フェスタの冒険 謝罪
いきなりのフェスタの叫びに、テーブル上にあった視線をフェスタに向けた二人。
二人が見たフェスタの眼には、大粒の涙が浮かんでいた。
謝るべきは自分なのに、なぜフェスタがいきなり謝り泣いているのか?
ジバもアリサも、同じ気持ちで呆気に取られてしまう。
二人にとっては予想外の流れに、ほぼ同時に口から「え、どうして?」と異口同音、声が出る。
「わ、わだじが……やく、役立たず、だっだがらぁ……ふ、二人ども……うぅ」
フェスタはボトボト涙を流す、テーブルの上は既にフェスタの涙で水溜りができてしまっていた。
フェスタの言わんとしていることに、先に気が付いたのはジバだった。
糸目のこの男には珍しく、両目をハッキリ見えるほど眼を見開いて「ああ、なるほど!」と小さい声だが、しっかりと呟く。
隣の、事情を把握しきれていないアリサがビクっと身体を震わせるように驚くほどであった。
「いえ、謝らないといけないのは私です。不甲斐ない醜態を晒してしまいまして、その……申し訳ない」
「な、なんでジバざんが謝るんでずがー、わ、悪いこどしでないじゃないですかあー!」
「そ、そうだ。悪いのは役立たずなアタシだ。ごめん、フェスタ、ジバ!」
「あ、アリサさんまでー、なんで謝るんでずかー」
交互に、三人とも謝るが、謝る度にフェスタが泣き出す。
無言の空気が重たいテーブルは混沌な空気が漂うテーブルに一瞬にして様変わりりてしまった。
収拾が付かないと判断したアリサが、席をフェスタの隣へ移りフェスタの背中を摩る。
背中を摩られながらも「わ、私が、私が悪いのに……」と、涙と鼻水をこぼしながらフェスタは譲らない。
女給仕がそっと近付いてきて、アリサにそっとナプキンを渡し、アリサがそのナプキンで涙と鼻水を拭ってやる。
ナプキンを鼻に当て「チーン」と鼻を噛ませたところで、ようやくフェスタが少し落ち着いた。
「じゃ、じゃあ、お二人ともパーティーを抜けるとか……言わないですか?」
というフェスタの言葉を聞いて、ようやくアリサはフェスタが何に対して泣いていたのかを悟る。
ジバは一連の流れをずっとオロオロしながら見守っていたが、フェスタの意図は何となく察していた。
「当たり前じゃないか、死にかける程度でパーティー辞める奴はいないよ」
アリサの言葉に、ジバも頷き「その通りです」と同意を示す。
二人の行動を見て、フェスタが笑顔になった。
花の溢れるような、そんな笑顔である。
「良かった、こんな事があって、お二人がパーティーを抜けると言われたらどうしようかって」
「心配し過ぎだよ、命を助けてくれた仲間を裏切るような真似はしないさ」
「そうです、申し訳ないのはお互い様ですし。それよりもこれからの事をどうするかを決めましょう」
フェスタの安堵の言葉に、アリサもジバも、同じように安堵しつつ思うところを語る。
テーブルに充満していた緊張した空気が和らぐのを見計らったかのようなタイミングで、テーブルに三人分の昼食が置かれた。
というか、女給仕はずっと『あのテーブル、空気重いなあ、行きにくいなあ』と昼食を運ぶタイミングを見計らっていたのだが、ここだけの話だ。
先ほどよりは、三人とも胸の支えが降りた状態で食事を摂りながら話を再開する。
「んで、これからって、どうすんのさ」
「まあ、差し当たってはギルドへの報告ですね。森の件はそれで終了です」
「その後ってことですよね? どこに向かって旅する、とかの」
豚バラ肉と野菜の煮込みを食べながら、三人が現状を確認するように話す。
「はい、それについて私に考えがありまして。ですが、それですとフェスタさんの思うような『なるべく早くホーク大陸へ』という目標から外れてしまいます。なのでご相談を……と思うのですが」
「その考えって?」
「我々、全員が力を付けねばならない、と思うのです。魔族の対抗するために、ですね。その修行に向いた場所に心当たりがあるのですが、いかがでしょうかね?」
ジバが並んで座る二人に、そう持ちかけるのだった。