フェスタの冒険 (偽)王女の演説
馬車が再び出発してからも偽エリザベスたち一行の小芝居は続いていた。
旅の間ここまでは、あくまで若い女性とそのお付き、という感じしか見せていなかったのに王女宣言をした後からずっと『王女様とその従者』に態度がシフトしたのである。
ちなみに、名前は中年女がバジニア、老年の男はマイセンと名乗った。バジニアが第一王女専属の近衛侍女でマイセンは執事兼任の宮廷魔術師だと自己紹介をした。
偽王女劇場の一幕、野営地での食事で「まずは姫様からです、下賤の者は姫様が御食事を終えてから姫様の眼に届かぬように食べるように」と言い出した。
フェスタとしては『王城での生活で自分の食事が最初だったかは知らないけれど、毒味されてない物とかなんてお忍び以外で食べたことなかったなあ』と思いつつ、偽王女が微妙に優雅っぽく食事を終えた後にジバたちと一緒に干し肉と塩味のスープを食べた。
別の日の一幕、偽王女は旅の最中、「座りっぱなしで脚が痛くなっちゃたわあ」と言い出した。
それを聞いたバジニアが「まあ、それは大変でございますわね。そこな小娘、姫様のおみ足に触る名誉を授けましょう。心を込めて姫様のおみ足を揉みなさい」とフェスタに命じてきた。
「い、いえ私勉強中でして、謹んでお断りを……」
必死に断るも、強引なバジニアの押しに負けて一時間ほど偽王女の脚を揉むハメになった。
他にも、冒険者三人組がいつの間にか偽王女に心酔してしまっていたり、アリサが「私、王族って初めてこの眼で見たよ、お上品なの以外はアタシたちと変わらないもんだね」と言ってフェスタの顔を引き攣らせたりと色んな場面があったが、その数が多過ぎるので割愛しよう。
ともかく、盗賊や魔物の襲撃は無かったが、偽王女一行による精神攻撃は多々あったのだ。
そんなこんながありながら、旅程は六日目の夜、最後の野営となった。
これで明日には少しは平和になるわー、なんてのんびり構えていたフェスタをかなり悪い情報が襲った。
その情報は、偽王女による夕飯前の演説でもたらされたのである。
「皆の者、私は王女ではありますが、賢王の直系として魔王討伐の勇者候補となりました。
私自身、賢王の魂を継ぎ勇者となるのは私だと確信はしておりますが私はまだ未熟です。
今より私は神聖皇国に赴き、彼の地で勇者となるべく神のご加護を授かりに行きます。
そう、嘗ての勇者、我がご先祖様である賢王様も修行をなさったと伝わる『修練の迷宮』に挑みます。
皆の者と一緒の馬車に乗ったのもきっと神の思し召し、ここに私の魔王討伐隊の兵を募ります。
魔王討伐の暁には、皆には多大なる名誉と恩賞、そして地位を与えると約束しましょう!
エリザベス=セラフ=ワイズラットの名において、私が魔王を倒すとここに誓いましょう!」
大演説であった。これで名前を騙っている偽王女であるという前提を無視すれば、これは着いて行くしかないと思っても仕方ないかもしれない。
実際に、冒険者三人組は互いに「姫様に仕えよう!」と興奮しながら言っているし、アリサも眼を輝かせている。商人の男でさえ「討伐隊に入るか……いや、私の力量では……いや、しかしこれはチャンス」などとブツブツ言っている。
しかし困ったことになった。まさか目的地が丸被りだとは思っていなかった。
偽王女が『修練の迷宮』と名前を出したときにジバをチラ見すると、フェスタに向かって苦笑いしながら頷いたところを見ると修行場所まで丸被りと推察される。
どうしたものか、後でジバと相談せねばとフェスタが考えているとバジニアが手招きをしてきた。
「小娘、お前は姫様が気に入っておる。特別に近衛侍女として私の下に就いて姫様に仕えることを許してやっても良いぞよ」
バジニアの言葉に、偽王女も微笑みながら頷き、
「ええ、そなたは私の妹であるフェスティアと同じくらいの歳で親しみを感じますわ。
背格好や気品は似ておりませんけど、私の傍で仕えるのを許してあげてもよろしくてよ」
フェスタは『うわあ、本当に厄介なことになったなあ』と思いながらも、この場に留まってしまうとまた強引さに押し切られてしまうような気がして「あ、あの仲間とも相談しないといけませんので、か、考えさせて下さい」と冷や汗を浮かべながらその場は逃げ切ったのであった。