フェスタの冒険 二人の思い
アリサは非常に気まずい思いをしていた。
フェスタと名乗る少女の仲間になって、僅か三日の間に、二度、二回も戦闘不能になってしまった。
しかも、うち一回は瀕死の重傷を負っての完全に言い訳しようもないレベルでの戦闘不能である。
あまりの自分の情けなさにフェスタの顔を見ることさえ憚られる思いだ。
宿屋の食堂で、連れ合いもいないからと思って、パーティーは解散してしまった愚痴を聞いてもらう話し相手になって貰うか、と軽い気持ちで話し掛けたら、いきなりパーティーに勧誘されて。
旅の伴をする報酬と言われて無くしてしまった新しい武器と防具を買ってもらえば目玉が飛び出るほど高価な装備を買い与えられ。
せめて旅の間の働きで借りを返そうと張り切ってはみたものの、結果は二度も短期間に気を失っての戦闘不能と、まるで良いとこ無しである。
このままフェスタから「その装備、全部売っ払ってその金を返して故郷に帰りなさい。足りない分は送金してでも返して」と言われたとしても返す言葉もない。
食事にしようと村の酒場へやって来たが、食べ物など喉を通るか分からないほどに気分はヘコんでいる。
せめて飲み物を、と女給仕に人数分の飲み物を頼んでみたが、エールの味さえ感じないほど落ち込んでいた。
ジバは、何を考えても出てくるのは『反省』の一言である。
あの瘴気の湖を見た時点で森を抜け出るべきだったのではないか。
魔族を初めて見たわけでもないのに、フェスタとアリサをどうやって逃すかを考えるまでに何か攻撃を仕掛けておけば、あの魔族を牽制して、いきなり自分が殺されてしまってパーティーを危地に陥れることはなかったのではないか。
それ以前に、自分の装備のことをある程度は知らせておいて良かったのではないか。
自分の使える、知っている魔法や技を、二人に教えておけば良かったのではないか。
今となっては、幸運としかいえない経緯で助かったからこそ、こうやって思い悩むことができるものの。
自分の準備や行動の甘さに反省の弁しか出てこない。
フェスタが「魔王を倒すどころじゃありませんね……」と小さく呟いた。
ジバは彼女の言う通りだ、と自身を情けなく思う。
あの魔族と相対した時に、適切な指示を出すべきであったのはパーティーの頭脳たるべき魔術師の自分がすべきことだったはずだ。
それが、魔王ですらない、ただの魔族と遭遇しただけで冷静さを欠いてしまった体たらく。フェスタにそう言われてしまうのも仕方がないと言わざるを得ない。
何を考えても袋小路に入り込んでしまい、何かを話すべきと分かっていても何も思い浮かばない。
せめて、話の切っ掛けとなれば、と思い二人を昼食に誘うことにしたのだった。
『腹が減っては戦はできぬ』、ジバの友人が好んで使っていた言葉だが、敗戦を経て何とか帰還できた今、その言葉に一理あると思わされる。
ジバ自身が、半日しか森を探索していないのに、尋常ではなく身体は疲れていてエネルギーを欲している。
重い気分のせいで空腹は感じていないが、何か食べておかないと思考するためのエネルギーすら足りていない。
女給仕に全員分の食事を注文するとき、アリサが飲み物を追加で注文したことでさえ、普段ならば誰に言われずとも気が回せる部分にさえ、今の自分は気が付けなくなってしまっているのか、と反省しなければならない有り様であった。
テーブルには飲み物だけが届いているが、アリサがエールに手を伸ばしただけで、ジバもフェスタもその飲み物を手に取ることすらできない。
せめて、現状を崩すことができるだけの材料はないものかーーそう考えるも、良いアイデアは浮かばず。
テーブルは重い空気に支配されてしまったままであった。
ジバも、アリサも。空気が重いのは分かっていても口を開くことができない。
どうしよう、と二人共が思いながら時だけが過ぎようとしていたのを止めたのが、
「ごめんなさいっ!」
という、フェスタのいきなりの叫びだった。