フェスタの冒険 旅行プラン
今日は英気を養うと決めたからには休む。
例え急ぐ旅の途中とあっても、休まないとどこかで倒れて結局は遅くなるのだ。
冒険者にとって、休息とは悪ではない。次に備える期間として必要な手順なのだ。
故に、急いでギルドに報告しに行くでもなく、ごく自然に宿屋の部屋へ戻ってきた一行である。
理論武装を済ませた一行は、宿屋の部屋で寛いでいる。
ちなみに三人同部屋である。
ジバは別部屋にしましょうと固辞していたのだが、アリサの「アタシなら気にしないよ、長い旅の仲間なんだしいずれは尻の穴だって見られることもあるかもしれないんだからさ」という言葉とフェスタの「そうですよ、ジバさん」という後押し。さらには二人から「一緒のパーティーなのに別部屋にするのはお金も勿体ない(です)!」というダメ押しにジバが折れた。
部屋の中でアリサやフェスタが着替えるときには完全に背を向けたり、部屋の外へ用事を済ませると言いながら出て行ったりと紳士さを遺憾なく発揮するも、フェスタには内心で(だったら解析を使う時も気を使えばいいのに……)と思われていたりもするのだが。
部屋の中ではフェスタが剣の手入れをしていたり、ジバが何やら本を読んでいたり、アリサが寝ていたりと三者三様であるが、部屋の空気は昼食前に比べれば大幅に緩んでいる。
食堂で言いたいことを言えたのが良かったのだろう、互いの距離感も近くなった感覚もあった。
「ーーところでジバさん」
剣の手入れの手は止めず、フェスタがジバに話しかける。
「なんでしょうか?」
ジバも、本から眼を離さずにフェスタに応える。
「明日はギルドへ森の件を報告として、その後はすぐに出発ですか?」
「そうですね、ギルドへの報告がどれぐらい時間が取られるかは分かりませんが、終わり次第エフィネス方面へ向かう寄り合い馬車を探して……ですかね」
「馬車ですか……うーん」
「どうかしましたか?」
「いえ、わざわざ寄り合い馬車を探すぐらいだったら城にあった馬車とか持って来た方が良かったかなーって」
フェスタの提案に、ジバが苦笑いする。
「良いんですか? アリサさんに正体がバレるかもしれませんよ?」
ベッドで気持ち良さそうな寝息を立てているアリサに視線を向けながらジバが言う。
「あっ、そうかあ……。いえ、いずれは言おうとは思うんですけど、今は言ったら引かれちゃいそうだし……馬車は止めておいた方が良いのかなあ……」
「そうですね、あと馬車を買う、とかも止めておいた方が無難ですよ」
「どうしてそれを……!」
ジバに心の中を見透かされたようになり。まさか、また解析を使われた?という疑いの視線をジバに向ける。触れられた覚えは無いが、ジバには前科があるので疑いは残る。
が、ジバは「これぐらいは解析を使わなくても分かります」と短く前置きしてから、
「彼女、武器屋でも金額にかなり驚いていましたからね、それをあっさり出した我々にも。後々を考えるとあのランクの武具でも最低限なのですが……それでもアリサさんにはかなり高額の部類みたいでしたし。
金銭の感覚にズレがあるみたいですので、我々の普段の感覚で大きな買い物はしない方が無難でしょう」
「な、なるほど。そうだったんですか……」
その辺りについて、フェスタはまるで気が付いていなかったようで、麻袋の中身を数えた時に父王の経済感覚はズレていると思ったのに、よもや自分も浮世離れした経済感覚だとは思っておらず恥ずかしい気分になった。
「まあ、旅程についてはお任せください。経由地の少ない最速の期間でエフィネスに到着できるものを私が責任を持って選びますので」
「はい、それではお任せしますね」
話している間に剣の手入れが終わったフェスタは、そこでジバとの話を打ち切った。
いつまでも本を読むのを邪魔するのも悪いと考えたのだ。
「私、ちょっと買い物して来ますね」と、ジバに言い残し夕飯の時間まで村で買物をしたり散策をして過ごした。