フェスタの冒険 修行プラン
「修行……ですか?」
フェスタが尋ねる。手には半分に割ったパンが掴まれている。
「ええ、ホーク大陸に行ける時期は遅くなりますが、今の実力のまま向かうよりは結果的に早くなると思っています」
ジバがエールを片手に喉を潤しながら答える。
この間、アリサは二杯目のエールを女給仕に頼んでいる。
「修行というのには賛成します、けど……どんなことをするんですか。」
フェスタが問う。ジバのここまでの言葉には具体性が欠けているように感じたからだ。
「そうですね。まずフェスタさんには魔物相手の戦い方を学んでもらおうと思っています。
動きを見ている限りですが、対人戦ーー木剣を使った模擬戦のような戦い方はかなり慣れているようですが、実戦に関しては動きにかなりムラがあります。
なので、どのような魔物と戦う場合でも対応が可能になるように実戦の数をこなしてもらうのと、後は私の知っている限りの戦法とフェスタさんが使えそうな魔法をお教えします。
フェスタさんに関してはそれらの練度を上げてもらうような修行になると思ってください」
ジバは一息に彼の考えている修行プランを披露する。
フェスタは、自分よりもフェスタのことを分析して理解している感のあるジバに驚きつつコクリと頷いてみせる。
「次に、アリサさんですが『力の運用法』を学んでいただこうと思っています。
冒険者としての経験からの技法で魔物と戦っていらっしゃいますが、体内の気と魔力の運用ができていません。
気によって防御力を高める練習と魔力によって攻撃力を高める訓練を、取っ掛かりの部分は私がお教えしますので実戦でその運用法を学んでください。
後は、回復魔法もお教えしますので、自分の傷は自分で治せるレベルになってもらいたいと思っています」
ジバの言葉にエールを飲む手が止まるアリサ。
魔力は知っているが、『気』という聞き慣れない概念を言われて、「それって何?」とは聞きにくい雰囲気を読みつつ、顔を引攣らせながら頷いてみせる。
「最後に、私自身ですが実戦勘を取り戻そうと思っています。
腕に自信はあったつもりだったのですが、あの有り様です。
どうにもギルド暮らしが長かったせいか実戦での感覚が鈍っているようでして。
本調子に戻るまで数をこなして実戦の勘を磨こうかと思っています」
と締めくくってから、エールをひと啜りした。
「まあ、明日にでもギルドの報告してからですけどね。私も今日はさすがにヘトヘトです。今日のところはゆっくり休んで英気を養いたいところです」
その言葉に同意しつつ、アリサがジバに質問をぶつける。
「えーとさ、修行は良いんだけど、そんな都合の良い修行場所ってのがあるのかい?」
その質問に、ジバはいつもの如く何事もない、と言わんばかりの様子で、
「ええ、神聖皇国エフィネスの付近にダンジョンが一つありまして。昔のままなら良い修行場所になってくれると思います」
「ダンジョン……ですか?」
ジバの言葉に、フェスタが息を飲むような口調で聞き返す。
「はい、古き時代に造られたと言われるダンジョンがありまして、今の我々の実力ならば丁度良いかと思います」
「エフィネスの辺りか……遠いな」
今度はアリサが感想を漏らす。
ワイズラットからエフィネスまで、馬車を使っても一カ月はかかる距離である。
「ですね。まあ、馬車の中ではお二人ともに魔法を覚えていただく事になりますので、退屈はせずに済むと思いますよ」
ニヤリ、という笑いをしながらジバが言う。
その笑顔にフェスタとアリサ、二人ともが少し嫌な予感を抱きつつゲントの村での昼は過ぎていくのだった。