フェスタの冒険 タルカ
翌朝、朝食の前に起きてきた偽王女一行を捕まえて、上手く断りを入れたジバ。
ジバが交渉役に選んだのはバジニアで、ジバが何度か頭を下げてみせてはいるものの穏やかに会話は進んでいる。
バジニアが完全に上機嫌となり「それでは仕方ありませんね、どうか無事に旅をなさいな。困ったことがあったら私を頼って良いのですよ」とフェスタに向けて言い出す辺り、どのような言葉で断りを入れたのか、そのテクニックを含めて教えて欲しいと思うフェスタである。
冒険者三人組は偽王女の討伐隊に入る、とのことだった。
偽者だと言い出せないのは心苦しいものの、本当のことは言えない事情もあって「がんばってくださいね」と当たり障りのないようなことしか言えないフェスタであった。
冒険者三人組のリーダー、ケインズが「君たちと仲間になれないのは惜しい気もするけど、機会があればまた一緒んに旅をしよう」と言ってくれたのがフェスタには嬉しくあった。
もっとも、フェスタとしては偽王女との旅はご勘弁願いたいところなのではあるが。
商人の男、コーネマーという名前だが、彼は討伐隊に入るのは諦めたらしい。
代わりに、討伐隊への物資補給として協力できることが決まったのだと嬉しそうにコーネマーは語った。
「あなた方も、何か入用になったらゲント村のコーネ商会に来なさい。
命の恩人なんだ、儲け度外視で出来る限りは力になるつもりはあるからね」
そう言うコーネマーにフェスタたちも礼を言い、その頃には朝食の準備も整っていたのだった。
朝食を終えたら出発となる。今日の夕方にはタルカに到着する予定である。
朝食のパンとスープを口に入れながら初めて訪れる町に期待が膨らむフェスタであった。
予定は大きく狂うこともなく、乗り合い馬車は夕方にはタルカの入口に到着した。
偽王女の討伐隊には入らないと決めたフェスタたちはすぐに別行動に入るべく、挨拶もそこそこに乗り合い馬車から離れた。
「やーっと、着きましたねえ」
伸びをしながらフェスタが言う。
ゲント村から馬車に揺られること一週間、フェスタたちは遂に交易都市タルカに到着した。
タルカはワーラット大陸の西の端に位置する。
街の中に大きな港があり、さらには街の中からワーラット大陸を南東に向けて流れる大きな運河があり多方面との交易が盛んな大都市である。
故に特産品と呼ぶようなものは無いものの『タルカなら金さえ出せば手に入らぬ物は無し』と言われるほどに多くの人と物で溢れている。
ワイズラット王国やワーラット大陸住民のみならず、他の大陸やその国民にとっても一攫千金の夢が詰まった街、それがタルカである。
もっとも、フェスタたちには目的地への経由地なだけで、ここで商売を始めるつもりは全く無いのだが。
城があるかどうかの違いしかない程度にタルカは王都と変わらない大きさと活気を持つ街であった。
初めて王都以外の大きな街を見たフェスタの瞳はキラキラと輝く。
「では、今夜と明日は休養日ということで、まずは夕食にでも行きましょう」
ジバが二人に言う。
今朝、ジバが探りを入れた結果、偽王女一行は今日一泊だけタルカに逗留し、明日の朝にはエフィネスに向けて出発すると聞き及んでいた。
予定を一日ずらせば偽王女とエフィネスまでの間にカチ合わない程度には距離が開くだろうし、恐らく目的地である『修練の迷宮』に関しても入るのが一日ずれれば迷宮内でも顔を合わせることも無いだろう、そんな判断である。
これによって、明日は一日オフに決定していたのだ。
タルカを出発するのは明後日の朝、ということになる。
「夕食! 何を食べます? 名物とかあるんですかね?」
「私の知ってる料理の美味しい宿があります、夕食はそこで食べましょうか。
よければ明日、美味しいお薦めの屋台にもご案内しますよ」
「屋台! 何が食べれるんですか!?」
既に食べることに頭中を支配されているフェスタを微笑ましく見ながら、今夜の宿へと移動する一行なのであった。