フェスタの冒険 盗賊襲来
フェスタたち一行を乗せた乗り合い馬車、街道沿いを順調に進んでいた。
順調と言い難くなってしまったのは、四日目の夕方近い時間帯に起こった。
この乗り合い馬車は全旅程が七日間で、途中どこの町や村にも寄らずにゲントの村とワイズラット王国の西に位置する町タルカへ直行する。
細かく言えばワイズラット王都からゲント村の停泊し、そこからタルカへ直行という運行体系なのだが。
ゲントからタルカへ直行となっている理由は、途中の街道沿いに大きな町が存在していないという事がある。
街道から離れた場所にならば町や村もあるのだが、そこへは別の乗り合い馬車を利用して向かう方が早い。
この乗り合い馬車は、あくまでもタルカに向かう最速の交通手段なのである。
そういった事情から、この四日目というのは人里から最も離れた場所を馬車が走ることになる。
人里から離れた場所となると、どうしても治安は悪くなる。
そもそも、こんな場所を行き交うのは旅人のみであり衛兵が常駐するような場所ではないため治安も何もないのだが。
そういった場所に現れる定番といえばーー盗賊である。
馬車での旅といえば、商人の率いる商隊などであれば複数の冒険者を雇って護衛を付けるのが一般的である。
護衛をケチった為に荷物も命も奪われてしまったなどという話は枚挙に暇がない。
では、乗り合い馬車の場合はどうかといえば、大体の場合は護衛などは雇っていない。
定期的に運行される乗り合い馬車に護衛を雇うとなれば不必要なコストが嵩み、それは運賃に反映されてしまい利用者も少なくなってしまう。
貴族御用達などを名乗る一部の高級乗り合い馬車ならばともかく、通常の乗り合い馬車であれば護衛はいないのだ。
では、乗り合い馬車が盗賊に襲われてしまった場合はどうなるか。
基本的には、乗客は自分の持ち金と荷物を諦めることになる。
抵抗しない代わりに命までは奪わないというのが盗賊と旅人の間にある暗黙の了解というやつである。
運が悪ければ若い女や子供などは荷物と共に誘拐されてしまい、闇市場に流されて奴隷にされてしまうこともあるが、それでも命までは取られない。
盗賊としても、抵抗されていないのに無理矢理に命を奪ったところで何の得も無く、また人を殺し過ぎれば官憲に睨まれてしまい、自分たちの討伐隊を差し向けられるようなリスクもある。
盗賊は盗賊なりに、彼らの掟に従って動いているのである。
さて、乗り合い馬車の護衛に関して例外がある。
基本的に護衛を雇わないのだが、客の冒険者がいる場合は運賃を割引する代わりに万が一の場合に護衛を頼むのである。
今回、フェスタたちの乗った乗り合い馬車にはフェスタたち以外にも三人組の冒険者風の男女が乗っており、乗り合い馬車の御者は彼らに今回の旅程の護衛を依頼していたーー万が一に備えて。
そして、万が一の場合というものは、万が一に備えたときにこそ、何故か起こってしまものなのだ。
「盗賊だ、盗賊が出た!」
その声が響いたのは陽が西に沈み始め、空がオレンジ色になった頃合いである。
御者の声と共に動きの止まった乗り合い馬車から、三人の冒険者たちが護衛の依頼を果たすべく一斉に飛び出していく。
フェスタたちは馬車の出口付近までは移動したが様子見である。
正確には、三人の冒険者と一緒に飛び出そうとしたフェスタとアリサをジバが制止して、「ひとまず彼らに任せましょう」と言いつつ外の様子を伺っていた。
商人と、若い女とその従者の計四人は馬車の中央に集まり身を寄せ合っている。
ジバが外を伺ったところ、盗賊の数は八人ほど。馬車の周囲を囲むようにそれぞれが位置している。
護衛役の冒険者たちの腕前がどの程度かは分からないが、場合によっては加勢した方が良さそうな人数差だ、とジバは判断する。
フェスタとアリサも、ジバ同様に外の様子を伺っている。
二人とも、既にいつでも戦える態勢になっている。
馬車の外では、護衛役のリーダー格っぽい剣士風の男が盗賊のリーダーらしき人物と話していたが、二言三言を交わした後に剣を抜き払う。残る二人もそれに倣い戦う態勢になった。
恐らく、盗賊に見逃すように一応は交渉してみたが、やはりというか当然というべきか、交渉は決裂し戦闘に移行するようだ。
「誰か一人でもやられたら、私たちも参りましょう」
ジバがフェスタとアリサに告げ、二人はそれに頷く。
後は戦いの行方を見守るーーと待機しているフェスタたちに、馬車で避難している三人組の一人、付き人のような中年の女が錯乱したような様子で叫んだ。
「あ、あなた達も早く外へ出て盗賊どもを始末なさい!
ここにおわすお方は、ワイズラット王国の第一王女、エリザベス=セラフ=ワイズラット殿下ですよ!
万が一があったらあなた達もただではおきません!
早く! 早く外へ行って盗賊どもを倒すのです!」