなんて、まるで吟遊詩人の唄う英雄譚みたいだな』とか『王女様に信頼されて戦うなんて物語みたいだ、ひょっとしたら本物の王子様とお近付きになれたりして!』とかの乙女な妄想が壊れてしまったことにガッカリしているアリサなのだが。

 よもや、その妄想が既に半分は叶っていることを知る由は今のところ無いのであった。

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