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フェスタの冒険 王女 (偽)

 フェスタとジバが馬車に戻るとーーそこは『謁見の間』と化していた。


 冒険者三人組と商人、それにアリサまでもが第一王女と名乗る若い女の前で膝を付いて傅いていたのだ。

 その前に座る若い女はこれでもかと言わんばかりにふんぞり返っている。比喩的な表現ではない文字通りふんぞり返り、軽く額でも突っつけばそのまま後ろへ倒れていきそうなぐらいに胸を張って、顎を突き出している。

 両脇にはお付きの中年女と老年男が恭しい様子で立っている。


「あ、お待たせ……しましたあ」


 フェスタが馬車の中に入ると、一斉に視線がフェスタに集まったと思うと、すぐに全員また元の態勢に戻る。

 思い切り引いているフェスタとジバを、中年女が一瞥すると「ふんっ」と偉そうな溜息を吐く。

 ボソっと「この野蛮人どもが……」と忌々しげに呟くと「もう一回やっときますか?」と老年男が若い女と中年女の二人に確認を取るように聞く。

 二人が頷くのを見て、老年男がいきなり声を張り上げた。


「控えい控えい控えおろう! こちらに在わすお方をどなたと心得る! 畏れ多くも王位継承権第二位、ワイズラット王国第一王女、エリザベス=セラフ=ワイズラット殿下にあらせられるぞ! 皆の者、頭が高い! 控えおろう!」


 よく見ると、中年女は何やら短剣のようなものを掲げて見せている。

 柄の部分と鞘の中心部分に同じ紋章が彫ってある短剣だ。

 紋章はワイズラット王家(フェスタの実家)のものによく似ている。

 ワイズラット王家の紋章は三本の剣と左向きの竜を組み合わせたものだが、短剣に彫られた紋章は二本の剣の間に一本の杖、それと右向きの竜の組み合わせだ。ちょっと惜しい感じだ。


 ポカンとしてしまい立ち尽くすフェスタとジバ、それに焦れたのかもう一度、


「控えおろう!」


 と一際大きな声で叫ばれてしまい、勢いに負けてフェスタとジバもその場で仕方なく膝を付いてみせた。


「こほん、それでは姫様よりこれからありがたい御言葉を頂戴します。皆心してお聞きするように」


 中年女が偉そうに言うと中央に陣取っていた若い女が立ち上がり口を開く。


「皆、面を上げなさい。此度の働き誠に大義でした」


 何とも板に付いていない様子で若い女が偉そうに労いの言葉をかける。

 フェスタからすれば違和感しかない。名前を騙っているだけで本人とは似ても似つかないからである。


 フェスタから見たフェスタの上の姉、第一王女ことエリザベス=セラフ=ワイズラットとは。

 敢えて一言で表すなら『妹離れをしない甘々(シスコン)な姉』である。


 フェスタと顔を合わせば抱き付いてきて離してくれないし、侍女のメリーが来ると決まった時には「私がフェスのお世話を全部やりますわ!」と周囲を困らせ、夜中のフェスタの部屋に添い寝するために侵入しようとして近衛兵に止められたり、フェスタと二人きりのときには『ベス姉様』と呼んであげないと拗ねたりする姉だ。


 その癖、国民や家臣の前ではキリっとした顔を見せ『しっかりした淑女』の評価を受けていたりする、ちゃっかりした部分もある姉だ。

 ついでに言えばエリザベスはもっと美人である。

 黒髪のフェスタと違い、母譲りの金髪に透き通るような碧眼、白い肌にメリハリの効いたスタイル、社交界では引っ張りダコで婿も選り取りみどりです、とメリーも褒めていたぐらいである。


 引き換え、目の前の若い女だが。

 着ているものは布と仕立ては良いが町娘服で、どうにも野暮ったい感じだ。

 茶色い髪に鳶色の瞳、そばかすがあって、肌は白いし手入れもしているようだが若い割には(くす)んだ感じである。

 綺麗、可愛いと呼べなくもないが、フェスタの姉であるエリザベスと比べるのも烏滸がましい。

 そんな女性が姉の名前(エリザベス)を騙っているのが違和感アリアリなのである。


「皆の者、これより残り三日間、姫様の旅の護衛の任を与える。大変名誉なことである、心して務めよ」


 老年男の宣言に、フェスタとジバを除く全員が「ははー」と平身低頭で応える。

 そんな様子を見て、フェスタは「厄介なことになりそうだなあ」と心の中で思うのだった。

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