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フェスタの冒険 テントの中

「近衛侍女として仕えないかと誘われてしまいました。絶対にイヤですけど」


 フェスタが心底嫌そうな顔をしながらジバとアリサに報告している。

 夕飯後、各集団に割り当てられたテント中での会話である。


 他面子はというと、偽王女一行はあの王女宣言の日以降は夜になると馬車を占領し毛布で目隠し兼風除けの壁まで作って屋外の野営なのに個室という優雅な暮らしをしている。

 真相を知っているジバとフェスタが文句を言っていないので、他の全員が『やんごとなき方々の寝所として馬車を提供するのは当然』と考えており、苦情も文句も出ていない。


 他のメンバーは冒険者三人組が一つのテントで、商人の男は御者の二人と同じテントに入っている。

 このテントは乗り合い馬車からの貸し出しである。

 フェスタたちもそうだが、冒険者は大抵簡易テントぐらいなら一つは持ち歩いている。

 これはテントと呼ぶよりは簡易な屋根用防水加工してある分厚い布、といった感じのものだ。

 雨露は凌げても風は防いでくれない。


 片や、貸し出されたテントは割ときっちりとしたテントだ。

 採光用の窓などは付いていないものの、三角型の四、五人ならば寝れる広さのある雨風をしっかり防げてそれなりの防音性も備えている立派なものだ。


 その中では、こういった他パーティーには聞かせにくい密談が繰り広げられている。

 ちなみに、テントなどが無い場合は集団から離れた場所で密談を行う。


「そうかい?

 良い話じゃないかと思うけどね」


 事情を知らないアリサは、勿体無いと言いたげな顔をしている。


「まあ、我々と目的は似ていても近衛侍女としてお仕えとなるとフェスタさんの目標からはやや外れてしまいますからね」


 フェスタの事情を概ね知っているジバが、上手く核心には触れぬように別の理由を挙げてフェスタの主張を正当化してくれる。

 それにアリサは納得するものを感じたのか、


「まあ、それもそうか。

 いや、アタシもああいう上品なのは苦手だからさ。

 それに恩賞ってのはちょっと魅力的だけどさ、名誉とか地位とかはアタシの柄じゃないしねえ」


 直接的ではないものに、アリサも偽王女の討伐隊に加わるのは反対であることを支持してくれたことにより、パーティー内の意思統一は上手い具合に完了した。


「後は明日どうやってお断りするかですよねぇ……」


 憂鬱そうな顔をしながらフェスタが大きな溜息と共に言葉を漏らす。

 フェスタはバジニアが苦手である。あの強引な押しが何とも言えず避けにくいのだ。

 『Noと言えないワイズラット人』それがフェスタである。

 頼まれると、何となく嫌とは言えない損な性分である。


「まあ、私からお断りしておきましょう。

 ああいった感じの方々も昔はお相手してきましたし。

 適当に煽てながら断ってあと腐れなくしておきましょう」


 頼れる交渉者(ネゴシエーター)ジバである。

 一パーティーに一人は欲しいほど便利な男だ。

 一家に一台欲しい家電製品並に便利な男、それがジバである。

 掘りの無い顔プラス糸目が祟ってか、全く女の影が見えないのが悲しいところだが。


「あとは、タルカに着いたら予定を少しずらしましょう。

 旅の目的も目標も全く同じようですし、日程をずらさないと。

 どこかでカチ合ってトラブルになるとも限りませんし。

 あちらのこれからの動向は私が探っておきますので、我々は明日はタルカに到着次第、休養日にしましょう。

 逆にあちらが明日休養日にしそうであれば、我々は出発ということで。

 それでよろしいですか、フェスタさん?」


 「それでよろしいですか?」これはジバからの二重の意図(ダブルミーニング)を込めた質問である。

 一つは、言葉そのものの意味ーー予定に遅れが生じるが大丈夫かという確認。


 もう一つが、偽王女たちに対してわざと距離を置くということは、偽王女が現在王女を騙っていることを見逃すということである。

 王家の人間であるフェスタが、敢えて見逃すことにはなるが大丈夫か?ーーそういう意味の質問である。


 フェスタもここ数日、偽王女一行の行動を見ていたが、王女の名を騙る以外は大したことはしていない。

 せいぜいが同行者に対し過剰なまでに尊大に振る舞う程度だ。

 先ほどの大演説と勧誘も大げさな仲間募集というだけのものだ。

 王家を騙って金や物を要求している様子は見受けられない。

 ここで見逃しても大きな問題にはならないであろうし、もし第一王女が何処かで悪さをしているという噂を聞きつければすぐにあの一行の仕業だろうという見当も付くだろう。

 恐らくはジバも同様の判断をした上でフェスタに提案と確認を求めているのである。


 これだけ回りくどい手法を取るのは、アリサが偽王女に関する真相を知らない為である。

 偽王女がただの騙りとフェスタが判別できる理由を言及するには、どうしてもフェスタの正体に触れる恐れがある。

 今はまだアリサにフェスタの正体を秘密にしたいので、ジバも気を使ってくれたのだ。


「はい、お任せします」


 諸々を理解した上でフェスタはジバに返事をする。

 これで、フェスタたち一行の偽王女への関わりに対する方針は全て決まったのであった。

 怪しくならないようにアリサにも確認を取り、同意を得たところで一行は就寝したのであった。

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